プロローグ
僕、橘ハルは今、人生に絶望しています。
それはもう、この世から自分という存在を消し去ってしまいたいくらい。
しかし、残念なことに僕はそんなことを実行するような根性を持ち合わせてなどいません。
そんな甲斐性なしの僕は、途方に暮れて、夜の街を浮浪者のようにふらふらしていた。
ああ、家に帰りたくない。
そんな思いが自分の胸の中を埋め尽くした。
だけど、こんな僕に行く当てなどは当然ないわけで・・・
気が付けば、僕は家の前に立っていた。
鍵を開けてそぉっと中へと入る。
自分の家なのに、何だか泥棒にでもなった気分だ。
居間の電気がついている・・・きっと妹が遅い僕の帰りを寝ずに待ってくれているのだろう。
しかし、今夜ばかりは誰とも会いたくなかった。
「ごめんね・・・お兄ちゃん、今お前に合わせる顔がないんだ」
小さな声で謝罪をし、そして自室のある二階へと続く階段に足を乗せた時だった。
どういうわけか、階段を踏み外して盛大に転んでしまったのだ。
普段運動しないのに、街を歩き続けたのが祟ったな・・・
そう思いながら、僕はなすすべなく大きな音を立てて無様に転んだ。
すると妹が急いで駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「あっ・・・ハル兄おかえり・・・って大丈夫?」
「あ、あぁ・・・」
痛恨のミス。
人生ってやっぱり思い通りにならないものですね。
僕は天井を眺めて神様に心のなかで文句を言った。
「本当に大丈夫?頭とかぶつけてない?」
すると、可愛らしい顔で妹が僕の顔を覗き込んできた。
不安げな様子でこんなダメ兄貴を心底心配してくれる彼女に僕は胸が締め付けられる思いだった。
「ごめんねっ!」
いてもたっても居られなくなった僕はそう叫びながら、階段を駆け上がり、自分の部屋にこもった。