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異世界天誓  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】
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第百八十八話【出発準備】



 ヨロク北方にてカストル・アポリアという場所を訪れたこと。

 それが国と呼べるだけの発展を遂げていたこと。

 そこでゴートマンと接触したこと、しかしその地と魔人の集いとは無関係である可能性が高いこと。

 そして、ゴートマンの魔術の発動を確認したこと。


 私はそういった収穫の全てを皆に説明し、改めて作戦を考えるように提案した。

 何か抜け落ちているものは無いか、と。


 失敗はつまり、ゴートマンの脅威がもう一度立ちはだかるということ。

 この機を逃せば、今度はいつになるか分かったものではない。


「最大目標は魔人の集いの解体。ですが、まずはゴートマンの捕縛を最優先とします」

「あの魔術がある以上、こちらは軍を向かわせることが出来ません」

「であれば、規模の知れない集いそのものを解決するよりも先に、後に脅威となる存在を排除してしまうべきです」


「うん、そこは賛成だね」

「けど、当然そんなのは向こうも……魔人の集いってのがまともな組織だとしたら、だけど。そんなことはやっぱり分かってるだろうから、まずそこを守りに来るだろうね」

「最悪、北の北……ダーンフールよりもっと北、アルドイブラか、もっと向こうまで隠される可能性もある」


 そうなった時――ゴートマンを捕まえられなかった時、どうするか。


 ダーンフールを解放すれば、そこに拠点を設けられる。

 そしてゴートマンが魔術の再発動を可能にする前に捕縛する。こうなれば理想的だ。


 気にすべきは、ダーンフールを解放出来なかった場合、或いは解放出来ても拠点を設けられる状況に無かった場合だろう。


 もしもそうなってしまったならば、私達はヨロクを拠点にして行動しなければならない。

 それではやはり、捜索の効率は下がってしまうだろう。


「ま、何はともあれ進めるとこまでは進まないと話になんないね」

「そのカストル・アポリアでは補給の協力は約束して貰えたんでしょ? だったら、今回の遠征でさっさと北を解放しようか」

「ダーンフールも、それにアルドイブラも」


「そうですね。北部に拠点さえ設けられれば、そして捜査網を敷くことが出来れば、ゴートマンの捕縛もずっと簡単になります」

「その為にも、まずは下準備をしっかりと終わらせてから、ですね」


 さて。そうなった時に、まずは何から手を付けるか……だ。


 このまますぐに出発してダーンフールを目指したとして、果たして何ごとも無く辿り着けるだろうか。

 私とユーゴとエリーだけでもカストル・アポリアまでは行けたのだから、しっかりと装備を固めた部隊ならばそう問題も起こらない筈?

 いいや、そう簡単な話ではない。


「今回の遠征で最も避けたいことは、カストル・アポリアと私達の関係を疑われること……つまり、かの国に被害が及ぶことです」

「なので、補給も最小限……叶うのならば、行きにはカストル・アポリアには立ち寄らず、ダーンフールの解放後に補給ルートを確保する形を取りたい」

「今回の結果がどうであれ、彼らの協力は失いたくありませんから」


「そうだね。心情、責任感、そして信念みたいなものを全部抜きにしても、補給出来る場所を失うってのは、当然活動に制限を設けなくちゃならなくなるってことだから」

「手を貸してくれるんだったら、絶対に大切にしなくちゃなんないよね」


 ダーンフールに向かうまでに、物資をどれだけ要するのか。

 そして、ダーンフールを解放するにあたって、どれだけの資金を投入しなければならないのか。

 ダーンフールを解放出来なかった場合、カストル・アポリアからの補給を受けてどこに拠点を設けるのか。

 今の段階で考えるべきことは多くある。


「この件について、バスカーク伯爵とも相談しようと思っています」

「ですが、あの人物に頼むのは、ダーンフールよりも更に北の調査……今回の遠征の、その更に先を任せようかと」


「ダーンフールについては俺達が直接出向いて調べるから……だけじゃないね」

「調べて貰って、安全確認して、それから出発じゃ遅い可能性がある」

「ゴートマンの魔術が再使用可能になる前に、確実にあの街までは行っときたいってことだよね」


 そう、その通りだ。

 ジャンセンさんは本当になんでも察してくれるというか、なんでも見通してくるというか。


 伯爵の調査能力は間違いなく高い、それはもう疑う余地など無い。

 これまでにも何度お世話になったか分からないその高過ぎる能力だが、しかしひとつ問題もある。


「遠方の調査の場合、調べていただいてから出発では、現地の状況が変わってしまっている可能性もありますから」

「今回のように時間に制限がある場合も然りです」

「あの人物の能力を最大限に活かす局面は、こちらから動く場面よりも、何かをされる可能性を摘み取るという場面でしょう」

「ならば、ダーンフールは私達だけで解放し、そこの防御に助力いただくのが最善だと考えました」


 伯爵とて万能ではない……というよりも、伯爵の能力を万全に引き出せるほど高い軍事力が、私達に備わっていない。

 国軍も、街の兵士も、国内のあらゆる武力を総動員出来れば、彼の指示を伝えるだけでかなり強固な防御力を得られそうなのだけれど……


「その辺はどうしても、この特別隊を立ち上げる為に色々工面しちゃったのがね」

「いやいや、そうとなったら俺達が頑張らないとなんだけど」

「残念ながら、期待して貰っても人数はどうやったって増えないもんだから。申し訳ない」


「いえ、謝られるようなことでは。しかし……そうですね。ううん」

「特別隊さえあれば……ジャンセンさんやマリアノさんに協力いただいて、それにユーゴまでいて」

「これだけいれば、国軍を動かせなくても大丈夫だろう……と、そう考えての決断だったのですが……」


 よもやここで、国軍に頼らねば解決しない数の問題に直面するとは。


 特別隊の規模はそこまで大きくない。

 彼らの活動拠点は確かに広く点在しているが、やはり国が正規に雇っていた軍人の方が数は多いものだから。


「さて、そうなると、その伯爵殿にも今回の作戦は手伝って貰えない、と。正真正銘、俺達だけでダーンフールまでは解放しなくちゃなわけか」

「ま、戦力自体は申し分ない。姉さんにユーゴがいて、隊の中でも実戦経験積んでるやつらを連れてくわけだし」


 だったらなんとかするよ。と、ジャンセンさんはそう言って地図の上に印を打ち始めた。

 それが何を示すものかはすぐには分からなかったが、しかし彼の言葉が何を意味するのかはすぐに分かった。

 いや、すぐに直接言われてしまった、のだけど。


「フィリアちゃんはその伯爵のとこ行っといで、今からでも。兵の運用なら姉さんと俺でも考えられるからね」

「今は一秒すら惜しい……とまでは言わないけどさ」

「調査依頼するのが遅くなればさ、ダーンフール解放した後にもまだ調べてる途中……なんてことにもなりかねない」

「そっちのロスはいただけない。だから、調べ始めは早めた方がいい」


「そうですね、承知しました」

「では、現在宮から持ち出せる資金と、それから国軍から借りられる装備について纏めた資料を置いて行きます」


 今回の作戦は全て任せろ。と、ジャンセンさんは自信ありげな顔でそう言っているのだ。

 やはり頼もしい……のと同時に、どうにもカストル・アポリアについて聞いてから、それと張り合っているようにも見える。


 彼としては、あの国は届かなかった理想を実現させた結果のように見えるのだろう。


「では、伯爵にお願いをしたらすぐに戻ります。丸投げになってしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


「うん、全部投げて任せちゃって。ちゃんと応えるからさ」


 私はジャンセンさんとマリアノさんに頭を下げ、そして他の若者達にも頭を下げて拠点を後にした。

 ユーゴはなんだか退屈そうにしながら付いて来たが……もしかして……


「……こちらに残りたかったですか? というよりも……戦う為の作戦を立てる方が魅力的でしたか? 貴方にとっては」


「……まあ、そんなとこ。バカプリンのとこ行ってもな……別にテンション上がんないし……」


 もう。どうしてこうも戦うことにばかりやる気を出すのだろう。

 もっとも、残ったとしても戦う為の策ばかりを立てるわけではないのだが。


 どちらかというと、戦うとなった場合の備え……或いは、戦うことを想定した上での移動用の備えだろうから。


 不満げではあるが、しかし文句は言わずに付いて来てくれるユーゴと共に、ゴルドーに馬車を出して貰って、伯爵の住まう屋敷……山のふもとの洞窟を目指した。


 こういう時にエリーの運転でないというのは、少しだけ久しぶりだな……なんて。

 そんなことに寂しさを感じている場合でもない。


 ダーンフールの解放は必ず成功させる。

 そこから北も一気に解放する。

 そして、一刻も早くゴートマンを捕まえるのだ。

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