ある日の日記26回
二十六回
もうこの先は、簡単にすまして終わることにします。
何しろこんな重労働なんて生まれて初めてですからね。こんな仕事をするんだったらいくら賃金を貰ったって追っつきゃ~しませんよ。誰か僕に原稿(執筆)料でもくださいよ。そうしたらもっと詳しく書いて差し上げますからさぁ~。
とにかくその日はそうゆうことで終わってしまいましたね。
それが、明くる日になると、またまたひっくり返されることになって、自分ながら、こりゃ~一体どうなっているんだろうと、どっちつかずの浮ついた気持ちでその日は過ごしました。
「昨日の『女ったらし』『女殺しの名人』っていうのは、あれ嘘だってゆうじゃないの! やっぱり可愛い人だって」
「そうなの、本当はあの人に『悔しかったら自分も作ってみろ!』ってゆうふうに、ハッパをかけようとしていたのよ。でもあの人は相変わらず彼女を作る気配さえ見せないわ。ああなったんじゃ、もうおしまいね。お手上げだわ」
――そりゃ~、そうですよ。自分でも持とう持とうと思っても、どうしても持つ気がしないってゆうのに、彼女達からそんな他愛のないハッパをかけられたぐらいで、自分の心が浮つくとでも思っているのかい……
本当はそれじゃいけないんだけと、今はどうしようもないんです。
アァ~、面倒臭くなってきたなぁ~。
本当に彼女を作る為には、どうしたら良いのだろうか? 僕にはまったくピンとこないのですよ。
頭の中では考えることが出来ても、実際現実のことになると、まっ~~たく、生かしきれないんですね。これも今まで、あまりにも思索をし過ぎて、頭でっかちになったせいでしょうかね?
誰か……誰でも良いですから、僕のことを面倒見てくれるというお人は、いらっしゃらないでしょうかねぇ~。
昨日の土曜日には、何やらまた華々しく色々な噂が持ち上がっていましたね。
「どうして奴ばかりあんなに騒がれるんだ!」と言って、他の男連中が愚痴をこぼしていたり。または学会の中で、今、僕と一緒にさせようと企てている娘がいるということで、その新たな事実が浮き彫りにされてきて、他の娘がしょげていたり。
しかしその娘は一体誰なんでしょうかねぇ~。
もし本当に、そうなれたら僕も嬉しいのだが――
その人ってゆうのは、もしかしたら戦いの時にかかげるという三波さんってゆうお人ではありませんか?
その子とは最初会った時に、僕もピピピのピ~~~ンと、何やら感ずる所のあっは娘なんです。そしてまた川口のミゾエさんっていう人とまったく外見も、雰囲気もよく似ていて、フ~~ン、世の中にはよく似た人がいるもんだなぁと感嘆したものです。
そういう、いわれのある娘ですから、僕としても願ってもないことであり、上手くいきそうな気もするのです。
しかしその子とは、あれから顔を合わせていませんし、今後も会えるかどうか?……分からないんです。
もしもう一度お目にかかることが出来たなら、それらしきことを口に出そうかとも思っています。
とにかく、よく似ているのですよ。ミゾエさんってゆう人とねっ!
実の所、この人が本命なんです。だからその昨日、壊された人についてはあまりショックは大きくなかったのです。――ハイ!
何とかしてそのチャンスをものにしたいなぁ~。そしてもうそろそろ落ち着くたいですよ。
とてもとても、一人でいることのわびしさには勝てませんよ!
二月二十三日
アァ~、バカバカしいや~!
何で君達はこんなつまらんことに首を突っ込むのか?
何も人のことじゃないか? 俺のことを気遣っても、君達には何の徳もないのぞ!
「そんなこといいからゴタクを並べないで、早く書け!」などと言って――
そんなにせかせないで下さいよ。
君達がそんなにかしこまっておられると、僕はつい肝っ玉が萎縮して、思ったようなことが言えなくなるじゃないですか。
アァ~、ダメだ、ダメだ。そんなに見つめないで下さい。
しかしこんなに君達から期待されてくると、僕はどうもイタズラっ気が湧いてきて、嫌がらせをしたくなるのです。
それにこんなにつまらない僕一人が良い目を見ていることによって、他の男性達も頭にきているようですし。
だから今日は書くのをよします。君達が帰ってから、自分一人、楽しんで書くことにします――ハイ!
イヤ~、どうもすり(み)ません!
チヨッといじけただけなんです。僕はどうも人から好かれると心がクスグッたくなって、いたたまれなくなるのです。
生来、幸せというものを味わったことのない僕にとっては、幸せを夢見ながらも、とてもその中に浸ることがこそばゆくて(くすぐったくて)仕方がないのです。
空しくはありますが、やはり僕にとっては孤独でいることが一番気が楽なんです。他の人の不幸を踏みにじることもないし、また幸福な人を羨む必要もない。それが僕には、一番気が楽なのです。
しかしこうなった以上、仕方がありませんね。一時的な幸せかもしれませんが――
とにかく君達の恩に甘んじて、しばらくなりともその幸福とやらの味を全身に受けてみようと思います。
しかしこの幸せな気持ちの裏には、とても君達が想像もつかないような苦しみがあるのです。
どんなに君達から幸せを恵んでもらっても、その一つによって、まったく打ち消されてしまう程の悪業が、僕の両肩にズッシリとよりかかっているのです。その事を思ったら――
アァ~、また僕の気持ちは塞ぎ込んでしまいます。
どうして神は私に正常な聴力をお与えにならなかったのでしょうか。
僕がいよいよ幸福の水辺に全身をとっぷり浸らせそうになりかかっていると、またすぐにその悪魔が僕の傍らにに来て、囁くのです。
「どうしたんだい兄弟! そんな女みたいな甘水に足を突っ込んだりして……(女みたいだと言ってゴメンナサイ)。もしかしたら、彼等の甘い囁きにほだされたんじゃないだろうなァ~。
お前には似合いやしないよ。見てみろ、あのゆるみきった顔を。まるで豚みたいにブクブクと太ったりしてさ~。実にイヤらしいじゃないか。
自分達の仲間の死骸を貪り食って、それで肥えてやがるんだよ。 彼等もいつかは仲間みたいに、肥え死にして、またその仲間から食い尽くされることになるんだよ。見てみろ! あのブクブクした顔を。あれは自分のことさえ良ければ良いといって、ただ自分の欲を満たしているだけの奴等なんだよ。あんな可哀想な生き物になるなよ。お前だけは、チャンと俺が面倒見てやるから、俺の言うことを聞いていたら、絶対間違いないんだからなっ!」
――といって、その悪魔は、すぐに僕をその甘水の中から、連れ出してしまうのです。
二十六回




