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DOLL's SMOKE  作者: 蜻蛉織
14/14

ep.13 遭遇


「じゃあ皆、また来週ね。1週間お疲れ様」

 その言葉を合図に、ホームルームは終了した。その瞬間にざわめきが一気に広がり、他のクラスの生徒達が入り混ざる。

 一緒に帰ろう。寄り道してこうよ。部活行くぞ~。と、様々な声があらゆる方向から茜の耳に飛び込んでくる。

「茜っち~!かーえろっ」

 バッグに教科書を詰める茜の元に恵美達がやって来た。まだその作業が終わってない茜を見て

「めんどくさいよね~。紙の教科書じゃなくてさ、都会みたいなタブレットにしてくんないかね」

 悠莉が恵美の後ろから顔を出して、溜め息をつくように言った。悠莉の言う通り、このご時世、紙の本があるのは今茜が居るような田舎だけだ。他の地方都市やその近辺では紙の本は見る影もない。

「確かにそうですね。紙って重いですしね」

 詰め終わったところで茜が言葉を口にした。

「────あの、今日はちょっと用事があるので───その───」

「ん~、そっか。一緒に行こっか?」

「い、いえ、1人で大丈夫です。────それではお先に失礼します。また来週です」

 そそくさと席を立ち、扉をくぐって茜は行ってしまった。残された4人は顔を見合わせて、少し無言の時間を作り

「茜っち行っちゃったね」

「そうだな」

「今日は新鮮味のない顔を見ながら帰るのね」

「なんか酷くないか、悠莉」

 

 家とは反対方向にしばらく歩き、先日巧達と一緒に行った広場へと茜は向かった。1回だけしか行ったことのない場所だったが、意外と道は覚えているものだ。

 広場に着くと、金曜日だからか人の往来が激しいことが見てとれた。その場にいる人の多くが学校帰りの学生だ。

「茜!」

 自分を呼び掛ける声のした方向へ顔を向けると、公園の中心にある噴水近くに、葵と黄乃の姿があった。昨日、茜が座っていた場所だった。

「ごめん、おまたせ」

「いいって。学校から歩きなんだろ?」

 黄乃が持っていた缶ジュースを茜に差し出した。そしてすぐ、話が始まった。

「茜はさっき、家に帰らないって言ってたじゃない。────やっぱり、帰った方が良いと思うの」

「え、でも────」

 葵の口から出た、予想もしていなかった言葉。茜は自分が家に居なかったら、人型人形を狙っているという犯人に圭子達が傷付くことはないと考えていた。その考えの中に飛び込んできた葵の言葉に驚きをあらわにせざるを得なかった。

「相手の狙いは私達。しかも、この地域に今居るの」

「な、何が言いたいの?」

「貴女が暮らしてる場所の情報まで盗まれてたらってこと、有り得るかもって思ったの。────もしそうなら、貴女が居なくなったあの家は誰も守れないでしょ?」

「『かもしれない』は出来るだけ潰しとこうぜって話だよ」

 そこまで、茜は頭が回らなかった。ただ自分が居なければ被害は無いと考えていた────なんと安直な考えなのかと、茜は自分を少し情けなく思った。

「うん、じゃあ家に帰って、夜の間は外で見張ろうかな」

「えぇ、私達も交代交代見張るから」

「かぁ~っ!徹夜なんて久々だぜ」

 自分自身のことではないのに、茜のために何から何まで考えてくれる葵と黄乃。相も変わらず、彼女らは優しい。

 

「でも待つって言ってもよ、向こうから来るのを待つだけのも嫌だよな」

「まぁ、そうだよね」

 いつ来るかも定かではない相手を待ち続けるというのは、気楽なものではない。常に警戒をしなければならず、精神的にも身体的にも負担がかかる。

 何とかして情報を集められないかと、茜が口に出そうとしたその刹那、耳に飛び込んできたのは────

 

「ねぇ───それってワタシの話?」

 

「────っ!?」

 どこかで聞いた声。

 誰も、気が付かなかった。その少女が茜達の近くに居たことに、噴水の縁に座っていたことに。一瞬遅れて茜達はその場から素早く退いた。

 

 ────全く気付かなかった───っ!いつからっ!?

 

「あはっ。そんなに驚かなくてもさぁ────。ワタシ傷付いちゃう~」

「────!貴女は───!」

 その少女の容姿は、茜にとって見覚えのあるものだった。────黒髪に施された緑色のグラデーション。揺れるサイドテール。緑色の目。季節外れの、破れた大きめのコート。

「────昨日のっ」

「当ったり~っ」

 顎を上げて、煽るように3人を見るその少女。その仕草全体に、余裕が表れている。

 そして、その少女は左人差し指で耳を塞ぎ、右腕を天に。その右手には───ハンドガン。更に、それよりも視線を引き付けられたのが彼女の左腕にあるもの─────

 

「ジェネレイト──スキャナー───」

 

「にひっ」

 その嗤いに一つ遅れて凄まじく、そして短い大きな音が辺りに響く。彼女が引き金を引いたのだ。

 ────その音を合図に広場が叫び声に包まれた。様々な声色の叫び声と逃げる足音が耳を刺す。誰も予期しなかった事態に、茜達もその光景を見ることしか出来ない。

「アナタ達と話すには、些か人が多かったからね。────これで気兼ねなく話せ────」

「いったっ!!」

 高い声が少女の話を遮る。茜が声の方に視線を向けると、そこにはけたであろう女子高生とその友人の2人がそこに居た。

「ワタシの楽しみを遮らないでよ───只の人間がさぁ───」

 顔を見ていなくても、それが怒りに満ちた声だと茜はすぐに分かった。その際に茜の脳裏をよぎった「嫌な予感」に従って振り返ると、ハンドガンを女子高生に向けていた少女が瞳に映った。

 

 ────まずいっ!今はスキャナーがない────っ!

 

 庇おうと足を前に出した瞬間、走っていく1人の影が茜の視界に入った。

「バイバ~イ」

 その声と共に放たれた銃声。しかし、その後すぐにキィン、と甲高い音が響いた。

「あっぶねぇ────」

 そう言う黄乃の左手にはジェネレイトスキャナーが取り付けられていた。そして、右手には剣が。女子高生の前に立ち、放たれた弾丸を間一髪で弾いたのだ。

「おいっ、早く逃げろ!あと、できれば警察隊に連絡頼む!」

 庇われた2人は頷くことだけをして青ざめた顔でその場を離れた。

 

「茜、スキャナーは────?」

「ごめん、家にある───」

 その茜の答えを聞き、葵はカードホルダーから剣のカードを取り出し、スキャナーに挿入した。

「これ、その場凌ぎにしかならないと思うけど───」

「ありがと────」

 差し出された剣を葵から受け取り、茜は件の少女の方へ刃を向ける。そして、おそらく茜以外の2人も気になっているであろうことを、少女に問う。

「なんで、スキャナーを持ってるの?────貴女は誰なの?」

 茜のその質問に、少女は一瞬だけキョトンとした顔を浮かべ、すぐに理解したような顔をした。

「あぁ、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね。────ワタシは緑音ロクネ

 まるで友達感覚のような口調で話し始めた緑音という名の少女。さらに────

 

「6番目の人型人形────だよ───」


 予想だにしない言葉が、緑音の口から発せられた。────人型人形であると、そう言った。

「────ありえないっ!人型人形は私達だけの筈じゃ───っ!」

「黒髪の人型人形とか聞いたことないぞ───」

「しかも───私達と同じ型番のスキャナーを────」

「────驚き過ぎだってぇ。まぁ、これは『貰い物』なんだけど」

 スキャナーを見つめ、手で撫でながら緑音は言った。

「貰い物って────」


「さっ!やっと会えたんだ、記念に遊ぼうよ!」

 スキャナーのスリットを開き、右手に持ったカードは斧。

 

〔Ax---loading──────〕

 

 カードの挿入後、茜達が実際に使っているものと同型の機械斧が出現した。

 

 ────使えるってことは、本当に人型人形!?

 

 正直、嘘を言っているのかと思っていた茜。しかし、目の前で実際に出され、その考えは棄却された。

「先ずは穂原茜!」

 

 ────来るっ!

 

 斧を振り上げ、茜を目掛けて一直線に緑音は跳んだ。茜はそれを剣で受けようとするも、質量の差でそれは出来なかった。攻撃を流すことでその場は切り抜けるが、またすぐに第2撃がやって来る。

 ───しかし、茜に向かって跳んだ緑音に対して、黄乃が槍でそれを防ぐ。

「おっとっと───」

「ちっ!すばしっこいな」

 黄乃の介入によって、緑音は数歩後退する。すると、少しの間考え込み────

「ん~、1対3は分が悪いなぁ」

「ケッ、だったら諦めてアタシらに捕まっちまえばいいだろ?」

「うん、そういう訳にもいかないんよ」

 笑顔でそう言葉を返すと、緑音はスキャナーに1枚のカードを入れた。そして、スキャナーからは聞き覚えのある待機音が鳴り響く。───茜達の顔は青くなり、不穏な空気が3人を包む。

「────う、嘘だろ」

「この音────」

 今、耳に届いている待機音は彼女達にとって聞き覚えのあるもの───茜にとっては、鳴って欲しくはなかった音だった。


〔Wizard sets---standing by ─────〕

 

「ウィザード────紫野の──っ!」

 茜の顔が、小さく歪む。全く同じ音、同じ装備、同じ変身の音なのに、それが紫野ではないだけで全く違うモノに思えた。

 

〔---be over.〕

 

「嘘だ────」

 薄い声が、茜の口から漏れる。


「ははっ!3人共驚きすぎてガラ空きなんだけどっ」

 ────貰い物と言っていたスキャナー。その言葉が、アカリの言葉と結び付く。ゼロでなくとも低かった可能性が、今目の前の出来事で加速的に上昇していく。

 あの戦いで消えた筈の紫野、そして彼女が持っていたスキャナー、そしてカードを扱う少女がそこに居る。そして、茜が辿り着いた答えは────

「エボルヴ────」

「あはぁっ、またまた当たりぃっ!」

 茜達を煽るようにくねくねと揺れながら、緑音は歪んだ顔を浮かべる。

「あり得ねぇ!エボルヴはアタシ達が潰した筈だ!そんな戯言言うんじゃ────」

「ホントだよ。考えてみなよ」

 

 何故かその短い彼女の言葉に威圧され、3人の口からは言葉がでなかった。

「人型人形の2人はエボルヴとの最後の戦いで行方不明になった。それに加え、何も所有物は見つからない。────そしてワタシが同じ型番のスキャナーを使ってて、行方不明の1人が持っていたウィザードが手元にある。これで繋がったでしょ?」

「────じ、じゃあ───っ」

 茜が声を絞り出す。青ざめた顔で、緑音と目を合わせようとせずに震えた声で────

「人型人形になる、手術は────。それがなきゃ、あ、貴女は人型人形には、なれない────」

 絶望に近い表情を浮かべる茜の顔を見れて昂ったのか、緑音は嗤いながら両人差し指を自分の頭に当て、言った。

 

「脳細胞の移植────だよ」

 

「────────っ」

 誰の、とは言っていなかったが、そんなことは聞かずとも分かった。茜は何も言葉が出ずに、ただ唾を飲み込むだけ。

「────ま、待って。それって────」

 葵も血の気が引いた状態で、やっとのことで声を出す。

「ん~?私はそういう話しか聞いてないけど。───あ、1回だけ『元の人』の死体見たなぁ。顔とか包帯だらけだったけど、ワタシみたいに小柄な感じで────」

「────それ以上喋んなっ!」

 そう叫び、黄乃は緑音目掛けて飛び出した。手に持った槍を、前方に立つ魔法使いに向かって、黄乃は勢い良く放り投げる。────しかし、

「宮西黄乃、人型人形のアナタなら今の優劣分かってて当然の筈なんだけどな~」

 ────余裕の笑み。エフェクティブカードを使っている緑音に対して、生身の状態の黄乃が敵う訳もなく────。

「クソッ、しっかり使えてんのかよ」

「ふふっ、当たり前じゃん?」

 放たれた槍は、緑音の目前でその動きを宙に浮いたまま止めていた。

「要らないから返すね~?」

 槍は180度向きを変え、ピンッと指で弾く動きをすると、先程黄乃が投げたスピードそのままに放たれた。

「────んにゃろっ!」

 いきなり飛んでくる槍を掴むことは到底無理なことで、顔面スレスレで避ける。

「くっそ、紫野とは使い方が全然ちげぇなっ!やりにくい!」

「ははっ!当たり前じゃん、ワタシは4番目とは違うんだから」

「その呼び方やめろっ!アイツにゃ紫野って名前があるんだ!」

「あははっ、怒った怒った♪」

 その言葉に反応し、黄乃は眉間にシワを寄せ、大声で叫ぶ。

「────っ、てんめぇ!」

 すかさず黄乃は自身のカードホルダーから1枚取り出し、スキャナーへ。

 

〔Cancer sets---standing by ────be over.〕

 

「サブドライバ展開!」

 キャンサードライバは遠距離攻撃用武器であるため、物を操れるウィザードとは相性が悪い。そのため、近接戦闘用武器のサブドライバを選ぶ他なかった。

 黄乃は緑音に向かって一直線に走る。しかし、緑音は余裕を表しているのか、何も武器を出すことなくその場所に立つだけで。

「流石に武器を選ぶことは出来るよね」

「軍人ナメんじゃねぇぞ!」

 緑音に斬りかかろうとする黄乃。しかし、キィンと甲高い音が辺りに響く。────ウィザードの腕の装甲に攻撃が阻まれた。

 

 ────なんだよ、この変な感触。それに、全部の攻撃が腕で受け流されるなんてことが───。

 

「あれ?この使い方、もしかして見たことない?」

「あぁ!?」

 怒りの混ざった黄乃の声。剣擊を受けながらも余裕の笑みで余裕の発言を相も変わらず緑音は見せる。

 

「───そんな使い方があったのね」

 

 不意に黄乃の後ろから届いたその声と共に、機械音声が鳴る。

 

〔Berserker sets────〕

 

「葵────やべっ!」

 何かを悟った黄乃が、自身の身を後方へと運び、緑音から離れる。しかし緑音は何があるのか分かっておらずその場に留まるだけで──────

「え、何─────うぉわっ!!」

 黄乃が離れたすぐ後、轟音を伴いながら、緑音を中心に円形の窪みが地面に発生する。ヒビが入り、衝撃によって散った地面の欠片がパラパラと音を立てながら落ちた。

「────おっもぉ───くぅっ。────紀伊国葵──バーサーカーの威圧か」

「そう───超現象を使っても抜け出せないわよ」

「わりぃな葵、助かった」

 一旦落ち着いたその場所に茜も駆け寄る。

「────あんな初歩的な使い方も知らないなんて、4番目はウィザードの使い手に相応しくないね」

「貴女と違って紫野は広範囲攻撃を重点的にやってたの。────改めて思うけど、ウィザードって個人攻撃でも厄介ね」

「あー、そゆことね。確かにワタシって、一対一しか練習してこなかったなぁ」

 身動きがとれなくなった状況でも、緑音は今までの口調を変えることはない。余裕を醸し出しているような喋りはまだ続く。

「────ねぇ、知ってる?」

「何を?」

 突然の問いかけに、葵は短い返事をした。緑音はその瞬間、口の端をつり上げて笑う。

 

「───人を見下す余裕は、命取りなんだよ?」

 

「───!葵避けて!」

 茜が声をあげたその刹那、地面が小さく盛り上がり、小さな穴が開くと共に葵の方へと小さな物体が飛んでくる。

「ごめん葵!」

「いっ────!!」

 ギリギリのところで茜が葵の髪の毛を引っ張り避けさせようとする。────鼻先を飛んできた物体が掠り、そのまま見えなくなる程高く飛んでいった。

 ────そして、その一瞬を緑音は見逃さない。突然の攻撃に戸惑わずにはいられない、そして気を取られた状態では他のことに向けられている集中力はないも同然。とっさの行動であるなら尚のこと────。

「今だっ!」

 弱まったバーサーカーの威圧をウィザードの超現象で壁を作り、押し上げながらその場から逃げる。

 

「あっぶなかったなぁ流石に」

「そう言う割には余裕そうじゃねぇか。一体どうやったんだ」

「応用だよ、応用。ワタシの体はべったり地面に張り付いてるんだから、掌から小さな壁を地面に作ってって道を掘っていく。ついでに途中にあった大きめの石を勢い付けて放り出すだけ」

 ま、応用って程でもないか。と緑音はまた笑う。

 たったの3ヶ月から4ヶ月。────恐らくこれが緑音に与えられた訓練の時間だろう。数年間を通して使ってきた紫野と同等かそれ以上の威力を使いこなしている。それを考えると、あまりにも短い。

 

「うん、今日はもう止める!」

「────はぁ?」

 突如として放たれた予想外の言葉に、黄乃は開いた口が塞がらない様子だった。

「まぁ多勢に無勢ってのもあるけど、1番の理由は穂原茜、キミだ」

「────私?」

「ハザードが1番強いって聞いてウキウキだったけど、スキャナーがないんじゃ楽しくないよ」

「おいおい───言ってくれるじゃねぇか」

「本当のことだよ。事実としてキミは対象に触れないと異物を作り出せないし、紀伊国葵が持ってるのは上から押し潰してくる力なんだから、最初から上を警戒していれば、なんてことない」

 

 ────他のエフェクティブの能力も知ってる。どこでその情報を手に入れたの───?

 

 人型人形の基本的な情報はどこの基地にも共有されてはいる。緑音がこの場所に来たのも、襲った基地から奪った情報を元にしたのだろう。だがしかし、カードの情報───特にエフェクティブは機密度が高い故に幼い頃に居た軍本部と、エボルヴとの戦場近くにあった基地にしか共有されていない。

「────どこでエフェクティブの情報を知ったのかって聞きたそうな顔だね、穂原茜」

「お見通しってこと───」

「ははっ─────そろそろ使用限界だからまた今度ね~」

 そう言ってウィザードを解くことなく緑音は茜達に背を向けるが、そこで黄乃が叫ぶ。

「おい!逃げんのかよお前!」

 首を回して、緑音は視線だけを茜達に送る。

「逃げるって───先に攻撃してきたのはアナタ達だよ?ワタシはただ話の邪魔者を殺そうとしただけなのにさ─────ほんじゃ、また!」

 挙げられた緑音の左掌が小さく歪む。───それに気付くも束の間に爆風が茜達を襲った。

「うわぁっ!」

「くっそ!逃げんな!」

 一瞬だけ動けなかっただけでも、ウィザードなら、その場からの移動などは容易かった。

「逃げられた────」

 ようやく見えるようになった時には、視界に緑音の姿はなかった。その場にはただ静けさが残るだけ。

 

 ▲▼

 

 辺りが夕暮れ色に染まった頃に、茜は穂原家最寄りのバス停に着いた。

「ふぅ────」

 バスから降り、1つ深呼吸をする。

 

 ────葵と黄乃、大丈夫かな。

  2人に任せてきてしまった。黄乃は帰れって言ってくれたけど、何だか申し訳ない。

 

 騒動に巻き込まれたあの女子高生が連絡してくれたのだろう、緑音が去った後に警察隊がやって来た。黄乃は「到着が遅い」とぼやいていたが、一般人からの通報ではそれなりに時間がかかるらしい。

 そこからは警察隊から話を聞かれたが、

 

 ─「ここはアタシと葵でやっとくから茜は帰れって。おばさん達が心配するぞ」

 

 と言われ、茜はその場を離れた。

「後でお礼言っとかないと────」

 

 ────それにしても、まさか向こうから仕掛けてくるなんて。考えようによっては、相手を見つける手間が省けてラッキー。でも、そんな悠長なことは言ってられない。

「人を巻き込むのだけは避けなきゃ────」

 

 様々な緑に彩られた畑を横目に、茜は自宅の玄関へと辿り着く。ドアノブに手をかけても、思うように手が動かなかった。

「─────ふぅ」

 

 深呼吸を1つ。茜はその重いドアノブを動かした。



──to be continued──

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