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一滴の波紋【原文】2巻の1  作者: 藤田ユキト
一滴の波紋【原文】2の2
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ある日の日記14回

十四回



 アァ~、こんな勤行ばかり一人であげていても、チッとも実践力(活動力)が身についてこない。

これを根底として、やはり座談会や、集会へ行って、どんどん発言力をつけていかなければならないのだけど――

しかしそれをやったら本当に君達と付き合っている時間もなくなりますし、弱ったことになりました。


 僕は実践力(活動力)も付けたいし、君達とも付き合っていきたいのです。

今の僕にとっては、この二つとも切っても離れない大切なものとなっているのです。

この御本尊様をいただいてからというもの、本当に気持ちが充実してきたのです。


 しかしそれは、まだ自分の観念の内から抜け出せないものですから、チッとも皆と気兼ねなく語り合ったり、はしゃぎ回ったりすることが出来ません。

返って――

返って前よりも縮こまってきているような気もするのです。


 君達にもそう見えるでしょう?

どうしてか、前よりも気分が(会社の中にあっての事ですが)イライラして、すぐにチヨコッとしたことにも、反発したくなるのです。

その態度を見て、ある班長面づらをしていなさるお人(大垣)が


「もう藤田はダメだよ。使い物にならないよ! もうあいつとは話ししないよ」などと言って、僕をのけ者にしています。


 その人からは去年の大晦日に夕食とビールをご馳走になり、今年、お互いに頑張りましょうと励まし合った間柄なのです。

そういう恩を受けていながら、今の僕は、その恩にノシを付けて返しているような反発態度をとっています。


 確かに彼は、人(特に下の者に対しての)との接触がかなり上手いのです。

ある一定の領域までは、よく面倒を見てくれます。

それはやはり、若い頃から営業の仕事について、とにかく自分から人を遠ざけるようなことをしたら、自分の立場が不利になるという、その事を意識するとしないとに関わらず、僕の目から見たら、歴然として、そのクモの糸を張りめぐらそうとしている姿が見えるのです。


 自分の巣に、いい餌を引っ掛ける為に、彼はあちらこちらにクモの糸を張りめぐらそうとしています。

そういう打算の糸を張り巡らしているのが気に入らなくて、僕はあえて、そのクモの糸(巣)を壊しにかかっているのです。

だってそうでしょう? そのクモは心眼の開けている者にしか見えないものなんです。

その糸に気が付かずに、僕の同僚や、先輩達が、彼の餌となって、引っかかっていくのが許せないんです。


 しかし――

しかし、僕はそのクモの巣を壊すことをよすことにしました。

どうしてかって?

僕は彼の悲しい宿業を見てしまったからです。

僕のように美しくて若々しい羽を授かり、大空を自由に飛び回れるチョウチョウにしてみればーー

確かに自由に飛び回れる羽も持たず、また薄暗い屋根裏天井にモサモサと生息しているクモさんにしてみれば、やはり悲しいのでしょう。


 自分に大空を自由に飛べる知恵でもあったら、彼もきっと、その薄暗いクモの巣から脱して明るい真っまっさおな大空を飛び回ったことでしょう。

しかしもう彼にはそれが出来ないという――

どうしてもクモとして一生を生きていかなければならないという宿業にあるのです。


 だから彼は考えました。

どうしてもあの美しいチョウのように、自由に大空を飛び回れないものなら、一層、クモはクモなりに、クモの生き方に徹しようと……


自分が生きていく為には、この自分の身体から出てくる糸を、四方八方に張りめぐらして、それに引っかかってくる獲物を食って生きていかなければならないのです。


それがたとえどんなに醜かろうとも、自分はこうしていきていく以外に生きる道はないんだと……

もうここまで来ては、他のどのような生き物にも変わることが出来ない――

一層いっそ――

一層、自分はこうして生きていく以外にないと――

彼は割り切っているのです。


 僕はまだ若いし、力なき幼虫の身です。

今の僕にはとても彼の力には及びませんが、やがて成長し、美しい羽根でも生えた時には、その悲しい宿業を背負っている、クモさんを、自由で大いなる大空から見下ろすことが出来るようになるのです。


その可能性と恵まれた宿業を授かっている我が身ですから、せめて今の所は悲しいクモさんをあわれんで、ソッと見守っていこうと思っています。


    十四回





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