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今までやり取りしたレシピをなるべく自分の中で消化し、練習したうえで故郷に帰る。実家に帰ったら、両親から見合い写真を見せられまくった。
こんなことをしている間に、半熟卵のフィダレーネが売り切れたらどうしてくれる。
しかし両親が頑固なことは分かっているので、反論する間も惜しんで全ての見合い写真に難癖をつけて蹴とばす。
まず一日目はあいさつ回りにつぶされてしまった。しかしちゃっかりフィダレーネを出している店の情報はゲットしておく。
二日目は店をしらみつぶしに回った。久々に食べる故郷の菓子、フィダレーネは、普段よりもおいしく感じる。
しかし、最初に行った店も次に行った店も、半熟卵とは違う気がした。
たいして大きくない領内だ。無理矢理一日ですべての店を回りきってみせたが、半熟卵が作ったと思しきフィダレーネには当たらなかった。
半熟卵はウソをつかない。
あの手紙のやり取りでその点は確信していた。
網羅したと思っていたが抜けがあったのだろうか。
一体どこに。
考え込んでいると家を訪う声が聞こえた。
家人がいないので自分が出向く、と、懐かしい顔だった。
自警団の息子と、カエル亭の息子。
連れ立ってどうしたのかと聞いてみれば、手紙を届けに来たという。
挨拶もそこそこに自警団の息子から手紙を奪う。
そこにはこう書かれていた。
<< 親愛なる辛口クッキー。
タイムリミットは今日を入れてあと二日だ。
知ってのとおり、これは君への俺の挑戦状。
君が俺を見つけられれば俺は正体を明かし、君が望む全ての料理をご馳走しよう。
しかし、見つけられなかった場合のことを決めていなかったな。
安心してくれ。君に何をしろというわけじゃない。
手紙の上だが、お別れをしようと思う。
男の俺はともかく、女性は結婚適齢期だ。結婚を控えた女性に軽々しく手紙を送ったり、食べ物とはいえ贈り物をするのはやめたほうがいいだろう。
君に幸多からんことを祈る。
半熟卵より愛をこめて。
追伸。
まあ、君のことだ、自分勝手だと怒っているだろうね?直接その怒りをぶつけに来るといい。
俺も君に言いたいことがある。 >>
手紙を読み進める娘さんの顔から表情が抜け落ち、元ガキ大将二人の背に冷や汗が伝った。