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◆男嫌いのサメ姫は、愛の言葉を信じない◆  作者: ナユタ
◆第三章◆

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36/49

*幕間*王の椅子は誰がために。

今回はラフィアナに助けられてばかりの王子様、

ダリオの視点でお送りさせて頂きます\(´ω`*)



◇◇◇


 かつてこの地に五つの貴族領があった。

 五つの貴族家は周辺の国々に対抗すべしと。

 そこで領地を統合、一つの国となろうと約束し。

 その際国を統べる王家を、回り持ちにしようと取り決めた。


 五家はみな平等であり、誰もが王たる資格を持つ。

 公平なりや、我等が王家。

 ああ幾久しく、栄えよザヴィニア。


◇◇◇



 いつ頃から謳い継がれたものなのか、そんな馬鹿げた夢物語にも似た謳が、五家に産まれたボク達のような人間を今日まで苦しめる。


 【五王家制度】


 確かにその名の通り五つの家はみな平等であり、誰もが王になる権限を持つ。


 しかしそれはかつての話であり、時が流れた現在においていつしか均衡は密やかに崩れつつあった。元より領地の大きさによって玉座の回り持ちの順番が前後する暗黙の選定基準。おまけに女性には玉座を譲れないという縛りもある。


 この時点で決して平等ではないはずなのに、表面上は平和なものだから誰も声を上げることなく、この国は薄氷の上に立つように危なげな平和を築いてきた。


 そんな中でフォンタナ家という割とご立派な肩書きの家に産まれついてしまったことは、ボクにとっての地獄の始まり。自分よりも確実に出来の良い四歳下の妹が性別だけで父親の情を得られる立場から弾かれ、逆にボクは性別だけで父親からの期待を背負った。


 最後にフォンタナ家の人間が玉座に座ったのは五代前。父は前回の選定の儀までに十五の誕生日を迎えることが出来ず、ドラーギ家にその座を譲った。だからこそ、次こそはという意気込みが強かったのだろう。


 “家名に傷を付けてはならない”


 幼い頃から息苦しさで押し潰されそうになるほど管理された生活の中、繰り返し繰り返し、呪詛のように言い含められた言葉はけれど。愛情を感じさせてくれることも、こちらがそれを感じることもなかった。


 衣食住に困ることがないことは感謝していたけれど、ボクの能力は伸ばせる限度が知れていて。この生活を下支えしてくれる領民達への恩に報いるには、いささかどころではなく足りなかった。


 それでも努力をすれば、少しくらいは。


 それでも気力を振り絞れば、少しくらいは。


 そんなことを思っていた頃もあったけれど……現実はそんなに甘いものではなくて。足掻けば足掻くほど墜ちていく父からの評価が“ダリオ”という器の中から、性別以外の“ボク”を殺していくのが分かっただけで。


 その内に自分の存在が玉座につくだけの駒だと割り切れば楽なのだと理解してからは、無理をせずに従順に父に言われるままに振る舞った。


 思えば五歳の頃に母を亡くしてからずっと面倒を見て、そんなボクを慕って懐いてくれた妹が急に寄りつかなくなったのもその頃からだ。空になった兄に呆れたのかもしれない。


 ――そこからはもう、孤独が深まるばかりで。それでも唯一救いになっていたのは、ドラーギ家を除いた他の三家が次の選定までに玉座に据えられそうな一族(コマ)を持たなかったことだろうか。


 現国主であるドラーギ家はこの先三代は玉座に座らせることが出来ず、コルティ家は代々女系で王になれる男児を出産する率が低く、玉座に座ることが少ない。


 スカリア家は才気走った者を多く輩出するが病弱な者が多いせいで、運良く就けても在任期間が短い。主に“一度玉座についた家は、その先三代は玉座から離れる”という決まり事の回転率を早めているのはこの家だ。


 そして最後のベルティーニ家は前当主が海難事故で亡くなってから、何故か一人息子である跡取りが十年前に出奔している。噂では将来有望な王になるだろうと囁かれていた人物だそうで、当時はちょっとした騒ぎになったらしい。


 とはいえ、だからこそぼんやりしていても、頑張っていても、そのうち玉座は向こうから勝手に近付いてくるものだと。十一歳になる頃にはそんな風に何もかもに無関心になっていたのだけれど……そんなボクに突然転機が訪れた。


 それが、今も目の前で微笑んでくれるラフィアナの存在だ。努力することもそこそこに十一歳で厭世家を気取ったボクが出逢った、銀色に薄く紫色が混じった不思議な髪に紫水晶の瞳を持つ、ボクだけの人魚姫。


 父の悲願と言っても過言でない戴冠式を目前に、そんな彼女を妻に迎え入れたいと初めて真っ向から対立したが、それすら“何の後ろ盾もない娘など”と鼻で嗤われ、素気なく断られた。


 頭にくるのと同時にそこまで悪し様にするならば、せめて家名を重んじる父の顔に泥を塗ろうと家を出た。しかし結局のところは、次期国王が決まるまでの期間を逃げ回っているだけだ。


 その逃げる手立てすら、彼女が海底で懇意にしていた魔女殿と、何故か細々と逃亡劇の世話を焼いてくれるコルティ家の遠縁で、バティスタ家の入り婿である騎士団長。


 魔女殿の呪いによって姿を変え、騎士団長の元へ下りてくる情報を使った根回しで足取りを掴ませない。この絶妙な人脈がなければ子供の癇癪のような無謀な逃亡劇など、ほんの二ヶ月程度で終わっていたことだろう。


「ダリオ、あなたさっきからずっと難しい顔をしているけれど……何か心配事? お姉さまがお帰りになられてせっかくお姫様になる(まじな)いから解放されたのに、優し気なお顔が台無しよ」


 そう笑いながら伸ばされたラフィアナの手が、母の肖像画にそっくりだと評されたボクの、男にしてはなよやかな印象を与える目尻に触れ、細く冷たい指先でそっと押し上げた。


「ねぇ、大丈夫よ。きっともうすぐお姉さまも、あなたのお父さまも、わたくしたちを諦めて下さるわ。そうすればもう誰に追われる心配もなく、ずっと一緒にいられるのよ」


 こちらに語りかけるようでありながら、まるで自身に言い聞かせるように。彼女の微笑みが淡く翳った。それも無理からぬことで、ボクと同じ様に父親に対して含むものがあろうとも、彼女にはきちんと愛してくれる兄姉達がいる。


 今から一ヶ月前に家庭の事情で海底へと帰って行った彼女の自慢の長姉は、たった一人で母親の違う兄姉達を“家族”として纏め上げ、愛し、慈しむ女性だと。幾度となく彼女の口から物語のように聞かされていた。


 だからこそ、最近ふとした瞬間に“お前はこれで本当に良いのか?”と。内側から今の不甲斐ない自分を詰る声がする。


 先日ついに十七歳の誕生日を迎えた身でありながら、彼女の優しさに甘えてこのままズルズルと戴冠式や、ドラーギ家の者が年齢と病を理由に退位するまで逃げ続けるのか?


 そうして誰よりもラフィアナを慈しんだ長姉から彼女を遠ざけ、日陰者のように世間から隠して何も成せない自分の傍に置き、たった一人の妹をあの家に残して、自分が嫌で逃げ出した玉座に誰かが代わりに縛り付けられるまで……?


 ――何だ、それは。


 ――何というクズだ、ボクは。


「すまないラフィアナ。こんなことは……やはり間違っていたんだ」


 咄嗟についそんな言葉が口をついて出たけれど、その直後に「ダリオ、大丈夫よ。あなたは最近思い詰めすぎていたから、きっと疲れているの。だから――……だから今更そんなことを言い出すのよね?」と不安気に揺れる紫水晶の瞳に見据えられ、言葉の選択を誤ったことに気付いて慌てた。


 なので反省を踏まえた仕切り直しの言葉は、これ以上ないほどシンプルに。


「もう君を連れてどこにも逃げない。誰に臆病者だと謗られても構わないけど、君にだけは――……胸を張れる自分でいたい」

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