ep.08 疑問
新キャラ出てきます。
そうだ、難しい言葉を覚え始めた私は、教官から変なことを言われたことがある。
「教官、《人型人形》って、どうしてこの字なんですか?両方とも『人の形』って意味ですよね?」
教官は私の質問に対する答えに迷ったのか、少し間を開けて言った。
「───そうだね。《人型人形》って名前だけど、ちゃんと君達は人間だ、ってことを意味してるんだ」
答えになってないと思った。人間なら、人の形をしているのは当たり前じゃないか。人間なら、私達は人形ではないじゃないか。
この名前は、私達がまるで────。
***
耳に入る目覚まし時計の音が段々と大きくなってくる。時計のベルを止める前に開けた茜の目に、カーテンの隙間から漏れる太陽の光が入ってきた。
「ぅん~」
息なのか声なのか分からないモノを口から漏らしながら、茜は目覚まし時計に手を伸ばしてベルを止める。
昨日の出来事で身体が少し怠い茜は、もぞもぞと芋虫のように動き、────その際に足に何かが当たって意識がハッキリとした。
「ん?」
何が当たったのかを確認するために、掛け布団を勢い良くめくる。なんと、そこには茶髪の長髪を携えて、顔の整った女性が寝転がっていた。
茜のベッドはシングルで、2人が入ることなど密着しなければ難しいのだが、この女性は茜に密着すること無く寝ていて。
「うんゅ?────あ、おはよ~、茜ちゃん」
目を覚ました女性はニヘッと笑い、眠気の混じる声で茜に朝の挨拶を送る。
「~~~~~~~っ!」
歯を食い縛って、混み上がってくる感情を抑えようと頑張る茜だが、
「もぉぉぉぉぉっ!彩芽さぁん!何回目ですかぁっ!」
そんなことは到底無理で、朝から1つの怒号が鳴り響いた。
「うおっ!────いつものこの声は穂原さんだったのか」
茜の家の隣、悠莉の部屋にもその怒号が聞こえて。
────穂原さん、元気で何よりだよ。
と、気分の良い朝を迎える悠莉だった。
***
コトッ、と音を立てて、牛乳の入ったコップを朝食の並んだテーブルに置く茜を申し訳なさそうに彩芽は見る。羽織っている半袖パーカーのフードを被りたくなる程にジッと。
「朝からそんな怒らなぁいの」
前言撤回。申し訳なさなど塵1つ分も無い。
彩芽は茜の3つ年上の大学生。その整った顔立ちのせいか、キャンパス内にファンが多いと言う。しかし、当の本人はそんなこと気付くことはなく、男など寄せ付けない生活を送っている。彩芽の親衛隊が居るという噂や、大手芸能事務所に所属している俳優と交際している噂など色々とあるが、そんな事実は無い。
「茜ちゃんてば可愛い顔してるねぇ。」
───そう、嫌がる茜の顔を構わずプニプニしてる彼女は茜が家に来て以来、重度のシスターコンプレックスになってしまったのだ。よって、彼女は男など見ない。
「昨日は朝早くて茜ちゃんの顔見れなかったから元気出なかったんだぁ」
「─────そ、そうですか。ところで彩芽さん、時間大丈夫ですか?」
茜の言葉は、早く離れないかなぁ、という感情が剥き出し。構ってくれることに最初は嬉しさもあったのだが、何回も茜のベッドに忍び込まれて嬉しさなど薄れ、逆に鬱陶しさが生まれた。
「今日は茜ちゃんと同じバスだよ。一緒に行けて嬉しいなぁ」
────彩芽さん、悪い人じゃないんだけどなぁ。もっと節度ってものを大切にしてほしい。
「ご馳走さまでした」
食器を台所に持っていく茜を未だにジッと見つめる彩芽に、もうどうしたら良いのか分からなくなる茜。
早くその目から逃れようと、茜は階段を登って自分の部屋へと向かった。
「あまり茜ちゃんを困らせたらダメよ?」
「だって可愛いんだもーん。お母さんだってそう思うでしょ?」
否定はしないけど加減てものを知りなさい。と圭子は顔で送るが、彩芽には何のことやら分からない。
▲▼
鞄に教材と弁当を入れ、いつものように髪の毛を結う茜は、ふと前日に悠莉と恵美が口にしていたことを思い出した。
───折角なら見てみたい───
白い髪を見てみたい、と悠莉達は言っていた。昨日の夜も、その言葉が気になって髪染めを落としたのだが、茜の髪の毛が特別なのか、不思議と色は残らなかった。
────染めずに、行ってみようかな。
一度しか使っていないスプレーに手を伸ばすこと無く、身形を整え、鞄を肩に掛けて階段を降りる。
階段を降りた先の玄関には、すでに彩芽が立って待っていた。
「ホントに、染めないの?」
「はい。1日だけ染めるって、やっぱり変でしょうけど」
茜は眉をハの字に曲げて、顔横にある毛先の赤い髪の毛を見る。その様子を見た彩芽が声をかけた。
「変じゃないよ。その髪、私は好き」
「────ありがとうございます」
優しさのある彩芽の言葉に、嘘偽りは無い。言葉の雰囲気や顔の表情にそれが表れていた。
「それじゃあ、行こっか」
彩芽に手を引かれ、外へ続く玄関の扉を通る。昨日と同じように茜の身体全体を朝日が照らしていて、残暑のある今の時期の日差しは、茜にとって心地よかった。
「ぅえっ!?」
家を出て間もなく、驚きを隠せていない声が、茜と彩芽の耳に飛び込んできた。2人が声の聞こえた方へ顔を向けると、そこにはポニーテールが特徴的な、見覚えのある顔が───。
「ほ、穂原さん、その髪───」
その声の主は皆さん、お分かりのことでしょう。
「あ、櫛永さん。おはようございます」
はい、勿論、悠莉です。
「おぉぅ、おはよう。どっ、どうしたの?茶色じゃないよ?染め忘れ?」
悠莉は自宅の前から、わざわざ走ってきて茜の顔をジッと見る。
────やっぱり驚くよね。昨日と髪の毛の色違うんだから。
「綺麗だよねぇ、この髪。毛先なんて赤のグラデーションだよ?」
「あ、彩芽お姉居たんだ。おはよう」
「私ついでっ!?」
思わぬところでショックを受ける彩芽。
彩芽お姉、と呼んでいるが、それは悠莉が親しみを持ってそう呼んでいるだけであり、彩芽が茜に接する時のようにベタベタする訳ではない。───何故茜だけを異常なまでに可愛がるのかは、また別のお話で。
「昨日ちょっと考えてですね、折角なら白い髪で行こうかなって」
「穂原さんが決めたなら良いけど───」
茜を心配するような目で見る悠莉。1日経ったら急に白い髪になっていた。ということだけで驚きだが、それが《人型人形》である茜ということになると、クラスの雰囲気は茜にとって居づらいモノになるだろう。
「さ、そろそろ行こ。バス来ちゃうから」
「あ、そうですね。行きましょう、櫛永さん」
3人揃ってバス停へ走っていくと、もう巧、智、恵美がそこに居た。
「いっつもギリギリだなぁ悠莉────って、え!?」
「ほ、穂原っちだよね?」
「な、何があったのさ」
皆、悠莉と同じ反応。予想の範囲内である。
▲・・・説明中・・・▼
「そういうことなんだ」
「うん、その髪似合ってるよ、穂原っち」
「あ、えと、ありがと、ござい、ますぅ」
面と向かって言われると、茜は勿論照れる訳なので。その瞬間を彩芽が逃す筈がなく────。
パシャッ。
シャッター音の鳴った瞬間、茜の照れた顔は目の大きく見開かれた、は?と言っているような顔に変化した。
「えへへ。可愛い顔ゲットぉ」
彩芽1人だけが喜び、その他の少年少女はその光景にドン引きである。
茜は鞄を肩から圭子の作った弁当が崩れないようにゆっくり下ろし、重たい門を開けるようにして、口を開いた。
「彩芽さぁん。どんな感じに撮れましたぁ?」
1日しか一緒に過ごしていない巧達だが、その声色から茜が相当怒りを心の中に溜めているのがハッキリ分かる。
負のオーラを滲ませながら、茜はゆっくりと彩芽に近づいていく。
「あ、見る?こんな感じに───」
怒っているとは少しも考えていない彩芽が茜に携帯を差し出している最中に、茜は差し出された携帯の画面を素早く2、3度タップした。茜は驚くほどの無表情でその行為を終えて満面の笑みを彩芽に返すと、
「─────────え?」
表情を笑顔に固定したまま、彩芽は戸惑いの声をあげて携帯を見た。茜に見せる前は照れた茜がそこにあったのに、今は自宅で採れた変な形の人参の写真になっていて。
「不要なものは削除です」
「不要じゃなぁぁぁぁぁぁぁい!!」
地面に崩れ落ちる彩芽に茜は構わず迫る。───あ、この先はギャグでお楽しみくださいね。
「不要です!写真なんて何に使うんですか!使うとき無いですよね!?」
「あるもん!癒されたいときに見るんだもん!」
彩芽は顔を上げずに地面を見たまま叫び続ける。誰に向かって叫んでるの。
「生の私居ますよね!?癒されたいなら話くらいなら聞きますよ!」
「そういうことじゃなくてぇっ!その時しか撮れない顔を保存することに意味があるのぉ!」
「私の気持ち考えてくださいって!携帯じゃなくて心のシャッター音を鳴らしてくださいよ!」
「くふぅぅっ、容量オーバーだよぉ───。保存しきれないんだもんん。ふぅぅっ、くぅ、ふぅっ」
彩芽の声に悲しみが宿り始め、茜も言い過ぎたか、と口を閉じる。
そんな光景を見るしかない巧達4人は揃って思う。
────え、自分達、何見せられてんの?
「えっと、すいません。言い過ぎました」
しゃがんで謝罪する茜の言葉を聞き終えると、彩芽の口から
「────ふっ、ふふっ」
と、笑い声のようなものが聞こえてきた。その後、勢い良く立ち上がり携帯の画面を茜に見せるようにして口を開く。
「───罠発動!『二段階削除』!『削除された写真』の項目からさっきの写真を復活!」
「どういうことです!?」
「ふふっ。私の携帯はね、削除した後にゴミ箱からまた削除しないとフォルダから削除されないの」
「削除削除うるさいですけど理解できました。ずるいです!携帯貸してください!」
「ダメ~!私の茜ちゃんのお宝フォルダは私だけのものだも~ん!」
────夫婦漫才かよ。
4人の他にもバス利用客が居るので、その客達にも無論茜達のコントのようなやり取りは聞かれている。
朝っぱらから、茜の意外な一面を見た巧達であった。
***
「朝からお見苦しいモノを───すいませんでした」
申し訳なさからか、学校の廊下を歩きながら茜はフードを深々と被って巧達に謝罪する。朝のホームルームが始まる15分前のため、廊下や教室にはすでに登校している多くの生徒達の姿があったが、今は4人に恥ずかしくて顔を合わせられないことが優先で、他の生徒の目を気にしていられない茜である。
「新たな一面を知れたってことで楽しかったよ。なんか他にもっと裏の顔ありそうだなぁ、穂原っち?」
「なっ、無いですよ!ニヤニヤしないで下さい。栗山さんのいじわるっ」
────あ、可愛いっ。
また茜に心を捕まれた恵美。茜が頬を膨らませて「ふーんだ」と幼子のように言っているみたいで、見事、恵美のストライクゾーンのど真ん中にキまった。
「それじゃあ、私達2組だから。何かあったら来てね、穂原さん」
茜からの攻撃を受けて動かなくなった恵美を悠莉と智が引きずって行きながら教室に入るのを茜は手を振りながら見届けて、茜と巧は1組の教室へと足を踏み入れようとするが────。
「─────あ」
ふと、その足を止めた。
「穂原さん?」
茜は思い出す。巧達との楽しい会話で忘れていた前日の教室を。《人型人形》と打ち明けた途端に変わったクラスメイト達のあの表情、小さな声が集まった、あの大きな言葉の羅列。
茜が教室に入るのを躊躇うのも、無理もないことだ。
「────大丈夫、なんとかなるよ。少なくとも、俺がついてるから」
茜の肩に手を置いた巧は、笑顔でそう言った。
「───ありがとうございます」
巧の言葉に背中を押され、茜は教室のドアを開ける。────瞬間、教室中の生徒の視線が茜一点に集まってきた。
─ドールだ─
─え、なんか髪白くなってない?─
─何で吉澤くんと一緒なの?─
────パーカーの袖をギュッと掴み、茜は逃げ出したくなる衝動を必死に抑えながら巧と一緒に自分の席へと向かう。
「あ、そうだ。穂原さん、数学の宿題やってきた?」
「え?───あ、はい。ちゃんと解くことが出来て安心しました」
気持ちが俯いていた茜に優しく声をかける巧が自分の前の席であることは、茜にとっては幸運だろう。周りに話が出来る人物が居ると居ないとでは気持ちが違ってくる。
茜と巧は自分の席に座り、先程の雑談の続きをする。
「最後の問題分かった?俺、分かんなくてそのままにしてるよ」
「────あの、差し支えなければ私、教えましょうか?」
「え、ホントに?助かるよ!」
そう言うなり巧は鞄から数学の教科書とノートを取り出し、茜の前に差し出す。
「まずココですけど─────」
・・・数分後・・・
「なるほど!穂原さんの説明すっごい分かりやすい!」
「そうですか?良かったです」
ホット胸を撫で下ろす茜。軍での教育の時にすでに習っていた茜は、何年か経っている今、ちゃんと教えることが出来るのか少し不安だったようで。
巧との会話の中で教室に入る時の不安は薄れて、平静を保てるようになった。
「────っと。ごめん、ちょっと席外すよ」
「分かりました」
そう言って巧は席を離れて、茜は青色が広がる空へ目を向ける。ちょっとした時間が生まれると、茜は空を見ることが多い。未だ見慣れない空を見ることが楽しいのか、幼い頃過ごした孤児院で見た筈で、覚えていない空を知らず知らずの内に懐かしんでいるのか、茜は分からずに青空に吸い込まれる。
巧がドアに向かって歩いていると、1人の女子生徒が巧に話しかけてきた。
「吉澤くん」
「ん、委員長じゃん。何?」
巧に話しかけてきた彼女はクラス委員長を務める珠岩楓。クラスメイトからの人望も厚く、困り事があれば彼女に相談する人が多いと言う。
「どうして、あのド────穂原さんと一緒なのかなって」
「ん?昨日仲良くなったんだよ。話してみたら楽しいよ?」
巧のその言葉を聞いて、楓は少し躊躇いながら言った。
「あまり穂原さんに関わらない方が良いんじゃないのかな?────その、《人殺し人形》って言わ───」
「やめなよ」
「─────え?」
強めの言葉に遮られることを予想していなかった楓は、短い驚きの声を漏らす。
「────穂原さんだって、辛いことを噛み締めてるんだ」
先程とは違い、優しい顔で柔らかさのある言葉。しかし、その中には巧の本当の気持ちが籠められている。
楓の口からはそれ以上、何も出てこなかった。
「ごめん、漏れそうなんだ。じゃ」
そう言って、巧は軽く走りながら教室の外へ出ていった。
楓は気になって茜の方に顔を向けるが、茜は巧との会話には気付かずに空をただ見ているだけだった。
***
青空の下で5人一緒になって座る屋上での昼の時間。昨日と同じように快晴で、心地のよい風が髪の毛を揺らす。
「え?下の名前、ですか?」
「そうそう!隣の家だし、毎日一緒に居ることになるからさ、呼びたいなぁって」
米粒を口の端に付け、人差し指を立てて悠莉は言った。
────まぁ、軍の時も下の名前で呼ばれてたし。寧ろ、そっちの方がしっくり来るかも。それに、仲が良いみたいで───。
「じゃあ、お願いします、悠莉さん」
「おぉっ、いいねいいね!よろしく、茜ちゃん!」
悠莉の明るい顔が、もっと明るくなる。嬉しさからか、腕をブンブン上下に振って身体全体で気分の高揚を表している悠莉の姿が、茜にとってどこか懐かしい。
──茜ちゃん!これ、おいしいぃ!──
────どうしてこの屋上に来ると、こうも感情が揺さぶられるんだろ。
懐かしい声を、思い出す。青い空、まだ2回しか見ていない景色、心優しい人達。小さい頃から住んでいる場所でもないのに、心が揺らぐ。───いや、新しい場所だから、なのかな。
その後結局、皆で下の名前で呼ぶことになった。
「え、茜って呼び捨てで良いの?」
「へ?別に構いませんよ?」
会ってまだ1日しか経ってない女子を、いきなり下の名前で呼ぶのは気が引ける智は、少し顔を赤くしながら茜の呼び方を確認して。その一方で茜は、呼び捨てに慣れているため、智とは裏腹にケロッと。
「えぇ~?何々、智。照れてんの?」
「違っ!話そうと思ったけど呼び捨てって何か───」
「ほらぁ、照れてるじゃん」
もう、悠莉のニヤニヤが止まらない。弄れるものは、とことん弄るのが悠莉の流儀であり、その被害者数は数知れず。しかし、言い換えれば分け隔てなく接することが出来る相手であり、密かに男子からの人気を博していたりなんて噂もあるとか無いとか。
そんな悠莉が智の肩をポンポン叩きながら
「で、茜ちゃんに話すことって何?」
と、智に話すように促す。
「あの、昨日のあ、茜が話した話のことなんだけどさ、気になることあって、聞いてもいい?」
「私に答えられることなら、何でも」
かなり踏み入った質問なのか、智は頬を人差し指でポリポリと軽く掻きながらゆっくり口を開いた。
「どうして《人型人形》って茜達だけだったんだ?」
「え?どういうこと、智?」
誰も理解できていないようで、智も若干の焦りを抱える。どうにかして皆に自分の質問を理解してもらおうと、ろくろを回しながら。
「いや、《人型人形》が誕生したってことは、その手術ってのは成功するものってことだろ?ならさ、もっと他に《人型人形》が居てもおかしくないんじゃないかなって」
智の言葉を早く理解できたのは巧と茜だった。巧は悠莉と恵美にも分かるようにまとめを言って、
「つまり、何で茜達5人の他にも《人型人形》になる人が居なかったのか、ってことか?」
「それって、ただ単に手術の費用が大きかっただけじゃないの?」
頬杖をついた恵美が、智に考えた回答を送る。確かに、と恵美の意見に悠莉は言った賛成の票を入れるが、智はそのような考えではないらしく、
「それは俺も考えたけどさ、茜の話を聞くと《人型人形》が戦いに参加してから1年の時間があったのに、新しい戦力を投入しないってのは納得できなくてさ。研究とかが進めばコスト削減だって出来るだろうし」
「あぁ、言われてみれば確かにね。元から軍に入ってた人だって手術を受ければ────」
「─────ジェネレイトスキャナーを使えて強くなる?」
「これって、どうなの?茜っち」
4人が言ったことから考えをまとめる茜は、口元で握り拳を作って難しい表情を浮かべる。
「────すいません。これは私も知らないので答えることは出来ません」
「────そっか」
分からないことが解決できないもどかしさで、智のウズウズは止まらない。
しかし、茜の言葉はまだ続いているようで。
「でも、手術を受けた私達は当時、幼い子供でした。そのことを考えると、少なくとも大人ではその手術は無理ということだと思います。全体的に未発達な身体の子供、という条件があるんじゃないでしょうか」
唸る声が屋上に居る全員の喉から鳴る。
軍に居た茜が分からないのであれば、どれだけ考えても正解が分かる筈もなく、
「分からないままかぁ。ま、仕方ないか」
断念するしかないのである。
浮かび上がった小さな疑問。茜が軍に居た頃は少しも気にしたことは無くて、手術のことなど深く考えずに過ごしてきた。どういう手術を身体のどこに施したのか、智の言葉からその小さな疑問が気になり始める。
葵なら知っているかも、と思ったが、引き取られた家の連絡先も分からないので話が出来ない。関西の方に行ったことだけは耳に入っているが、情報はそれだけだ。茜は東北に住んでいるため、会いに行こうにも簡単には行けない。黄乃が知ってる筈もないしなぁ、と、黄乃に関しては最初から諦めている。ちなみに黄乃も引き取られた家は関西らしい。
────う~ん、機会があれば教官にでも聞いてみるかな。
「茜ちゃーん。授業始まるから降りよ~」
「はーい」
悠莉に呼ばれ、屋上から下に降りる階段へ。忙しなく過ぎるであろう茜の学校での生活は、楽しさのある忙しなさを持っている。
巧に会えていなかったら、どのような生活を送っていたのか、想像なんて出来る筈もなく。───ただ、逢えて幸せだという気持ちが茜の中には大きな塊として、そこにある。
─to be continued─