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半熟卵から手紙が来た。
先の話には触れず、いつものように楽しい料理談義が続く。それに少々残念な気持ちになりながらも、今は二年目の冬も間近。来年の夏には娘さんは暇乞いだ。
その前にいったん実家へ帰る予定である。半熟卵も一度故郷に帰るとあった。
日程を合わせれば、半熟卵の料理が食べられるかもしれない。
ここぞとばかりにねだる。
<< 貴方の作るフィダレーネが食べたい。>>
フィダレーネは郷土に伝わる菓子で娘さんの好物でもあった。渋る気配の半熟卵に、断られないようこちらからも作って持っていくと持ちかける。
<< 私は貴方の直弟子のようなもの。
貴方に教えてもらった料理の出来を見てほしい。>>
後から考えてみれば、そうすれば受けてくれるのではないかという打算があったかもしれない。
返事は、イエスともノーともつかないものだった。
娘さんの帰郷に合わせた三日間、半熟卵は故郷の領内のどこかでフィダレーネを作る。
自分の直弟子なら当ててみろというのだ。
そうまでして私に会いたくないのか。もしかして嫌われている?
避けられているのは間違いないが、嫌われているとも思えない。
今や半熟卵が故郷で一番会いたい人に躍り出ている事に一向に気づかない娘さん。
いらいらと考えを巡らす。
三日間、故郷でフィダレーネを作るという半熟卵という料理人見習い。
娘さんの人脈を使えば、個人名をこの条件から導くこともできるだろう。
しかし、それは半熟卵の弟子である辛口クッキーにとっては、敗北宣言と変わらない。
何が何でも食べ比べて、作った半熟卵の胸倉掴んで、さすが私の師匠だわと啖呵切ってやらないと収まらない。
見つけたわよと、作った料理をたたきつけるのもアリだろうか。
まるで料理の決闘ね、と思い、ようやく落ち着いてきた。
その時娘さんが無意識に浮かべていたほほ笑みは、男が見たら対象に嫉妬するほど艶やかだった。