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夢現、そして仮想  作者: 藤菜
第一幕 策謀
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一章 賽は投げられた 4

 部活の帰りに電車に乗ったら、ミズハに会った。

 今日学校で配られたVRの機械をミズハが持っていなかったので、なぜかと尋ねたら、習い事に行くときにいつも迎えの車が来ており、そのまま車に置いてきたそうだ。さすが金持ち。

 最寄り駅に着くと、駅前に車が止まっていて、そこに当たり前のように乗り込んでいくミズハだった。


 余談だけども、私は中3になってスマホを変えたのだが、メッセージアプリのアカウントの引継ぎを忘れてしまった。

 それをミズハに教えるのを忘れてしまい、そのせいでミズハと連絡を取りたくても取れなかったのだ。私がミズハとは電話番号やメアドを交換していなかったのも原因ではあるのだが。

 まぁ、さっき電車内で連絡先を教えたので、あとで連絡が来ていることだろう。


 家に帰ると、なんだそのゲーム機は、と父に訊かれ、母には無駄使いしたと思われた。二人とも、学校からのメールは見なかったのかと呆れた。まぁ、日常生活の中でスマホをほとんど見ずに生きている二人だから、メールの通知に気づかなかったんだろう。


 夕食を食べた後、ファントム・トゥーレがインストールされた機械を装着し、アカウントを作った。

 今日、学校で配られて、すぐ設定するのかと男女共に性別を問わずワクワクしていたというのに、担任は

「あー…今日、俺の受け持ってる教科ないだろ。それにこれ配ったせいでHRの時間もなくなったし。だから今日家帰ったら設定してこい。分からないことがあったら明日俺に訊けばいい」

 と、期待を見事に裏切った。全く、機械音痴を隠そうとするとは、汚いな。


 アカウントを作り終わると勉強をした。私は天才ではないのだから、コツコツ勉強をしなければならない。

 本当は、トゥーレで遊びたいのだが、あいにく数学の小テストが迫っている。

 今日、数学の授業で来週に小テストがあることを知らされたのだ。

別に明日も数学の授業はあるのだから、明日言えばよかろうに。今日は色々とバタバタしていたことだし。


 天才、といえば、私が通っている国立日澄嶺学校では頭の良い人が異様に多い。そのせいで試験問題もとても難しく、また平均点も高い。

 確かに天才と言えるほどに頭の良い人が多かったら、ほとんどの教科で満点を取るから、成績が付けにくいのだろうが、私のように勉強よりも運動の方ができる人間からすると、とてもやりにくい。


 そうため息をついて時計を見ると、もう就寝時間だった。私は急いでお風呂に入り、寝た。



 次の日、通学路を歩いていると背中を衝撃が襲った。それと同時に聞き覚えのある声がした。


「やっほーー、ナオー」


 語尾を伸ばす口調は、珍しい方だが少ない訳じゃない。ただ、普通に語尾を伸ばす人は絶対にしないことを、後ろの人は現在進行形でしている。

「昨日ねー、アカウント名変えようと思ったんだけどさー、名前をどうするか決められなくてー」

 ナオはどうした? と朗らかな声で聞かれたものの、私はそれにこたえられるほどの余力がなかった。余力よりも生命の危機を感じた。


「ちょっ、死ぬっ、死ぬっ!」


 後ろから抱きつかれている。それはまだいい(いや良くないが)。問題は手が私の首に巻き付いていることだ。しかも体重がかけられてきつく締められている。

 だが、私はコイツの天然の度合いを忘れていた。


「えー? 『シヌ』って変な名前―。どーしてそんな名前にしたのー?」


 話が伝わらない。そろそろ視界が狭まってきた。


「お、おい、汐月。お前、赤瀬川の首絞めてるぞ」


 天の助けとばかりに声を掛けてきたのは一学年上の平正(ひらまさ)義斗(よしと)だ。

平正先輩は裁判長と警官の息子で、父親に影響されたらしく、とても正義感が強い。どれほどかと言えば、前に政治家が汚職で逮捕された時に、テレビ越しに怒鳴って、そのテレビを壊しかけたことがあるほどだ。

 さらに警官の息子ということで、護身術を身につけており、勉学にも昔から精を出していたらしいので、学年の上位5パーセントに入るほどに頭が良い。誠実な性格も相まって、男女問わず絶大な人気を誇っている。

 ちなみに、なぜ一学年上に加え学校内の人気者が私たちの名前を覚えているのかといえば、前にもこのようなことが何度かあって、毎回セツナを止めているうちに名前を覚えてしまったそうだ。


「えー? あー、ごめーん」


 ごめんも何もあるものか。危うくこちらは死にかけた。

 そう睨みつけても、私を殺しかけた少女——汐月(しおつき)雪那(せつな)は笑うばかりだった。

 私は嘆息(たんそく)し、セツナに苦言を(てい)した。


「全く、なんで首絞めるんだよ。本当に死んだらどうするんだよ」

「えー? 首絞めたつもりはないんだけどなー。それに、死んじゃったら死んじゃったってことで―?」


 そう、セツナはちょっと、いやかなり、天然が過ぎる。そのせいで、何か変なこと言ってしまっても気付かれないのだが。

 まぁ、この状態じゃあ何を言っても無駄だな。平正先輩もそう思ったらしく、呆れたように息を吐いた。そして大きく息を吸った。あ、これはセツナに平正先輩からの雷が落ちそう。

 説教は平正先輩に任せようと思って、私は学校に向かって歩き出した。


「あー! ちょっとまってよー! ナオ―!」

「いや、汐月。お前は俺からの訓話をしっかりと聞き入れろ。その後で赤瀬川を追いかければいい」

「えー?」


 セツナと平正先輩の対話を背中で聞きながら。

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