序章 謀る者たち
とある部屋があった。普通の部屋とは大きく異なり、装飾がほとんどなかった。家具は白い円形のテーブルと椅子のみで、暗い色調でまとめられた部屋では異彩を放っていた。
部屋に1人、入ってきた。魔術めいた仮面をつけている。きっと女性なのだろう。髪を頭の低い位置でまとめている。ドアに最も近い椅子に座った。
次に、貧相な体つきの男性が入ってきた。スペードのマークが右目の下に1つついた仮面をかぶっている。女性の方を見ると彼女の隣に座り、猫なで声で話しかけた。
「やぁ、久しぶりだねぇ、」
「名前は呼ばないでください、『エース』さん」
男性が女性の名前を呼ぶ寸前に、不快感を表しながら女性が遮った。エース、というのはマークが一つだけあることからだろう。
「『エース』! それは良い! 君の事は何て呼ぼう…。そうだ、『魔女』とでも呼ぼうかな」
「お好きなように」
次に中肉中背の男性が部屋に入った。いくつか継ぎはぎのある白地の仮面を被り、無言で一礼すると扉から最も遠い席に座った。
エースが問いかける。
「君とも会うのは久々だね。何て呼べば良いのかな?」
「『ツギハギ』とでも呼べば良いのでは?」
魔女が両断する。ツギハギは無言だ。エースはそれを肯定と受け取ったのか、愉しそうに体を揺らした。
しばらくすると1人、小太りの男性が入ってきた。クラブのモチーフが所々にあるピエロの仮面をしていた。
「やぁ、待たせたかね?」
魔女が首を振った。
「いいえ、私たちも今来たところですので。それに仕事の方も大変なのでしょう?」
「あぁ。ところでそれぞれ、何と呼べばいいのかな?」
男性は3人を見遣る。エースが視線を受けて口を開いた。
「私がエースで彼女は魔女、彼をツギハギと呼んでいます」
「ふむ…、それではわたしは『ピエロ』といった処かな?」
3人は頷く。ピエロは満足そうに頷くと、空いている席に座った。
「さて、本題に入ろうか。どうかね、近況は?」
「刺す準備は完了した。受け皿の用意も滞りなく」
ツギハギがボソリと口を開いた。
「刺す準備は念入りに。刺すときは一瞬で。覚えてくれていて嬉しいよ」
エースが嗤うのが目に見えるかのようだった。それを遮るように魔女が言葉を紡ぐ。
「こちらも目隠しの用意は終わりました。あと3ヶ月もあれば日陰も十分となるでしょう」
「それは良かった。では、余裕をもって4か月後の4月5日に決行しよう。」
「「「異議なし」」」
3人の声が唱和する。ピエロは仮面の下で口をゆがませた。
――さあ、遊戯の始まりだ。
Drömとverklig、二つの世のみを揺蕩うはlänge sedan。
Nutidに於いては、gränsを見つくることすら難し。
Verkligと思ふとも夢なりて、夢と思ふとverkligならず。
Drömと思ふともverkligにて、verlkigと思ふともdrömならぬなり。
そのgränsを彼の世では“仮想”と云う。
――大司教が一人、キケマンの日記より一部抜粋。
未だ開ききっていないため、翻訳は至らず。