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一滴の波紋【原文】2巻の1  作者: 藤田ユキト
一滴の波紋【原文】2の2
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ある日の日記30回

三十回


 やはりですね。最初はお嫁さんを出迎えする所から始めなければならないでしょうか?


 やはり男である僕としては、男としてのプライドを傷つけない為に、莫大な結納金を彼女に与えてやらなければならないのです。

 そして世界中で一番美しい花嫁衣裳を着せてやらなければならないでしょうね。

 僕にはとてもそのような資金がありませんから、その莫大な結納金を与えたつもりで、そのお嫁さんにはフセコケの借り衣装――

 百円のチンドン屋さんの衣装をあてがって、それを世界中で一番美しい花嫁衣裳と思って見ます。

 アァ~。その前にお嫁さんの顔ですが、これもやはり世間の吐き捨て場所にゴロゴロと転がっているような、みすぼらしい顔をしています。

 その洗っても洗っても落ちないような汚ならしいアカで一杯の顔を僕はやはりこの世で一番美しい顔と思って見なければならないのです。

 自分の正直な気持ちを言うと、とてもとても彼女の悲しむ顔を見たくありませんからね。

 天を仰ぎ、素知らぬ顔をして

「オオ~。今日は何と美しいお顔をしているのでしょう。僕がこれまで見てきた女性ひとの中では一番美しいよ! そのお顔を一生僕の目から消さないでくれたまえ! このひと時を僕は一生忘れないよ!」などと言って僕はお嫁さんの心をいたわってやるのです。


 アァ~。またまた僕の夢を壊すようなことを言わないでください。


「チッとも面白くないわよ! 何(な~に)あれ、バカみたい!」


 聞きたくない人は聞かなくてもいいんですよ。僕は何も無理して聞いてもらおうとは思っていませんからね――

 だからまたぬけぬけと話しを続けていこうと思います。


 その世にも美しいお嫁さんを、今度は送り出す車を用意しなければいけませんね。

 その車の借り代といえば、世界中に一台しかないものだとゆうだけあって、一送り百万円もするのです。

 そのような目ん玉の飛び出るような金額などとてもとても僕にはありっこありません。

 だから僕がいつも使っている定期券を彼女に与えてやって、出発の駅で三十円の切符を買わせ、それで五百キロもある遠い長旅を鈍行の列車で行かせるのです。

 彼女はガタンゴトン、ガタンゴトンと揺れる汽車の中であたかもその借り代百万円もするという夢の車に乗って走っているがごとく、心は世にも美男子な彼の身体へと寄り添っていくのです。


 その世にも希な美男子の彼はといえば、やはりフセコケ(つぎはぎだらけ)のチンドン屋さんから借りてきた紋付袴によく似た衣装を身にまとっています。

 下の袴といえば世間の窓口といわれている方がお尻の方へいっていて堂々とした恰幅をしているのです。

 そして靴はといえばやはり一足五十万円もするとゆう紳士靴に代用して、片方は高下駄、もう一方は草履とゆう世にもギコチない(片チンバ)、バランスを奏しているのです。


 この姿を見ればいくら目の悪い彼女でも――

(アァ~。ここで前もって断っておかなければなりません。その彼と彼女は1メートルも離れればもうお互いの顔、姿が見えないというド近眼同士なんだそうです。だからこのような素ん晴らしい夢が抱けるんでしょうね)


 しかし笑ってはいけませんよ。やはり同情してやらなくちゃ~。やっとこさ、そこまで漕ぎ着けたというおめでたいご両人ですからね。


 それでお互いに待ち焦がれていた長旅もやっと終わり、とうとう彼と彼女は巡り会うことになったのです。

 その長旅の間にご両人がどのようなことを夢見ていたかって?……

 きっと布団を三十枚も重ねた上で、何やらの空想でも夢見ていたんでしょうか?

 それとも――

 アァ~。この先はよしましょう。


 とにかくそうやって二人は再会したのです。

 彼は紳士然とした態度を装っているつもりでいるのですが、実はトイレに行くのも忘れて、それを辛抱する為に、片方高下駄、片方ゾウリという足をゲッター、ゴッターとピヨンピヨンはね回っているのです。


 アァ~、以下省略――

 後の事はだいたいのご想像がつくでしょう。

 その先の素ん晴らしい夢を、君達のお互いお互いの胸の中で暖かく育てていかれるように、ここで打ち切ることにしましょうか?――ねっ。

 マァ~、しかし君達のようにオツムの弱い女性ひと達には想像もつかないことでしょうか?

 やはり僕の口から言わなければならないのでしょうか?

 しかし実にバカな人間がこの世に居るものですね。

 こんなバカな男は今まで見たことがないよ!

 しかしやはり今の世の中にあって、皆が見失っている心というものは、こうゆうものではないでしょうか?

 やるべき事はきちんとやっていさえしたらいいんです。そのやるべき事をきちんとやっていさえしたら、彼は「何する人ぞ!」で構わないのです。


 今の世の中では、体裁とか、見栄とか、権力欲に溺れ、このような悪ふざけをすることなど微塵も見せきらないような心の狭い人間が多勢たむろしています。

 これによってそのような者達の為に、少しでもその心をくんでやるべき仕事が出来れば幸いだと思います。


 今日はもう時間も押し迫ったことだし、これで終わることにします。この続きはまた明日ね。乞うご期待を……!

 お休みなさい!


     三十回





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