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一日ベッドに繋がれて

 


「おはよ! 亜美!!」


「ん……」


「おっはよー!」


 目を開けると見慣れた亜津の姿が目に飛び込んできた。


 待ちに待った一日が……。


 ガチャガチャと響く金属音。


 ……あれ?


「……賭けに勝っちゃった」


 いたずらっぽく笑う亜津の姿に苛ついた。意味が解らない!


 両手を可能な限り動かし、ガチャガチャと鳴らす。


 亜津は布団をめくる。見なくても感触で解ってる。僕は裸で拘束されていた。バンザイの姿勢でベッドに繋ぎ留められている。


「……声……出すよ?」


 1階には、まだお母さんが居るはずだから。


「出来る? お母さんは私たちの入れ替わりなんて知らない。今の状況で声を出して困るのは亜美(・・)の中の人なんじゃない?」


 勝ち誇った亜津の姿の妹に反論する事が出来なかった。


 月に一度、入れ替わる事を知らないお母さんはこの状況を見た時、どう考え、どう行動するか……。考えるまでも無い。僕は亜美の意図を必死に探す。亜美は僕の思考を奪うかのように語りかけてきた。


「昨日、裸で寝たんだよ? さすがに起こさず脱がす自信が無かったからね。私が早起きの癖を付けたのもこの日の為。寝ぼけて失敗とか出来ないじゃない? あ。鍵は亜津の部屋の机の中にしまってあるから外そうとしても無駄だよ」


 僕の姿の亜美は言うだけ言うと、亜美の部屋のドアを開け放ったまま、トントンと軽い足音を響かせ、階段を降りていった。


 ……痛っ……。


 僕は体を捩り、なんとか手錠を外そうと試みる。どこで手に入れた物か頑強な2つのソレはベッド上部と僕の両手を固定していた。


 ガチャ! ガチャ!


 妹の考えは解らない。理解出来ない。でも危機的な状況を打開する為、手首を……腕を振り回した。




 ソレを外せないまま、トントントントンと軽い足音が近づいてくる。


「ごめんね! 時間無いから行くよ! 具合、本当に悪かったら病院にね!」


「……わかってる!」


 亜津(・・)は階下に声をそっと張り上げた。僕を演じて。


 亜津は戻り、ドアが閉められる。この状況を封印される。亜美の中の僕は亜津を睨み付ける。全力で。


 亜美の片手にはグラスに注がれたミルク……。そのミルクをガラステーブルに置きながら私に向かって口を開く。


「……お母さん、信じてくれたよ。また賭けに勝っちゃった。亜津の姿で『亜美の面倒見てるから心配しないで』って言ったら信用してくれた。亜津はいい子だからね。私たちの休みの連絡も入れてくれたよ?」


「……どう言う事?」


「あーあ。手首……擦れちゃってる……。痛かったでしょ……」


「やっ! やめ……!」


 全てを無視して亜美は亜津の姿で私の手首に舌を這わせた。驚くほどに穏やかな顔付きで……。



「試してあげようと思ってね。亜津の中が本当に女の子なのか……ね?」


 ひとしきり、舌を這わすと満足そうにそう言った。そう言った後に「喉、乾いてるでしょ? 起き抜けだし……」とミルクを口に含んだ。


 近づいてくる亜津の顔に背ける事も叶わず、私は亜津の唇を受け入れた。



 ―――僕の―――私の―――


 ―――半身―――だから――。



「……もっと抵抗するかと思ってた。やっぱり女の子……なのかな?」


「……知らないよ。もう外して? 今なら冗談で済ませてあげるから……」


「そうはいかないよ? この日の為に私だって痛い目見たり……色々、頑張ったんだからね」


 その意味をすぐには理解出来なかった。理解したくなかったのかも知れない。



 ……この日、私は僕に蹂躙された。


 私は女の子のように声を上げさせられた。亜美は自分の体を穢し続けた。


 『痛い目』と言う言葉の意味も理解させられた。


 亜美はいつものような優しさでこの日の為に……自分で自分を……。






「もう夕方だね……。女の子だって認めてあげたいけど、何かが足りない。ここまでしておいて、ごめんね」


「あ……。何……が……?」


「もう1つ、賭けをしてみていい?」


「……いいよ」


 私は相変わらず繋がれたままだった。手首はズキズキと痛みを絶えず訴える。でも、亜美は決してそれを外してくれなかった。尿意を訴えてもオムツを当てられた。


 亜美の賭け……。


 このまま朝まで過ごすこと。


 私はそれを受け入れた。朝になれば立場は逆転する。私と亜美は入れ替わり、私は拘束を解かれる。亜美は逆に拘束される。その状態を試してみたい……。意味は分からなかったけど、私はその賭けに乗った。




「亜美!? ホントに大丈夫なの!? 顔くらい見せて!?」


 珍しく掛けられた亜美の部屋のドアの鍵。その向こうでお母さんは亜美を心配し、声を張り上げる。


「大丈夫! ちょっと顔、見られたくなくて!」


 私は亜美の体の中で亜美の計画に乗る。


「お母さん! 大丈夫! 僕が付いてるから!」


「うん! 無理やり部屋に入ってきたら許さないから!」


「明日の朝! 絶対に顔を見せなさい! いいわね!!」


「……うん。ありがとう……。ごめん……ね?」


「亜津……任せたわよ……。あー! もう! なんでよ! こんなに亜津はいい子なのに!」


 ドン! ドン!


 ……階段を降りる足音だけでイライラが伝わってきた。


 カチャリと小さな音がして亜津が私の部屋に戻ってきた。



 ベッドに寝そべる。私の隣に……。


 亜津の手が再び私を弄んだ……。



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