勘違い?勘違い
全身が凍りついたような錯覚を覚えた。
「おいっ嬢ちゃんしっかりしろ!」
ベッドに乗り上げ抱き上げ――れない、鎖骨が折れているのだ。ペケは必死になって声をかける。
「………あ、ぅぅ。」
少女は虚ろな目をして呻き声を漏らし苦しそうに身をよじった。
「―――ッゥ!?」
その姿が、自分の愛する女性と重なった。
「(こいつは、ただの“熱病”じゃねぇ、もしかしたらアイツと同じ――)」
ペケは「ハッ」と言葉を詰まらせ、依頼主の言葉を思い出した。
―――生け捕りは不要。見せしめとして殺せ。
「(知ってやがったのか!――クソガッ!)」
ペケの彼女はある病に犯されている。現代の医学は全く歯がたたず魔術もまた僅かながらの延命しか期待出来ない。
ペケは闇オークションに流れる秘薬を求めて大金を欲していたのだ。
『破格の報酬』『暗殺者ではなく後ろ暗い依頼を好まない俺に出した殺しの依頼』
ペケは頬をひきつらせる。
仕組んだとしたら悪趣味過ぎるぜ。
『欲望カウント………寡黙イケメン………“不足”………実体化ヲ解除………………ザザッ……ザ――――――「申し訳ありません、契約者よ。この力少しだけ、預からせてもらいます。」――――――プツン』
「(ああ、そうだ。こいつは秘薬じゃねぇと助からない。そして秘薬は一本だけ来月のオークションで流れる。大金がいるし、こいつの分はどう足掻いても手に入らない)」
つまり、依頼主の言い分はこうだ。
どうせ助からん。心置きなくやれ。
お貴族様は人の心を忘れただとか巷じゃあ悪評たらたらだが、依頼主は飛びっきりのクズ野郎だ。
ペケは、依頼が失敗したことに少しだけ安堵を覚える。
どれだけ葛藤しようともう俺は“選ぶ”側じゃない、後はこいつが俺をどうにか――――いない、だと?
後ろを振り替えれば当然のように生霊は姿を消していた。
えっ、油断した?
一時的に離れ、チャンス………なのか、
「ぅ、………うぅ。」
「……………………。」
選択はペケに委ねられた。
「…うぅ(変な奴が顔を寄せてくる。夢か…気持ち悪い…)」