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素の自分と演じる双子

 本年最後の投稿となります。

 良いお年をお迎え下さい。

 



「おはよ! 亜美! おーはよっ!」


「………………」


 待ちに待った月に一度の日が訪れた。


「……亜美?」


 目覚めた瞬間に判る。男の子(・・・)らしく(・・・)、短めの髪にしている僕とは違う、頬に触れる優しい髪の感触。亜美は肩口で切り揃えたサラサラとした綺麗な髪。少し、亜津より明るいのは軽く脱色しているから……かな?


「おはよ。今月もちゃんとあったね」


 僕じゃない亜津が()をベッドサイドから見下ろしていた。妹は朝が早い。私より毎日、早起きしてるんだ。理由は不明。聞いたら答えてくれると思うけど、聞いてない。妹にも秘密の1つや2つあってもいい……よね。


「おはよう。亜津(・・)。今回もいつも通りに……」


「うん。解ってるよ。亜美(・・)も気をつけてね?」


「……大丈夫だよ」


 私は亜津ににっこりと笑ってみせた。釣られたように亜津も笑う。


「そうだね。ご飯、食べに降りるよ?」



 仲の良い双子で手を繋いで階段を降りる。()が先頭。亜津の手を引いて歩く。


「おはよ! 相変わらず仲良しねぇ……」


「おはよ! お母さん、もう行くんだね!」


「おはよ……」


 妹は亜津を演じる。僕は内向的だから……ね。

 でも私は亜美を演じない。本来の自分に戻れたこの日。この日だけは明るい()が顔を出す。だから演じる必要なんてどこにも無い。それだけで元気で明るい亜美になれる。


「亜津? ジャムにする? マーガリン?」


「……マーガリン」


「ほら! コーヒー入れて?」


「うん」


「よろしくね。それじゃお母さん、行くね?」


「行ってらっしゃーい!」


「行ってらっしゃい」




「「………………」」


 チン……ザッ……チン……。


 インスタントコーヒーに砂糖を加える亜津と、ぼんやりトースターを見詰める亜美。いつもと同じなのにいつもと逆。2人しか知らない秘密の逆転。


「あははははっ!!」


 急に亜津は笑い出す。演じた後にはこうやってよく笑うんだ……。


「亜津ったら上手すぎー! 私そのものだね!」


「亜美こそ上手だよ? 僕を見てるみたい」


 妹は演じる必要があるのにね。


「このまま学校乗り切ろうね」


 亜津はそう言って笑い掛けてくる。僕の滅多に見せない表情……。ちょっと可愛いとか思えて嬉しいな……。何しろほとんど同じ顔だもんね。


「……ごめんね。演じさせて……」


 嬉しさをごまかす為に暗い表情を創り上げる。いつからか()は半身のはずの妹に隠し事をするようになった。診断は降りてないけど性同一性障害の事なんかがそう……。さすがにこれは話せないから……。


「ううん。大丈夫だよ。ゆっこもみーも亜津の前だと、優しい顔してるんだー。面白いんだよ? 僕は僕で楽しんでるから!」


 妹はいつも……どこまでも僕に優しい。


 ……きっと……引け目を感じているから。


 性別の中途半端な()に対する遠慮。


 それが亜美の底抜けの優しさの中に時折、垣間見える。





「ゆっこー! おはよー!」


 私は妹の親友にいつものように挨拶。女子制服を着用した私は素をさらけ出す。


 ……見て? これが本当の私だよ?


「……おはよ」


 いつものように()も挨拶。


「亜美ー! 亜津くん! おはよー!」


「おはよ! 昨日のドラマ見た!?」


「見た見た! あんな終わり方しやがってー! ……とか!?」


「わかるわかる! あのまま1週間待てとか酷いよねー! ね? 亜津(・・)?」


 私は妹がそうしてくれるように、いつも通りに話を亜津に投げ掛ける。


「……うん。早く先……見たいね……」


 亜美は僕を演じる。私は自分をさらけ出す。1ヶ月間でたったの1日だけの本当の姿……。


 亜美は……きっと気付いてる。


 僕が性別を間違えて産まれてきてしまった事を。


 亜美は……どう思っているんだろう?


 蔑む様子は見せない。


 亜美は……優しいから。


 何も言わない。


 亜美は……僕に申し訳ない気持ちがあるから。








 ……終礼のチャイムが聞こえると私の楽しい学校生活は終わりを告げる。


「亜美ー! また明日ね!」

「まったねー!」

「亜津くん、待ってるよー! 早く早く!」


「うん! それじゃまた明日ね!」


 ……また……明日……。


 明日になれば私は僕に戻る。


 これは確定事項。今まで何十回と入れ替わってきた中での事実。亜津と亜美の入れ替わりは月に一度、一日だけ。いたずら好きの神様の陰険な意地悪。


 肩を落とし廊下に出ると「亜美……」と気遣わしそうに声を掛けられた。


「亜津! 帰ろっか!」


 僕は私を演じる。精一杯に亜美を作る。


「うん……」


 妹は亜津を演じない。ただ僕のように暗くなる。きっと僕の気持ちを考えて。僕の事を想って……。


 いつからか放課後になると逆転した。午前と午後で素をさらけ出す自分と演じる自分を見付けた。


 亜美は逆。午前中は僕を演じ、放課後が近づくと演じる必要が無くなる。



 亜美は……。


 いつでも……。


 どこまでも……。


 ()に優しい……。



 

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