二章 connecting 1
新年あけましておめでとうございます。
やっと二章に入りました。今回はフラン視点です。
今回からはそれぞれの独白調ではなく、地の文や説明文のみにするつもりです。
ではどうぞ、よろしくお願いします。
国から全国の中高生に、ファントム・トゥーレが配られて初の日曜日、葵・ソフィア・フランチェスカは自室で悩んでいた。ため息をつくと、珍しくポニーテールにした銀髪が一房、肩から滑り落ちた。
フランは、家にいる時間を宿題にとられたくないので、平日のうちに、しいては学校の休み時間に、宿題を終わらせている。そのため、日曜の今日も宿題に追われる事はなく、朝からロシア人の祖母が送ってきた本を読んでいた。だがそれも読み終わってしまった。
一体これから何をしよう、ともう一度フランがため息をついたとき、机に置いた携帯から着信音が響いた。何だろう、とフランは首を傾げながら携帯を手に取る。
着信はミズハからだった。前回のフルート教室からの帰り、意気投合したフランとミズハは連絡先を交換したが、それ以降、連絡はなかった。
そのミズハがなぜ、と思いながらフランはミズハのメッセージを読み、返信した。その後、フランはファントム・トゥーレを装着した。ミズハに、ファントム・トゥーレ内で、フレンド登録をしたいと言われたのだ。
ローディングが終わると、フランが前回ログアウトした地点が眼前に映し出された。
ファントム・トゥーレ内では、時間の流れが現実世界と一緒だ。もちろん、人間には睡眠が必要なので、少なくとも7,8時間はログアウトする。そして、ファントム・トゥーレは普通のゲームとは違い、プレイヤーがログアウトしても、アバター自体は仮想世界に残る。
端的に言うと、プレイヤーがログインしていないアバターは、周りからは魂の抜けた人間のように見られるのだ。
フランも一度、草原でログアウトしたことがあり、その次にログインしたら所持金や持っていたアイテムが消えていた。
仮拠点、と呼ばれる中央広場に自身のアバターが出現して、訳も分からず、数分か唖然としていたのを覚えている。それがログアウト中にモンスターに襲われたからだ、と気づいたのはさらにその数日後だ。
フランがモンスター狩りに行った時、ちょうどログアウト中のアバターをモンスターが襲っているのを見かけたのだ。生憎、遠くの方での出来事だったのでフランは助けに行けなかったが。
それから、フランはログアウトするときには街中の、さらにプライバシーの確立された宿の部屋でログアウトするようになった。ここはゲーム内なので、そういった犯罪は起きないと信じたいが、念のため。
フランは自身の借りている部屋を出ると、街のはじの方にあるヘリオス聖台の方へ向かう。普通、教会は街の中央にあるのでは、とフランは思うが、そもそも教会ではなく、聖台なのだ。
きっとこの街は宗教が人を集めたのではなく、人が集まったから、宗教が生まれたのだろう。
ヘリオス聖台に着くと、なんとなくフランは聖台の近くにある長椅子に腰かけた。明るい色の石のみでできた長椅子だが、背もたれのはじに細かく繊細な彫刻が彫られている。
この彫刻を、フランはどこかで見たような気がするのだが。一体、どこで見たのだったか。記憶を掘り返してみたが、イメージがつかめそうで、つかめない。とても、とても、もどかしい。
だが、フランに後ろから声がかけられたので、フランは一旦、聖台の彫刻について考えるのをやめた。
「あ、葵さん。突然連絡してしまってごめんなさい。予定は大丈夫だった?」
フランは予想と違う声に瞬いたが、ここが仮想世界の中であることを思い出した。ファントム・トゥーレ内では、声に少し違和感があるのだ。風景が現実にとても似ているため、フランは人の声もそうだとばかり思っていたが。
フランは後ろを振り向き、予想通りの顔に頬を緩ませた。まあ、名前を呼ばれているのに、その相手が知らない相手ならばとても恐ろしいが。
しかし、アバターの顔が変えられない、というのは不便だと思っていたが、友人と会う際に顔を見るだけで分かるので、意外と便利かもしれない。
そう思いながら、フランはミズハに話しかけた。
「こんにちは。予定とかは特になかったから、心配しなくていいよ」
「それなら良いのだけれど…。あ、そういえばなんだけど、葵さんの呼び方、現実と変えた方が良いかしら?」
「え? どうして?」
フランが思わず問い返すと、ミズハは少しうつむいた。
「その…、これは私の場合なんだけど、現実世界の人間関係にまで持ち込みたくなくて」
「あー、確かにね。じゃ、私の事はソフィアって呼んで。私は…、レナって呼べばいいのかな?」
「う、うん。あの、どうして、私のアバター名が分かったの?」
ミズハは心底不思議そうな顔をした。フランは、誰でも知っていることだ、とばかり思っていたので、ミズハの質問の意図に気付くのが遅れた。
「あぁ…、ほら、私の頭上に『ソフィア』って英語であるでしょ? どうも、一定時間、1メートル以内にいると、その相手のアバター名が見えるようになるんだって」
フランの説明にミズハは納得したような顔をした。
「そうだったのね…。あ、ソフィア。アバターの満腹度、下がってない? 一旦、広場に戻って、軽食をとらない?」
早速、ミズハがソフィアと呼んでくれたことに感謝しながら、フランはミズハに一つ、提案する。
「ねぇ、どうせだったらパーティ組まない? 軽食をとったあとに、街の外に出てモンスター狩りしようよ」
ミズハは、フランの提案に頷くと、そういえばフレンド登録するために呼んだのに、登録してなかったわね、と微笑んだ。
読んでいただき、ありがとうございました。
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