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夢現、そして仮想  作者: 藤菜
第一幕 策謀
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一章 賽は投げられた 5

 ナオにアバター名を何にしたか聞きたかったのに、なぜか怒っちゃった。ただ後ろから抱きついただけなのになぁ。うーん、謎。怒ってたから追いかけようと思ったのに、あの人…えっと名前は…そうだ、ヒラマサさんに説教されちゃったし。あ、ヒラマサさんじゃなくてヒラマサ先輩だったー。

 むぅ、と口を尖らせると隣の席の…、何て名前だっけ? とにかく隣の席の人に話しかけられた。


「汐月さん、どうしたの? もしかして、アバター名をどうするかとか考えてる?」


 それのみを考えていたわけではないが、原因はそれだったので、(うなず)いた。あ、そうだ。この人にもアバター名を何にしたか聞いてみよう。


「うん。ねー、アバター名って何にした―?」


 隣の席の人は少し考えこんだ後、答えた。


「んー、さすがに名前は恥ずかしいから言わないけど、私は最近読んでる小説の好きなキャラの名前にしたよ。友達はあだ名からアバター名を決めたみたい」

「そっかー、ありがとー」


 先生の方向に向き直って考える。

 私の名前「汐月雪那」から取るとしたら…、シオとかツキはすぐにばれそうだなぁ…。どうせだったら「汐」とか「月」の外国語訳にしよう。

 でもなー。「汐」って外国語じゃ「塩」との区別がつかなそうだし…。よし! 「月」の外国語訳にしよっと。

 私が顔を輝かせて前を向くと、ちょうど教室内を見渡していた先生と目が合った。

 …あれ?

 そう思って周りを見渡すと、皆先生と目が合わないようにしてる。ついでに言うと、黒板にはめっちゃくちゃ難しそうな数式が書かれてる。

んーと、これは嫌な予感がする。


「おぉ、汐月。そんな顔をしたということは、この数式が解けたんだな。よしやってみろ」


 普段の授業態度が悪いからか、腹いせに中3には解けない数式をみんなの前で解かされた。先生…ひどい…。



「汐月さん、大丈夫ー?」


 そう言ってクラスメートの一人が肩を叩くけど、正直それに応える気力すらない。いや、あの数式を解いた後、先生が他の難しい問題もどんどん私に解かせて、現在、疲労困憊(ひろうこんぱい)です。

 一応全部解いたし、他にああいう問題が解けそうな人がいないのも分かってるけど、でもやっぱ、先生には恨みしかない。

 はあぁぁぁあ、と大きなため息をつくと、周りが少し退いたように感じた。なんで?


「やっぱり汐月さんって頭いいんだね」

「ね。外見は結構のんびりしてそうなのに、黒板の数式解くときはすっごい早く手が動いてたじゃん。あれ驚いた!」

「ねー。しかもあんな数式解けるなんて先生も思ってなかったでしょ。実際驚いた顔してたし」

「てか、ずっと数式解かせてたけど、もはや途中から高1の問題どころか、見たことない数式になってたよね」

「あーあれ、もはや汐月さんの実力がどれくらいか試してなかった?」

「ほんとそれー」


 耳にこんな会話が入ってきた。えー、先生、解けないと思ってた数式なのに、私に解かせたの? なんでー?

 やっぱり私の授業態度が悪いから、ここぞとばかりに解けないだろう数式を解かせて、そのまま説教に持ち込みたかったのかな? だったら悪い事しちゃったかなぁ。

 ま、いいか。どうせあの数式なら大体の人が解けるだろうし。

 そう気を取り直して、またぼんやりしてたら、次の授業のチャイムが鳴った。我に返って、周りを見渡すと、一人を残して誰もいなかった。


「あの、汐月さん」


 えーっと、多分今日の日直、かな?

 そう思って黒板を見た。日付の下には「(やなぎ)」と書いてあったから、目の前にいる人が柳くんなんだろう。


「次、実験だよ」


 実験かー。って実験だったら実験室行かなきゃだな。


「分かったー」


 そう柳くんに応えて、教室をでる。



 もちろん、理科の先生に大目玉を食らったことは言うまでもないこと。




 学校帰りの電車で席に座っていると、一人、女子学生が乗り込んできた。日本人の顔立ちだけど、肩先までの金髪で、一束だけ三つ編みにしている。目はこげ茶色だ。

 正直、セーラー服を着ていなかったら、小学生だと思ってたと思う。低身長なのもあるけど、どこかあどけない顔立ちをしているから、彼女を幼く見せている。

 でも、なんか見たことあるんだよなー。どこでだっけ?

 ていうか、見たどころでなく名前も知っている気がするんだけどな。うーん、(のど)の奥まで出てきてるのに、出てこない。そもそも、人の名前なんてほとんど覚えてない私が、ここまで覚えているのは珍しいことなんだけど。



 何とか思い出そうとしているうちに、その女子学生は電車を降りていった。駅も私の最寄りとは2駅も(はな)れていたので、小学校の頃の友人、という線はなしだな。


 そう思いながら、ナオの瞳みたいな夕焼けを見ていた。

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