ある日の日記20回
二十回
「でも、あの人があんなにやぁらしい(可愛らしい)人だとは思わなかったわ。ジックリ見たことが無かったのよ」
「そうね。ウチ、あの人の横顔って最高に好きだわ」
「そりゃ、どうゆうこっちゃ~」
「だって、あの人、横ばかり向いてるんだもん。前を向く時には、うつむいてるし、真正面の顔を見せないのよ」
「あぁ~、そうか。それだけ奴は気を使っていたってゆうことか……」
「でもどうしてあんなに気を使うのかしら。別に皆から好かれても、何にも気兼ねすることないってゆうのに。そこがオカシイのよ」
「そうね。でもそこがまた、いじらしい所じゃないの。今まで無口な人には、まったく興味も湧かなかったけど、あの人を見て、段々無口な人の良さってゆうものが分かってきたわ」
「そうね。川口のママさんが可愛くて、可愛くてしょうがないっていう気持ちがやっとウチにも分かったわ」
「そうね。今の世の中の男とは、全然違った可愛らしさがあるわ。まったく赤ん坊みたいに可愛らしいんだから……」
「でも本当に素敵ね! やあらしい(可愛らしい)ってだけでもウチ好きだというのに、その上、色んな趣味も持ってるのね」
「まったく今まで誰一人として、見初めなかったのが不思議なぐらいね」
「まるで彗星の如く現れたって感じね」
「あの人は引っ込んでばかり居るから、皆に知られないのよ! もっと出てくればいいのにねぇ~」
「そうだわ! あんなに良い男だから、きっとモテルわよ」
――などなど、君達がウワサしていたことを、上げればきりのないことです。
しかしそうゆうことで、一旦は隠れたスターの座に祭り上げられたものの、自分自身、その評価に応えるだけの器量と才覚を持ち合わせていないのです。
もし僕が、その力を持っていたなら、あんな知らんぷりしてないで(知らんぷりしていたというのは、やはり自分の実相を見破られるのが怖かったのです)
一挙にスターの座を確立しようとしたでしょう。
しかし――悲しいかな! 我が才覚よ。
力なき者が、誰かシャンの手によって、虚妄を作られるってゆうことほど窮屈なものはありませんね。
今は楽しい栄華に浸っていることも出来るが、これがいつ他の者の手によって壊されるかも分からない。
そんな実の備わったものでわないから、僕はビクビク顔で、事の次第を見やっていたのです。
そして、自分にも負けず嫌いっていうところがありますから、そのメッキを剥がされない内に、何とかそれに応えられるだけの地力というものを備えようと、夜もロクスポ(まともに)寝ないで(昼ま寝てじゃないけど)勤行に、読書に、思索に明け暮れていたのです。
人前では、スマして平然とした顔を装っているようでも、内心ではこのような葛藤が繰り広げられていたのですよ。
この窮屈さ、苦しさというものは、とてもそれを味わった者でしか分からないことでしょうね。
そのような面白半分で僕をそんな立場に追いやった姉ちゃんのことを恨みたい気持ちでした。
しかしそれは何も僕のことを本当にダメにしてしまおうという腹でやっていた事じゃないというふうに信じていたかったので、僕はその人のことを恨まないことにしました。
やはりこのように苦しい時もありましたが、しかし現実離れした面白みがあって、けっこう楽しい気分に浸れる時もありますし――
とにかくこのまま成り行きに任せておくのも良いだろうと思います。
未だに真相をあからさまにしない始末です。
・・・・・・・・・・・・
チョッと酔っ払っているのでしょうか!
今日の祝事は、タダで飲み食いできるものだから、とことんまで飲み潰れたい心境だったのです。
何しろモタイ殿はですねぇ~。
アァ~、もう絶望ですよ!
と言いながら、内心ではホクホクしているのです。
何せ、ナア~ニ、たかが田舎の出来そこないカボチャ娘の彼女を、俺様のような高貴なスターが口にするとでも思っているのかい!
奴はただの妹! 出来損ないの可愛い妹たい!
二十回




