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夢現、そして仮想  作者: 藤菜
第一幕 策謀
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一章 賽は投げられた 3

 レッスンが終わると、ファントム・トゥーレの話へと戻った。葵さんは、ロシア人とのハーフで、日本語も話せるのだが、顔立ちが外国人のように彫りが深いので、周りにいつも一歩引かれてしまい、あまり友人が増えないらしい。私は、葵さんが綺麗だから周りが嫉妬しているのだと思う。

 今も、通り過ぎていく人が葵さんの事をちらちらと見ているのだから。この国では珍しい銀色の髪に翡翠色の目は人の目を惹きつける。さらに顔立ちも整っているとあらば、男子たちが放っておくはずがないだろう。

 あぁ、でも葵さんは女子高に通っているのだったから、男子にモテることによる嫉妬はあまりないのか。


「そういえば、更級さん。ファントム…長いからトゥーレって呼ぼう。あれってどうしてタブレットの一律配布より早かったんだろう」

「さぁ…。でも、確かに不思議よね。どうせトゥーレを配るんだったら、タブレットも配布しちゃえばよかったのに。

そういえば、小学校には配られなかったらしいわね。どうしてかしら」


 この国、大和は戦後すぐに小学校、中学校のみが義務教育となっていたが、高校で勉強することで就職に役立つものがある、それを学ばせないのは憲法に反する、との活動が巻き起こった。結果として政府が折れ、高校も義務教育となった。また、中学を卒業したら働かなければならない家庭には高校在学中のみ支援金が出されることとなった。その代わり、税も上がったが。


「あ! やっぱり小学生は何をするのか分からないからとか!?」

「あぁ…、たしかにそうかもね」


 憶測の域を出ないが、きっとそういうところだろう。ときどき見る小学生は、たった2年前に小学生だった私ですらも想像ができないことをしてしまう。


 他にも世間話をした。思っていたよりも学校独自の取り組みや雰囲気がある、と知り驚いた。でも、私の学校での常識を話すとなぜか葵さんに畏怖の目で見られた。やはり、宗教団体が運営している学校では特殊な行事があるようだ。

 でも、私は葵さんの通っている私立乙霧女子学院も結構珍しいことをしているのではないかと思う。公立の中学校とは違って、私立だからということもあるだろうが、授業進度がとても速く、中2時点で中学生での学習内容をすべて終わらせ、中3ではもっと発展的な内容やフィールドワークをするらしい。

 私もそういった活動をしてみたい、と言ったら葵さんは照れくさそうに笑った。



 あっという間に時間が経ってしまい、葵さんが最寄り駅で降りた。その次の駅で乗ってきた女子生徒に私は思わず声を上げてしまった。

「…ナオ…?」


 乗ってきたのは小学校からの友人、赤瀬川真だ。最初に会った時、珍しい容姿なので少し気後れしてしまったのを今でも覚えている。

 ナオは、色素が薄い。親は黒髪黒眼なのに、ナオは髪が(はしばみ)色、目は暁を写し取ったような朱色。一度、髪は朝焼け、目は夕焼けみたいだからトワイライトみたい、と言うと変な顔をされた。

 ナオのことをずっと見ているとさすがに相手も気づいて、近づいてきた。1年ぶりくらいに見るので、やはり背が伸びたり顔立ちが大人びた気がする。

 ただ、私はナオが私服の時しか見たことがなかったので髪型がポニテのイメージしかなかったのだが、頭の高い位置にお団子を作っている。お団子に髪をまとめると、ナオの髪の色の濃さが増している。

 ナオの髪は、昼間の光できらめくので素敵だったが、お団子も似合っているな、と思った。


「瑞羽だよね?」


 ナオがおずおずと言った様子で訊いてきた。あまりナオは物怖じしない性格だった気がするのだが、最近会っていなかったせいもあって私の記憶に誤解が生じているらしい。

 ナオの言葉に頷くと、ナオは顔をほころばせた。


「久しぶりだなぁ。あれ? でも私は部活に入っているけどミズハはたしか入ってないよな。なんでこんなに遅いんだ?」


 最近話していなかったから忘れていたけれど、そういえばナオは口調が男っぽいのだ。しかも小学生の時、ナオの通っていた小学校は私服での登校だから、服装も男子のように身軽だった。私は初めの1年間ほど、ナオは男子だと思い込んでいて、ナオが女子だと知った時にとても恥ずかしい思いをした。


「今日は習い事があって。ところでその荷物は何? 部活の?」

「あぁ、これか。今日VRゲーム配られただろ?」

「あぁ、トゥーレか」

「? トゥーレって?」

「ほら、ファントム・トゥーレって長いじゃない。だから短くしちゃおうってなったの」

「誰と?」

「習い事の子…って誰だと思ったの?」

「彼氏とか?」


 思わず口を開けてナオを見てしまった。ナオは笑って


「なんだ~、いないのか~」


 と言った。これ以上言うと墓穴を掘りそうなので黙る。


「…って、ミズハ! なんでトゥーレ持ってないんだ!?」

「何でって、今日は習い事行ってたから、運転手が学校に車回してたのよ」


 いつもの事だから、と付け足すと唖然とした顔を向けられた。そんなに変なことを言っただろうか。車が来ていたらかさばる荷物は置いていくものだろうに。


 そう話していると最寄りに着いた。最寄りには迎えの車が来ていたので、ナオと別れて車に乗り込んだ。

 家に着くと習い事の前に頼んでいたように、机の上にトゥーレが置いてあった。まだ夕食までに時間があるので、アバターを設定しようと、機械を装着した。

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