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夢現、そして仮想  作者: 藤菜
第一幕 策謀
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2章 connecting 4


「フランに何してんのー!」


 訳が分からない。見知らぬ人、しかも男性に話しかけられて、困惑していたのに。その男性は距離を詰めようとしてくるし、なぜかアマネがいて、毒を青年に投げるし。

 色々とありすぎて、もはや、思考を放棄(ほうき)し始めた。

 そんなフランの前で、アマネが青年と睨み合っている。


「君は一体、どこの誰かな? いや、そんなことよりも、君は初対面の人間に毒入りの小瓶(こびん)を投げつけるのが習性なのかい? 信じられないな」


「勝手に私を変人にしないでください。それに、ここは仮想世界ですし、街の中なのでHPも減りません。別に問題はないでしょう?」


「君はばれなければ犯罪をしてもいい。いや、損害が無ければどんなことでもしていいと、勘違(かんちが)いしているタイプなのかな。おかしいと思うよ」


「勝手に論題をすり替えないでください。そもそも、初対面の女性の手を、本人が嫌がってるにもかかわらず掴むとは、どういうことですか? たとえゲームの中でも、モラルは守るべきでは?」


「僕はこのお嬢さん、フラン、だったね。少しお(しゃべ)りをしたいだけだよ」


 果てなき宇宙の彼方へと行っていたフランの思考が、本名を呼ばれたことによりフランの身体へと戻ってくる。しかも、本名を言ったのは、現実での知り合いであるアマネではなく、初対面の男性だ。これは見過ごせない。


「あの、なんで私の名前を知っているの?」


 そうフランが訊くと、二人とも虚を突かれたように黙り込んだ。数秒後、青年が口を開く。


「…確か、シアさんが僕に毒を投げつけた時に『フランに何してんの!』と言ってはいなかったかい?」


 その言葉を聞き、フランはアマネを非難の目で見つめる。アマネはフランの目線を受け、慌てたものの、結局はうなだれる。そんなアマネを見て、フランはため息をつく。そして目の前の青年へと向き直った。


「申し訳ないけど、私はあなたが信用できる人なのか分からない。こちらの都合で悪いけど、あなたの本名を教えてもらえる?」


「一蓮托生、というわけだね。面白い。でも、もうちょっと運命共同体にならないかい?」


 そう青年は言い、ファントム・トゥーレのゲームメニューを出した。少し青年が操作すると、フランの目の前に通知が現れる。


〈「Khronos」からフレンド申請をされました。「Khronos」をフレンド登録しますか?〉


 少し迷った後、フランは青年をフレンド登録する。多分、青年のアバター名は「クロノス」と読むのだろう。


「登録したよ。クロノスさん。あなたの本名を教えて」


「思い切りがいいね。僕の名前は『十文時(じゅうもんじ) (けい)』だよ。ああ、そうそう。君のフルネームも教えてくれるかい?」


 出来ることなら、フルネームを教えずに済ましたかったフランは、歯噛(はが)みした。だが、ここで断るのも、それはそれで嫌なので、渋々ながら教える。名前だけを、端的に。


「葵・ソフィア・フランチェスカ」


 そう答えると、青年(ケイ)の笑みが深くなる。とっさに身構えたフランだったが、それは杞憂(きゆう)に終わった。ケイは何もフランに問い質さず、フランの横を通り過ぎていった。

 知人を見つけたのだろう。中央広場につながる道の一つに、二人の男性がいて、ケイはそこに向かっていった。フランのすぐ横にきた時、ケイは「また会おうね、フラン」と言ったが、これをアマネに知られると面倒くさいことになるので、秘密にしておく。


 ケイが向かった2人の片方が、ケイに気付くと、責めるような口調で何か言っているのが聞こえた。でも、それを当たり前のようにケイはいなしている。もしや、今のこともケイにとっては当たり前のことだったのか? とフランは少し不満を抱いた。


 だが、そんなことよりも。そうフランは思いなおして、先ほどから項垂(うなだ)れているアマネに向き直った。2・3回深呼吸したあと、アマネに声を掛ける。深呼吸したのは、つい感情に流されて、怒鳴り散らしてしまいそうだったから。


「アマネ」


 と、そう呼びかけただけで、アマネの背中が震える。まるで、これから実刑を宣告される罪人のようだ。


「何か、言うことは?」


「す、すいませんでした…」


 アマネは小さな身体をさらに縮ませた。それを見て、フランは張り詰めていた怒りが少し、ほぐれる音を、耳の奥で聴いた。


 深く、ため息を(こぼ)す。


「アマネが私を助けようとしてくれたのは感謝してるよ。でも、さすがに毒を投げる必要はなかったんじゃない?」


 別にもう、説教をする必要はないかも、と思うフランだが、これからのアマネのために、と心を鬼にしてフランは苦言を呈する。

 あと少し、説教を続けるべきか、どうしようか。アマネの様子を見てから決めよう、と思ったフランはアマネの様子を見やる。目に映るのは、もとから小さい背丈の、さらに下方に見えるアマネの頭。さすがに、ここで矛を収める。


「まあ、ありがとね。手段は一旦置いといて、私を助けようとしてくれたのは、嬉しかった」


 そう言い、アマネを見ると相も変わらず頭を下げていた。しかも、若干震え始めている。

 まあ、語気を荒げてしまったこちらにも非はあるか、と思い、フランはアマネに近寄る。そして、アマネの頭を撫でた。


 そこで、アマネの頭がゆっくりと持ち上がる。目には涙を蓄えつつ、あらん限りの光を目に集めて、叫ぶ。


「フッ、ソフィアぁあぁぁぁ! 大好きだよぉおおぉぉぉおぉ!」


 フラン、と呼びかけたのをソフィア、と言い換えたのは良し。反省の余地がうかがえる。しかし、それも大音量、高音、近距離で言葉を放ってきたのは大減点。さらに、一切の余地なく相手に抱き着いて、その勢いのまま地面に倒れてしまったのは、0点を超えてマイナスの域に届く。

 フランも、反応は遅れたものの、しっかりと抗議はする。あくまで、言葉での抗議であって、肉体言語は用いない。


「ちょっと、シア! 離れて!」


 もっとも、感慨に打ち浸り、極度の興奮状態にあるアマネに、言葉での制止は効かないが。


 さて、どうしようか。虚空を眺めながら、フランは思索する。


 ほんの気まぐれで、もう少し視線を上に、つまり地面の方に向けると、ミズハが立っていた。とても、目の前で起こっていることが信じられない、というような顔をして。


 ミズハが口を開く。


「…ソフィア。あなた、そういう趣味だったの?」


 いや、別にそれがいけないわけはないのよ? でも、さすがにこんなにも人の往来がある場所では…、と何やらブツブツ呟きながら、ミズハはフランをアマネの下から引っ張り出した。

 フランは、未だ地面に伏せているアマネを見ながら、ミズハの言う「そういう趣味」がどういうものなのか、思案に暮れる。


 一旦整理しよう。先ほどまでの状態で、ミズハが誤解するとしたら、フランが押し倒されている状態のことだろう。確かに、少し楽しかった部分もあるので、少し笑っていたかもしれない。


 もしや、フランが押し倒された状態でも笑っていたことから、フランがマゾヒストだと考えたのだろうか。


 その考えに行き着いた瞬間、フランはミズハの肩を掴んだ。


「違うから! 私、マゾじゃないから!」


 そう抗議すると、ミズハが気圧されながら、頷いた。


「そ、そう。私のいう趣味は、それじゃないのだけれど…、まぁ、いいか」


 ミズハの言葉にフランが気を払うことはなく、アマネを起こすと、声を張り上げる。


「あ、あのさ、立ち話もなんだから、どこかお店に入らない?」


「あら、どうせだったら、私の部屋に来ない? ちょうど、中央広場の近くにあるし」


 そう言って、ミズハは微笑んだ。




 ミズハの部屋は、中央広場から少し、奥に進んだ場所にある小道具屋の2階にあった。ミズハの話によると、10回ほど店で買い物をした際に、クエストの受注を受け、その対価として部屋をもらったらしい。

 だが、条件も条件なので、もうほとんどの店の2階が埋まっているだろう、と言われ、フランは落胆した。宿屋ではやっぱり買い物にも時間がかかるので、できる限り中央広場に近いところに拠点を構えたかったのだが。


 ため息をついて、フランは紅茶をすする。どうも、嗜好(しこう)品である紅茶も一階の小道具屋では取り扱っているらしい。芳香に顔を緩ませたのち、フランはアマネとミズハに話しかけた。


「あの、二人とも、言いたいことがあるんだけど」


 ミズハは紅茶をすすりながら、アマネはクッキーを頬張りながら、目線をフランに向ける。

 フランは目を伏せた。


「私達じゃ、狩りは難しいと思うんだよね。私は支援職、アマネは生産職、ミズハは魔術職でしょ? モンスターが近くに来たら、倒せないと思う」


「え? でも、ミズハさんの範囲魔法があれば…」


 アマネがフランの言葉に異を唱えるが、ミズハが申し訳なさそうに身を縮めながら言う。


「ごめんなさい。私、まだ範囲魔法が使えるほど、レベルが高くないのよ。魔術職の範囲魔法、レベルが10にならないと出来なくて。

 今度、細剣を買って近接戦闘もできるようになるつもりなのだけれど…」


 ミズハの説明を聞き、アマネが微笑んだ。


「そっか、そうだよね。現実の方も忙しいもんね。狩りはまた今度にしよ!」


 結局狩りはできなかったが、顔合わせが出来たからよかった、とフランは思った。初対面なのに、ミズハとアマネがすぐに仲良くなったのは驚きだったが、互いに相性が良かったのだろう。


読了ありがとうございます。

2章の中でのフラン視点はこれで終わりです。まだ2章自体は続きます。2章と3章の間に、フランとケイについては深掘りするかも。

もし気に入ってくだされば、またいらしてくだされば幸いです。

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