賭けの勝者は……
最終話となります。
感想、評価など頂けましたら励みとなりますので、よろしくお願いします。
……要望がありましたら『if』や『その後』も書いてみるやも知れません。今のところ脳内にそれらは存在しております。
また、私の別作品『半脳少女 ~ボクは美少女になった。でも脳は半壊している~』は処女作にして、これ以上は書けない自信作です。当作品とは違い、ほのぼのタッチでほんのり切ない作風となっております。
この機会に是非、触れてみてください。
お目汚し、失礼致しました。
下記より本文です。
↓
「おはよ! 亜津! おっはよー!」
私は飛び起きようとした。
そして……それは叶わなかった。
私は……賭けに……負けた……。
前回の入れ替わりから数えて28日目。
私は賭けに出た。
亜美は27日目から徹夜を始めた。
この日、入れ替わりが起きなかったら……きっと私の勝ちだった。
今の私は前回の入れ替わりと同じ。バンザイで拘束されている。
生殺与奪の権利を握るのは亜美となった。
ギリ……と奥歯を噛み締めようとする。それもまた叶わなかった。
亜美を睨み付け、悔しさをその顔で表す。
「よく寝てたね。お母さん、もう行っちゃったよ? 後で起こすからって言ったら『またあの子は! 亜津、頼むね』って……。ちょっと傷付いちゃったよ」
亜津の顔をした亜美は寝そべる。私の横に。蹴り飛ばしてやろうとした。
……それさえも叶わなかった。前回とは違い、今回は足さえも厳重に拘束されていた。
「んー!!」
漏れるのはくぐもった声。悔し涙があふれてくる。勝負を賭ければ良かった。後悔が生まれる。でも、私は寝ない勝負に持ち込まれたら勝てる気がしなかった。だから賭けた。結果、私は負けちゃった……。
勝負は時の運……。私は運命にも敗れ去った。
「ちょっと眠っていいかな?」
そう言いながら私の……。私だけの体をまさぐってきた。
私はこの体を得て、死にゆく事が出来る。それだけが救い……。
亜美……。亜美は幸せになれるの……?
その体で本当にいいの……?
「んんー! んむぅ!」
漏れるのはくぐもった声だけ。
「ごめんね。何も言わせない。僕の決心が鈍りそうだから……」
そう言って私の体に触れる。その顔はどこまでも穏やかで……どこまでも澄み渡っていて……。
……どこまでも綺麗だった。
私は……その顔を見て……覚悟を決めた。
「失神するまでしてあげるよ? ……苦しそうなところは見たくないから……」
「ん……」
「……どうしたの? 覚悟を決めたんじゃないの? ……変な事言わないなら、外してあげるよ?」
私はうんうんと頷いてみせた。
すると亜美は私の口を自由にしてくれた。
私は唇を突き出してみた。僕はクスリと笑って、顔を寄せてきた。
―――これが最期のキス。
―――さようなら……。
―――私の半身。
―――私の大切な人。
―――きっと――。
―――ずっと――好きだった――。
私は嬌声を上げ続けた。目の前の僕が苦笑いするほどに。
―――最期の女の子の時間を悦んだ。
『ごめんね……。亜津……私……やっぱり亜津の……………………』
―――その言葉を最後まで聞くことも出来ず―――
―――私は深い―――
―――深い眠りに堕ちた―――
「やぁぁぁぁ!!! 亜津ぅぅぅ!!!」
階下からの悲鳴で私は再び、目を覚ました。
「どうして!? どうしてぇぇぇ!?」
「亜美!? 亜美!? 亜美は!?」
ドタドタと階段を駆け上がってきたのは母親だった。
「亜美!!! 亜美ぃぃ!! どうしてこんなぁぁ!!」
半狂乱のお母さんは拘束された私を助ける事も出来ず、ただただ喚き散らした。
私が助けられたのはそれから10分ほど後だった。
パトカーと救急車のサイレンがうるさかった。
……私は生きていた。
……亜津は……亜美は首を吊って死んでいた……みたい……。
亜津はクラインフェルター症候群を苦に、私を襲った後、自殺……。
事件はこう処理された……みたい……。
きっと亜美は最初から死ぬ気だったんだよ。
今ならそう思える。
彼女はどこまでも優しかった。底抜けの優しさで私に……亜津に接してくれてたじゃない……。
だから……きっとね……。中身は男の子……。あの言葉も嘘。
……あれも優しい優しい嘘。
亜美は私の事だけを考えて、私の為にこの体を譲ってくれた。
でも……。
でも……ね?
今だから思えるんだよ?
―――亜美が居ない世界なんて―――
―――私には必要なかったんだ――――