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DOLL's SMOKE  作者: 蜻蛉織
5/14

ep.04 初めての


 荒れた土地。

 建造物は廃れ、今や人は決して住めない場所となった都市────元東京。

 爆薬や銃弾等のせいで建物は崩れ、砂塵の舞う、居心地の悪い場所になってしまった。

 

 ─────此処が、戦場。

 

 

 ***

 

 

 研究所に別れを告げ、戦地から少し離れた場所にある基地が今日から私達が暮らす拠点になる。その基地を歩いていると、多いのはやはり男性だと感じる。そして、その人達から感じる視線は軽蔑の意を表しているのだろう。

 

「ここが君達の部屋だ」

 教官に案内された、1つの大部屋。この基地でも私達は一緒に生活を送るそうだ。───まあ、その方が安全ではあるけど。

 荷物を置くと、葵が言った。

「今日は早速、私達が配属になる部隊との顔合わせ。───って、配属じゃなくて『率いる』だったわね」

 私達がこの基地に加わるということで、新たに部隊が編成されることになった。経験が全くと言っていいほど無い私達が、いきなり部隊の長なんて。

 多分、前からこの基地にいる人達は良い気持ちとは言えないだろう。いきなり来た『小娘』が場所を取って変わる訳だから。

「やっぱり男の人が多いね」

「そりゃそうよ、茜。女の人が軍人になることは滅多に無いわ」

「なぁ、アタシ腹減ったよ。食堂行こうぜ」

 

 黄乃の言葉で思い出したけど、そう言えば朝から何も口に入れてない。そう思うと急にお腹の中に何も無いことを知らせる音が私から鳴った。

「茜も、お腹減ってる」

「黒葉、ニヤニヤしないでよ───」

 

「食堂、今開いてるわね。皆、行こっか」

 

 ────────

 

 

「想像はしてたけど────」

「ええ。────かなり質素ね」

 6人座れる席に昼食が乗ったお盆を置いて、席に座った後の率直な感想。

 食堂で出された昼食のメニューは、パン1つ、オニオンスープ、野菜少々にエビフライ2本。それとお茶。

 いや、考えてみれば研究所のご飯が豪華すぎたんじゃ?ハンバーグ2個食べれるって相当じゃん。

 

 いつでも出られるように食事の量を制限しているのか。基地に来たら食生活が変わるのは当たり前か。

「いただきます」

 5人一緒に食事の挨拶。初めて会ったときから今まで変わっていない私達のルール。

 

「へっ、仲の良いお人形さんだな」

 

 私が2本しかない貴重なエビフライを口に入れようとした時、野太い声が聞こえた。

「お家間違えてんじゃねぇのか、お嬢さん方」

 私達が気に食わないのか、鍛え上げた筋肉を見せ付けるような服を着た男性が私達に近付きながら文句を口から垂れ流している。

「別に、間違えてませんけど」

 こういう人、初めてだけど嫌い。絶対好きになれない。

 すると私の横にいた紫野が、

「紫野達は今日からこの基地に配属になったんだよ。おじさん知らなかったんだね」

 

 ズバッと言いきる。言い回しを変えようとか、そんなことは紫野は少しも考えない。

「このガキっ!」

 ムカついた男は紫野が着ている服の襟を掴みに掛かる。────その時、ドンッ!と大きな音が食堂を包んだ。男性が立てた音ではない。

「女だからって、ナめない方が良いですよ?」

 葵だった。背負い投げをされて床に横になっている男性の首もとに爪を置く。

 その光景を見ていた他の兵士は無言で数歩、後退っていた。

「ご飯が冷めるので帰っていただいても?」

 葵が手を退けると、その男性は舌打ちをして帰った。

 私達、心の中で葵に拍手喝采。

「さ、食べよっか」

 今のことは無かったかのように食事を始める。大変美味でした。

 

 

 ***

 

 

 食事を済ませた後、部屋で2時間程寝て、準備をする。今度は新しい部隊の顔合わせ。紫野は廊下を歩きながら小さな溜め息を幾つか溢す。

「ねぇ葵ちゃん。今日顔合わせなのに明日戦闘って早くなぁい?」

「仕方ないじゃない。どうこう言っても変わらないわよ」

 ホントに、何もかもが急すぎではないだろうか。基地に着いた当日に顔合わせ、その翌日には戦闘が始まる。────余程、危ない状況なのか。

 

 私と葵、紫野は前線への配置で、黄乃と黒葉は後方への配置だった。

 それぞれに分かれ、分かれた私達の元に同じ部隊となる兵士達が集まってくる。

「あ、俺1番目だ」

 そんな言葉が聞こえて、振り返る。その発言をしたのは同じ部隊の若い兵士だった。

 気になるので聞いてみることに。

「1番目ってどういうことですか?」

「え?いや、なんか皆そう呼んでますよ。貴女が1番目、青い子が2番目、紫の子が3番目、黄色い子が4番目、黒い子が5番目。なんでかは分からないけど────」

 心当たりは無いし、番号を付けるなんてあまり好きじゃない。

「その呼び方好きじゃないので、茜と呼んでください」

 さすがに私を隊長と呼ぶ気は無いだろう。私も隊長とか番号より名前で言われた方が良い。

 そもそも、今日会ったばかりの人達で作戦が成功するなんて思ってない。訓練も必要、と言いたいが、集まっている兵士の話を聞いてみるに、戦線が段々と後退しているようだ。それはそうとして、もっと余裕を持って計画を組んで欲しい。

 

「早速ですが、明日の作戦の打ち合わせをしたいと思います。この中で私以外に階級が上の人は?」

 台に地図を広げ、打ち合わせを始める。

「自分です」

 20代後半くらいの男性が手を挙げて顔を覗かせる。

「滝本少佐ですね。了解です」

 私より年上とは言え、まだ若い年だ。それなのに少佐の位置にいるなんて。

「もし作戦中に私が部隊との連絡が不可能になれば、滝本少佐に指揮権を移します。それは了承しておいてください」

「分かりました」

「───まぁ、でも、そうならないように頑張りますので」

 

 ▲────────▼

 

 ────って言った傍から。

 作戦中に、部隊から離れないといけない用事が出来てしまうなんて。

 

「あの人は確か────」

 見覚えのある顔が2時方向に立っている。他には誰もいない───じゃなくて、大勢の敵に苦戦を強いられている状態。

 その苦戦している人というのは、昨日、食堂で絡んできたあの男性だった。

 ────ん~~~~っ!

「滝本少佐、少し外れます!そのまま目標地点まで!」

 走りながら喋ると、口の中に砂が入ってくる。が、そんなことを気にしていては戦いに集中なんて出来ない。

「その後は!?」

「滝本少佐が指揮を執ってください!用事が済み次第、合流します!」

「了解!」

 

 私は部隊と別れ、あの男性の方へと向かう。その途中、バラバラと向かってくる敵をハンドガンで撃っていきながら、なんとか男性の元へ辿り着く。

「貴方、何やってるんですか?」

「───お、お前は」

 腰を抜かしているのか、私を見上げることしかしない。て言うか、この人は────

「貴方は葵の部隊ですよね?────まあ、貴方のことですから、大体理由は察しがつきますが」

 ────己のプライドだろう。葵の言うことを聞くくらいなら自分1人で、と言ったところか。なんて身勝手な。

 

 と、そんな説教を垂れ流している時間は無いようだ。少し離れた場所から、30人程の人影が近付いてくるのが見える。葵の部隊ではない、ということはテロリストか。

 ────今この状態なら間違いなく私達がやられる。

「はぁ────。少しだけ目を瞑ってください。眩しいですよ」

 ここで使ってしまうのは早い気もするけど、生き残るためには仕方ない。

 肩に掛けていた《ジェネレイトスキャナー》を腕に取り付け、カードを入れるスリットを開く。そして、右脚に取り付けたカードホルダーからカードを1枚、取り出す。

「そ、それは────」

「瞑っててください。失明しますよ」

 男性はまだ理解していない様子ながらも、私の言う通りに目を瞑る。それを確認してスリットにカードを入れる。

 

〔Hazard sets.---Standing by───〕

 

 機械音声が鳴ると同時に2つの光の輪が現れ、回転しながら私の身体を通っていく。

 着ていた深い緑色の軍服は消え、そこに機械混じりの服が新たに現れる。所々に白いラインが入った黒い服。

 エフェクティブカード────《ハザード》の使用状態だ。

 

〔───Be over.〕

 

「すぐに終わらせるので、そこに居てください」

 その台詞を言い終えるとテロリスト部隊の先陣が目の前にやって来た。資料で見た通りの品の悪い柄の入った服を揃って着ている。そして、品性を疑うような気味の悪い笑顔。

「なんだ?女のガキじゃねぇか」

「変な服着てんなぁ」

 貴方達に言われたくない。

 しかし、やっぱりナメられるんだなぁ。まぁ私はまだ14歳だし、仕方がないと言えばそうなんだけど。

「セーブモードに移行」

 私のその声に応じて、ハザードアーマーはセーブモードに移行する。移行って言っても膝から下のアクセラレータが前部から外側にスライドするだけなのだけど。

 本来の出力が半分になる代わりに、使用可能時間が多少延びるシステムがセーブモード。最初はこれで様子見しながら調整していこう。

「嬢ちゃん、それが何なのか知らないけど、痛い目に遭いたくないなら言うこと聞くんだよ?」

「─────はぁ」

 

 〔Blaster---Loading────〕

 

 ため息と共にウェポンカードをスキャナーに挿入し、それとほぼ同時に右手に握り拳を作って、目の前のテロリストにハザードで強化されたパンチを一発。セーブモードとは言え、強化はされているから数十センチは動かせる。

「いってぇ!お前何す────」

 途中まで言葉を言いかけた男の目の前には、先程出した大型口径砲の銃口がある。

 

「掃射」

 トリガーを引くと銃口から高圧のエネルギーが放たれる。それに呑み込まれる幾つかの人。─────掃射後にはそこに人影は無い。

 地面が震える程の威力で、1回の使用につき、30分のチャージ時間が必要となる。

 ────さて、残りは22、3人程か。

「────ハザードドライバ展開」

 ハザードドライバ───ハザードを使っている時だけ使用可能である大型の鉈。それが私の右の掌に出現する。

「さて────」

 と言葉を言いかけた時、後ろに居た男性が問いを投げてきた。

「お前、そんな若いのに人を殺すのを躊躇わないのか?」

 

「────嫌ですよ、人を殺すのは」

 

 少し驚いたのか、男性は少し目を見開く。

「じゃあ、何でそんな───」

「確かに殺すのは嫌です。でも、そんな私個人の感情でテロリストを生かしておくなんて、もっと嫌です。個人の勝手を優先していたら、国なんて守れません─────っと、ここまで、ですね」

 話してる内に残りのテロリスト部隊がやって来た。相変わらず、柄の悪い人達だ。


「さぁ、暴れますよ」

 

 

 ***

 

 

「全員で掛かれ、1人じゃ無理だ!───後ろも援護だ!」

 飛び交うテロリストの声。対策を巡らせ、残りの人数全員で私に掛かる策を採ったようだ。

 ─────そろそろかな。

「セーブモード解除」

 フシュッ、と蒸気が漏れる音と共にアクセラレータが前へと移動する。この感覚だと、使えるのはあと5分程か。

「行くぞっ!」

 前に7人、後ろに4人。陣形を整えながら私の方へと向かってくる。

 早く終わらせて、自分の部隊に戻らないと────。

 ハザードドライバには、スキャナーと同様にカード用のスリットがある。そろそろこれの使い時だろう。

 ドライバを左手に持ち替え、ガコッ、と音を立てジェネレイトスキャナーの挿入口を出し、取り出したハザードのカードをハザードドライバへ。

 

 〔Hazard--Finish movement.〕

 

 最低でも、これなら前衛の人達は仕留められるだろう。

 構えて、相手が充分な距離に迫ってくるのを待つ。その間に呼吸を整え、リズムを造る。

 

「─────────っ!」

 

 軸足に力を込め、両手を使ってドライバを振りかざす。そして、上に上がった鉈をテロリスト目掛けて斜めに振り落とす。

 さっき撃ったブラスターよりも大きな威力が出るため、地面が揺れるだけでなく、大きな砂埃起こり、広い範囲にヒビが入る。

 

 ヒビが入った地面に転がる腕、脚、胴体。────生き残った人は居ない。

「─────────」

 ハザードのカードをスキャナーから抜き、通常へと戻る。転がるモノに背を向け、あの男性の元へ。

「終わりました。貴方は葵の所へ向かってください。恐らく計画通りに進んでいるならポイントD-2に居る筈ですから。─────それと、こんなことは今後無いようにお願いします」

「あ、あぁ、すまない」

 小さな声でそう言うと、走って葵の居るポイントへ向かって行った。────それを見届けた私は、ドサッと、腰を地面に落とす。

 

「───ハッ、ハァッハアッ、ハァ───」

 そんなに出ていなかった筈の汗が、ポタポタと落ちる。脚も、手も、全身が震えている。

 ─────初めて、本物の人を殺した。

 心の奥に押し留めていた何とも言えない感情が、表側に溢れ出てくる。

 後ろを振り返ると、そこには私が殺した人達の一部が。さっきは見えなかったけど、手とか脚だけじゃなく、頭の欠片や内臓まで落ちている。切断された箇所、上手く切れずにと言えば良いのか、千切れた箇所もある。

 ────これをずっと続けなきゃいけないの。

 

「────早く行かなきゃ」

 見たくないモノから目を逸らし、立ち上がる。早く部隊に戻って、皆と戦わないと。

 ───こういうことは言わない方が良いんだろうけど、

「────ごめんなさい」

 

 

 ***

 

 

 結果から言うと、私達の初陣は勝利に終わった。けれど、私の内心は複雑だった。


 

 ──基地内廊下──

 

「お、茜さん。この前も良い作戦だったよ」

「あ、どうもです」

 ここに来て2ヶ月程が経った。最近では、すれ違う人達に話しかけられるようになって、来たばかりの頃より居心地は良い方だ。

「まるで茜は軍の孔明ね」

「葵だって作戦考えるでしょ?」

 葵と食堂へ向かう途中、話しかけられた言葉から会話が始まる。

「茜ほど良いものじゃないわ。やっぱり茜の考える作戦が1番なのよ」

「そ、そうかな」

 そんなことを言われ、少し照れる。葵に言ってもらえたなら、そうなのかもって思っちゃったりして。葵は、そんな人。

「葵に言われると、自信がつくよ」

「そうそう、自信を持ちなさい────っと、着いたわね」

 油の跳ねる音や、兵士達の騒ぎ声で溢れる食堂。その中へ入る前に、入り口にあるメニュー表を見る。

「今日は白身魚のフライかぁ。美味しいんだよね、これ」

「それより、結構混んでる時間に来ちゃったわね。どこか空いてるかな」

 そんな感じで迷っていると、ある男性が声をかけてきた。

「お2人さん、ここ使えよ。俺ら食い終わったからよ」

 それは、いつぞやの絡んできた男性なのでした。今では人が変わったように隔てなく会話をするようになって。

「あ、ありがとうございます」

 

 おばちゃんに皿に盛り付けてもらい、それを机に運ぶ。

「いただきます」

 5人で言っていた「いただきます」も、今ではバラバラ。皆それぞれ用事があったり、付き合いがあっありで、食事の時に揃うことは少なくなっていた。少し寂しいけれど、仕方がない。

「ラジオでも聞く?葵」

「そうしよっか」

 この基地に来てからの娯楽と言えばラジオ。テレビは無いし、ゲームとか遊ぶものも勿論無い。

 チューニングすると、ちょうど天気予報からニュースに変わるところだつた。

『政府軍はテロリストとの戦闘の中で《人型人形》を導入したことにより、優勢的な状況へと立ちました。────えぇ、金沢教授、このまま勝利をもたらすことはできるんでしょうか』

 ニュースは私達の話題だった。ラジオは戦争に関しては戦況の報道くらいしかせず、いつも似たような内容だ。無論、相手側も聞いているかもしれないため、作戦の情報や機密となる情報は教えていないし、報道もしない。一般の人達は私達の名前を知っているだけ。

 ────しかし、この教授は個人的に好きじゃない。だって────

『それは分かりません。テロリストだって対策を採ってくる訳ですからね。────しかし《人型人形》って言う「道具」に頼らざるを得ない政府軍もどうかと思いますが』

 ───これだ。

 私達《人型人形》を道具と言うこの教授が嫌いだ。毎回この教授がラジオで話す。そのせいか分からないけど、民衆の皆が私達を忌み嫌うようになっている。

 

 私達は人間じゃなくて、道具なんだって。

 

 でも、ただの道具だったらこんな気持ちにならなかったのかな。戦場に向かう度に「人を殺すのは嫌だ」って思わずに、戦えるのかな。

 この国を守るためにはテロリストを食い止めないといけない。仕方のないことだと言っても、内心では私はそう簡単に割り切れてない。人を殺す度に、考えても仕方ないことが頭の中を駆け巡る。

 

 

 本当に道具だったら、どれだけ気持ちが楽なのだろう。

 

 何度そう考えても、気持ちが楽になる日など来る筈がなかった。寧ろ逆で、もっと苦しい思いをすることになる。そんなこと、この時は考えてなかった。

 

 ─────あの日が、あの人が、やって来るんだ。



──to be continued──

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