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DOLL's SMOKE  作者: 蜻蛉織
4/14

ep.03 集められた少女


 鏡が無い、テレビも無い。白い天井、白い壁、白いタンス。その他も全部が白い物で統一された、なんだか寂しい部屋。

 目を覚ますと最初に視界に入るのはいつも白い天井。あの日からずっとこの繰り返しだ。

 

 7歳の時によく分からない手術を受けたあの日から、窓もない、電話もない、外の景色や声を知ることができない生活。───いや、外のことなら1つだけ耳に入ってくる。『戦争』のことだけ、毎日のように耳に入る。

 

 

 今日は普段は呼ばれないような場所に呼ばれた。誰かと会うらしい。きょーかんは何も教えてくれなかった。『ごくひ』らしい。

「ここだ、入りなさい」

 濃い緑色の服を着たおじさんが私に部屋に入るように言うので仕方なく入る。

 そこは、私の部屋と同じで、真っ白な部屋だった。真ん中に人影がある。私と同い年くらいの女の子が4人。私が部屋に入ると目をこっちに向けた。

「あなたも連れてこられたの?」

 4人の内の1人、毛先に行くに連れて青みがかる白い長髪に、蒼い目をした子が私に話しかけてきた。───ううん、この子だけじゃない。皆白い髪で毛先に色がついてる。

「────って聞かなくてもその白い髪を見たらすぐ分かるわね」

「え?」


 ────白い髪?私の髪は茶色のはず。白い髪なんて知らない。

 

「私の髪は茶色じゃないの?」

 私の言葉を聞くとポカンとした様子で、

「あなた、ここに来て自分の格好見たことある?」

「ううん。鏡、部屋に無いから」

「そっか。じゃあ私の手鏡使ってみて」

 そう言うと、蒼い目の子は服にあるポケットから手鏡を取り出し、私の前に差し出した。

 それを受け取り、私の顔を鏡に映す。

「───うそ」

 鏡には白い髪の先に赤色を滲ませている私が映っていた。口から言葉が出てこない。

 いつから?いつからこんな髪の毛の色になっちゃったの?

「私も最初は驚いたけど、すぐに慣れるよ。手術、受けたでしょ?それが原因なんだって。あそこの3人も一緒」

 戸惑う私の手を握り、優しく話す蒼い目の子。他の3人も同様にして私と同じ手術を受けたのだと言う。

 手術を受けたと言っても、何の手術だったのかは誰も教えてはくれない。覚えているのは、感覚の無い身体に、青いシート、眩しいライトの光くらいだった。

 

 ガチャ、とドアの開く音がした。

「ごめん、待たせたね」

 部屋に入ってきたのは、きょーかんだった。

「きょーかん」

「知ってる人?」

 どうやら、他の4人はきょーかんを知らないようだ。

「うん。私のお世話をしてくれてる」

 きょーかんは、私達の前に立つと、何か紙の束を開いた。

「や、茜。調子はどうだい?」

「元気だよ、きょーかん」

 知っている人が来たから少しだけだけど、安心感が生まれた。途端、蒼い目の子が私の顔を覗き込んできた。

 

「あなた、名前があるのね!」

 

「へ?」

 まるで珍しいものを見るかのように、目を輝かせる。この子だけじゃない。他の子も一緒だった。

 黄色い子も、

「なんで名前があるんだ?」

 紫の子も、

「不思議ぃ───」

 黒い子は黙っていたけど、多分2人と同じ気持ちなのだろう。

 一方で私は、3人に詰め寄られて少し焦る。

「はい、そこまでだよ」

 遮ったのはきょーかんだった。2人が詰め寄る重さから取り敢えず解放された私は乱れた髪を整える。

「今日は君達4人にも名前を付けるからね。そんなに茜を困らせないこと。いいね?」

 

「名前!?付けてもらえるんだ!やったぁ!」

 飛び跳ねて喜ぶ蒼い目の子。きょーかんも笑顔でその様子を見ている。

「じゃあ順に付けていくよ。君は『葵』」

「はい!」

 蒼い目の子を指差して言った名前はアオイ。

「君は紫野」

「はぁい」

 ポニーテールの紫の子はシノ。

「そして、黄乃」

「おぉ!」

 ボブカットの黄色い子はキノ。

「そして君は黒葉だ」

「わかった」

 前髪の長いショートヘアの黒い子はクロハ。

 

 どの子も髪の毛の色と合わせた名前だった。少し簡単だと思ったけど、本人達は喜んでいるから良いのかもしれない。

「私、葵!よろしく、茜ちゃん!」

 こちらに近づいて、今付けてもらった名前を嬉しそうに名乗る葵。

「よろしく、葵ちゃん」

 

「よし、本題に入ろうか」

「本題?」

 また、紙の束に目をやるきょーかん。多分、今から話すことがその紙に書かれているんだろう。

「今から話すのは他でもない、君達のことだ」

 どこか、きょーかんの雰囲気が変わる。真剣な話だと、なんとなくだけど分かる。

「君達は手術を受けた。それは分かってるね?───その手術を受けて、君達は《人型人形》という者になった」

「お人形さん?」

 紫野が首をかしげる。確かにドールは人形って意味だって『こじいん』のおばさんに習った。私達が人形って、どういうこと?

「あぁ、えっとね、人形じゃないんだ。まぁ、ただの名前だから気にしないで」

 少し困った様子のきょーかんは、咳払いをしてから話を再開する。

「君達には『ある役目』を遂げてもらう。その内容は言えないけど、後々分かる。その為に1週間後から勉強と運動を毎日、頑張ってもらう」

「勉強、するの?」

 今度は黒葉が首をかしげた。無口そうに見えて、意外と人並みに発言はするようだ。

「それと運動もね。いつ終わるかは君達次第だけど、なるべく早く終わるように僕も頑張るから。一緒に頑張ろうね、皆」

 

 それから、勉強と運動をする毎日を皆で過ごす共同生活が始まった。

 

 

 ***

 

  前の私みたいな茶髪のショートヘアのあの人は木村さん。

 ボサボサな髪をアメを舐めながら軽く掻いているあの人は琴居さん。

 

 何年も此所に住んでいれば所員達の顔を皆覚えることが出来る。

 手術を受けてから、いつの間にか6年の月日が流れていた。他の《人型人形》と出会ってから、私達が集められた理由がなんとなくだけど分かった気がする。

 それは恐らく、戦争のため。

 

 勉強と運動───と言うより訓練が終わって、今日で1週間が経とうとしている。

 《人型人形》全員が呼び出されて、教官から大事な話を聞くようだ。

 プシュッ、と音を立て、自動ドアが開く。

「遅いぞ茜」

「ごめんて、黄乃。話し込んでた」

 部屋に入ると、黄乃が私を急かすかのように言ってくる。もう皆揃っていたから。

「遅いって言っても、君達が早く来すぎなんだって」

「あれ、珍しいですね。教官が早く来るなんて」

 いつもは私達より遅く来る教官が、今日は珍しく先に来ていた。こういう時は本当に大事な話をする時だ。

 そう考え、私は少し急いで席に座る。

 

「えっと、取り敢えず先週までのこと、皆お疲れ様。早速なんだけど、《カード》の束を今から配るから少し待ってて」

 そう言うと、教官は黒葉から順にカードの束を1人1人、1つずつ配り始めた。

 カードは硬めで、折り曲げることは出来そうにない。

「それは君達に合わせて造ってある。交換はしたら駄目だからね」

「子供じゃないんですから、しませんよ」

 葵が笑顔で答えると、そうだそうだ、と黄乃と紫野が追うように言った。

「ほら、2人共茶化さない。大事な話なんでしょ?教官」

「助かったよ、茜。今日の話は君達が次のステップへ行くという話をしようと思う」

「次のステップ、ですか?」

 カードなんかで何が出来るのだろう。カードの枚数はざっと20枚程。カードがあっても、それを使うには必ず何かの装置が必要だ。

「じゃあ、これを見て」

 ゴトッ、と重いものが机に乗っかる音が室内に響く。それは、大まかに言うと四角い形状で、所々にここを押せと言うように矢印がある、見慣れない機械だった。

「ここからが本題だ。よく聞いて」

 少し空気が変わった。さっきまで教官を茶化していた黄乃と紫野も今では真面目な顔になっている。

「皆気づいてると思うけど、君達が手術を受けてこの研究所に集められたのは、君達に戦争でテロリストと戦ってもらうためだ」

 皆、息を飲み頷く。私だけでなく、どうやら他の《人型人形》も気づいているようだ。

「この僕が持っている機械、《ジェネレイトスキャナー》って言うんだけどね。このスキャナーと今配ったカードを使った訓練をこれから君達に受けてもらう」

 

「あの、いきなり言われても、このカードが何なのかも分からないし、スキャナー?───も一体何なのか知らない状態で言われても────」

「茜の言う通りです。どう受けとれば良いのか分かりませんよ」

 私と葵の言葉で、教官は忘れてた、という顔をして、少し焦った様子で言った。

「あっ、ごめん忘れてたよ」

 この人はたまにヌけてるところがあると言うかなんと言うか。前みたいに資料纏めてきたら良いのに、と最近思う。

「まずはカードを見て。種類は2つ。武器になる絵が描かれている《ウェポンカード》とえっと、よく分からない絵がある《エフェクティブカード》の2種類があるはずだ。それぞれ18枚と1枚」

 武器が18枚、エフェなんとかが1枚か。銃、銃弾、剣、ボウガン、ブラスター、槍、斧、ハンマー、弓。この9種類が2枚ずつある。あとは────あれ?

 

「どうしたんだい、茜?」

 私の反応に気づいたのか、教官が顔を私に向ける。

「あの、エフェクティブ?───のカードが私のとこに2枚あるんですけど」

「え?おかしいな、茜には《ハザード》のカード1枚の筈なんだけどな。もう1枚は何って書いてある?」

 そう言われ、私はもう1枚のエフェクティブカードを確認する。そのカードには絵が描かれておらず、カード名が載っている場所には────

「────《Unknown》って書いてあります」

 

 ────《Unknown》不明って、どういうこと?

 

「僕の資料には書いてないな。調べておくから、何か分かったら呼ぶよ」

「分かりました」

 資料があるなら先に出しとけば良かったのに。とは言えない。

 《ハザード》と《Unknown》の2枚のカード。他の皆が何も言わないってことは、皆は1枚ずつエフェクティブカードがあるんだろう。

 ────どうして私だけ2枚あるの?

「それはそれとして、今から説明をしようか。カードは2種類あるってことは言ったね?そのカードはこのスキャナーと一緒に使うんだ」

 そう言って、教官は先程のジェネレイトスキャナーを私たちに見せるように手に持つ。

「合計18枚のウェポンカードはスキャナーに入れると、カードに書かれている武器が自動的に出てくる仕組みだ」

 

 なんて画期的な技術なのか。────なんて思いは実感が湧かないから出てこない。

 百聞は一見にしかず。その通りだと、こういう時に実感する。

「そしてエフェクティブカード。これは使うと、身体強化と、ある能力を君達に付加するカードだ」

 そこで、教官は再び資料に目を向けると、それぞれの《人型人形》に与えられたエフェクティブカードの名前を言い始めた。

「茜は《ハザード》、葵は《バーサーカー》、紫野は《ウィザード》、黄乃は《キャンサー》、黒葉は《ジョーカー》。間違いないかな」

 バラバラに頷く。

 バーサーカーとかキャンサーとか、おっかない単語が耳に入ってきた。

「まぁ、名前とかカードの絵を見ても、あんまりピンと来ないけどな。な、葵?」

「そうね。訓練の時のお楽しみにでもしておこうかしら」

「さんせぇ」

 この部屋に来て皆が話すのを見ていると、今さらだけど皆変わらないな、と思う。

 名前があった私に3人が迫ってきて、喋ってなかったけど黒葉も驚いたような顔をして────

「───黒葉、どうしたの?」

 黒葉を見ると、彼女はジッとジョーカーのカードを少し深刻そうな顔で見ていた。

「ううん、なんでもない。どんな能力か気になってただけだよ」

「そっか、なら良いの」

 

 

 ────────

 

 

 結論から言うと、私のハザードのカードには、私の身体に付加される能力が無かった。いや、正確にはあるけど身体強化に身体強化を重ねるだけで、これは能力とは呼べない。

 葵のバーサーカーには『威圧』

 紫野のウィザードには『超現象』

 黄乃のキャンサーには『異物』

 黒葉のジョーカーには『虚偽』

 これらの能力が他の皆にあることが前の訓練で分かった。

 

 

「茜です。入りますね」

 私は教官に話があるから、と部屋に呼ばれた。

 自動ドアが開き部屋に入ると、そこには教官の他に葵と紫野がいた。資料で見た学校の教室の半分くらいの大きさの部屋。

「葵も紫野も呼ばれたの?」

「ええ。大事な話があるって言われて」

「教官、茜ちゃん来たから話始めてよぉ」

 紫野の言葉を合図に、教官は話を始める体勢に入る。

 

「今日、君達を呼んだのは茜と紫野のエフェクティブカードについて話すことがあるからなんだ」

 葵は今では5人の《人型人形》のリーダーだから呼ばれたのは分かるとして、私だけじゃなくて紫野も呼ばれた理由は?

「言いにくいんだけど言わなきゃいけないから話すよ」

「何です?その言い方は────」

 なんだか、含みのある言い方でとても気になる。

 

「茜と紫野のエフェクティブカード。それにね、使用限界時間があるんだ」

「────使用限界時間?」

 教官は私の言葉に静かに頷くと、また話を再開した。

 

「ハザードとウィザードはとても強力なカードでね、ずっと使い続けると副作用として身体に異常が出るんだ」

「────その、異常って言うのは?」

「神経の崩壊、思考放棄、身体の欠損、そして────暴走。これらのどれかが起こる可能性が高い」

 

「──────っ」

 

 現実味を帯びている言葉の重さを感じた。全身の毛が逆立つような感覚。

 いつもは何処か抜けている紫野も重みを感じている顔で、葵も血の気が引いた様な顔で立っていて、まるで自分の事のように聞いていた。

「そ、その使用限界時間は、どのくらい───ですか?」

「────ウィザードは10分、ハザードは8分。それ以上使うと副作用が発生するんだ」

 ─────短すぎる。今までの戦闘の映像を観る限り、1回の戦闘の時間に対して、とても短い。

「両方とも1回の使用につき、2時間、空ける必要がある。────それと茜」

「!はい」

「Unknownのカードについてなんだけど」

 Unknown 何も分からないから前の訓練では使わなかったけど、何か分かったのかな。

「あのカードには、何も無いらしい。スキャナーに入れても反応はない。一応持っておいた方が良いだろうけど」

「───らしい、って言うのは?」

 教官は1つ、息を大きく吸い、

「僕も何でも知ってる訳じゃなくてね、噂程度のものなんだ。でもUnknownについては結構確かな情報だ」

 初めて知った。教官にも分からないことがあるんだ。───まあ確かに、いつも話すときは資料があったから、よくよく考えたらそうなのか。

「なんか、《エンジェル》っていうカードがあるとかも聞いたな。まぁ、これは本当に噂なんだけど」

 

 

 ───────

 

 

「はぁ────」

 コッコッ、と廊下に足音が反響する。私は大きく溜め息をつき、重い足取りで葵と紫野の後を歩いている。

 使用限界時間、副作用。さっきの話が頭の中を駆け回る。皆エフェクティブカードは強力だけど、確かに紫野のカードは飛び抜けて強かった。私は、強化を2つ掛けてるから機動性にだけは他より秀でている。

 ─────強力な力には、それ相応のリスクが有るのか。

 

「茜ちゃん」

「紫野───」

 紫野は振り返って、私の方に駆け寄ると、ギュッと私の手を握った。

 

「そんな深く考え込まないで。ちゃんと使えば問題ないんだから、皆に心配かけないように頑張ろ?」

 

 紫野は同い年だけど、どこか子供っぽくて───でも、だからこそ、いつも真っ直ぐな子。

 そんな紫野の言葉が今はなんだかとても嬉しくて、頼もしくて。

「────うん、そうだね、紫野。頑張らなきゃだね、ありがと」

 その様子を見ていた葵は紫野に近づき、笑顔で頭を撫でながら、

「紫野もたまには良いこと言うのね」

「もぉ~葵ちゃんてばひどぉい」

 葵は真面目そうに見えて、こんな風に冗談を言ったりする。

 その冗談で私達の気持ちは和んでフッと軽くなった。

「そうだよねぇ、紫野。いつも良いこと言ってるよね?」

「茜ちゃん分かってるねぇ。背はちっこくても、私は大人のなだぁ」

 小さい身体で、ひしっと抱きついて来て、とても可愛らしい。

「あら、茜は紫野の味方?」

「そ、そんな言い方しないでよ、葵」

「ふふっ、冗談よ」

 

 楽しい時間。皆で過ごす時間には温もりがあって、何物にも代えられない大切な時間。

  でも、楽しい時間だけを過ごす日が残り少ないことを身体の奥底で感じている。

 

 ────そう、私達は戦争のために集められたことを忘れてはいけない。私達が今向かっているのは戦争への道なのだから。

 

 死にたくない。

 

 そんなことを思うのは悪いことなのだろうか。───いや、人が死にたくないって思わないなんて有り得ない。

 

 あと2週間とちょっと。

 私は、私達は絶対生き残る。訓練も頑張ったんだから。



──to be continued──

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