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最期の賭け

 


 つまらない学校が終わるといつものように2人並んで歩いて帰った。


「やっぱりツッコミ入れられたの?」


「うん。でも『これに触れたら裸にひん剥いて写メ撮るぞー』って脅したら誰も突っ込んで来なくなったよ」


「怖いね……。恐怖政治……」


「なんか言った?」


「……ううん。何にも」


「それよりさー。誰も私の事、心配してくれないんだよー? みーんな亜津の心配。どういう事なの?」


「……知らないよ」


 これは本当に知らない。隠してる訳じゃない。



 家に到着。亜美は鍵を取り出すと、それを鍵穴に差し込む。ガチャ……っと、部屋の鍵より重たい音……。


 亜美は「ただいまー!」って無人の我が家に帰宅を告げる。


 ……部屋の鍵……。


 …………昨日の部屋……。


「亜津? 『ただいま』は?」


「……ただいま」


「なに赤くなってんのかな? ……あ」


 ……思い出さなくていいよ……?


「よっぽど良かったんだね」


 亜美は……また、いたずらっぽく笑う。僕をからかって遊ぶ。2人の日常。


「後片付け……。どうするの……?」


「するよ? もちろん」


 話の転換を図るとすぐに乗ってくれた。亜美は僕をからかう。からかうけど、深くは絡んでこない。絡んでこなくなっていた。昨日までは。


「夜中にオムツ捨てなきゃいけないし、シーツも替えて洗濯しなきゃだし」


 昨日の行為で亜美は結論を出したんだろうか? 亜美は僕を……僕の中の私を試した。


「ちょっと? 聞いてる? 亜津? 亜津ー?」



 ―――何の為に?




 その答えは就寝前に教えてくれた。亜美は僕を試すフリをして自分を試していた。自分の中の男の子に問いかけていた。


 女の子を襲い、辱めることで……。





「亜津……。亜津は……今まで考えた事あった?」




 ―――あった。



 ―――何度も何度も。




「入れ替わった状態でね」




 ―――それが()の中に



 ―――存在する




「どっちか死んだらどうなるか?」




 ―――時折、湧き上がる黒い感情



 ―――入れ替わったまま、亜美を○したら




「私はね」




 ―――その体を



 ―――手に入れられる



 ―――可能性




「亜津の体が欲しい……」




 ―――亜美の言葉は―――




「だから……最後の賭けをしてみる事にしたんだ……」




 ―――殺し合いの始まりを意味していた―――








 その日からつまらなかった日常はかけがいのない日々へと変貌した。


「おはよ! 亜津!」


 表面上、亜津と亜美は変わらない。


 お互いがお互いの……『体』を労り、優しく接した。


「亜津? 今日もジャム?」


「あ! 私はお砂糖多めにしてね」


「え? ……なんとなく?」


 死にゆくお互いを案じる事もなく、ただ自分の為に愛しい半身の姿を焼き付ける。片割れの姿を脳裏に焼き付け、自分の為に思い出にしていく。


 それは間違いなく、かけがいの無い日々。



 そうやって過ごす日々。ふいにいつかのあの言葉を思い出した。



『神様の意地悪ないたずら』



 今ははっきりと納得できる。亜美のこの言葉は正真正銘、本物だった。



 僕の体を中途半端に創り上げた事。


 その中途半端な体に女の子の自我を押し込んだ事。



 亜美だってそうだ。


 亜美は男の子として産まれたかった。


 その亜美を女の子の体に封じ込めた事。



 そして―――



 意地悪を決定付ける最大の要因―――





 ―――月に―――1度の―――入れ替わり―――



 これが始まる惨劇の最大の原因―――





 私と亜美はその日が近づくと約束した。



「いい? 負けた方はその神様に唾を吐きかける事。約束だからね」



 僕は宣言する。


「……うん。陰険な神様を()は絶対に許さない……」



 亜美も宣言する。


「負けても悔いは……やっぱりあるかな? でも、()も腐り切った神様を○してくるよ……」



 ……そして、戦いの日に突入した。



 戦いのルールは至って単純。


 私たち2人の入れ替わりは2人とも眠りに落ち、起きた時には入れ替わっている。



 ……敵が眠りに落ちたその時に、眠り始め、そして先に起きて敵を○す。



 ―――それだけの事―――



 これは間違いなくギャンブルだ。賭けだ。入れ替わりはおよそ(・・・)30日周期。28日の時もあった。32日の時もあった。


 いつ寝るか。いつ起きるか。そこに賭けが存在する。


 更にはもう1つ。


 敵を○したところで相手の体を奪えないのかも知れない……。



 まさにそれは『最期の賭け』―――





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