ジェンダー
何故だか思い立って書き始めました。
僕と双子の妹は一卵性双生児として生を受けた。世界的に珍しい性別の違う一卵性の双子。
この場合、いずれか片方。若しくは2人とも障がいを持つ事がほとんど。
僕たちも多分に漏れず、片方が障がいを持って産まれた。
妹の亜美は正常。僕はクラインフェルター症候群。染色体のXが多いとか、何とか言われたけど、よく解らないし、解ったところで何も変わらない。
そのクラインフェルター症候群の特徴は女性的な外見。妹に酷似した顔。細くてサラサラな髪。薄い体毛。なかなか付かない筋肉……。
それだけに終わらない。
―――僕の場合は不能だ。
その特徴的な外見は、一度だけ攻撃を呼んだ。
今から3年前。中学2年生の時、水泳の授業が切っ掛けだった。胸こそ膨らんでいないもの女性的な身体つきと、水着の下、付いていないように見えるほどに小さな陰部。
その授業のあった日の昼休み……僕は剥かれた。女子も大勢いる時だった。
「お前、ちっせぇなぁ! 俺、焦ったわ! 身体付きも顔も女みてーだし。マジで女なんじゃね?」
大して絡んだことも無い奴だった。そいつとその仲間は「見せてみろよ!」と僕に牙を剥いた。
全力で抵抗したけど、僕は筋力で劣る。抵抗むなしく、そいつらに下半身を露出させられた。
「一応付いてるなぁ! 驚くほどの小ささだけどな!」
嘲り笑うそいつらの顔は今でも脳裏に焼き付いている。
「はぁ、はぁ……。亜津! 何が、あった……の……?」
僕が早退した事を知った亜美は6時間目の開始時間の少し後、息を切らし帰ってきた。双子は何故だか別のクラスにされる事が多い。たぶん5時間目の終了後に知り、知った直後に全力で駆けてきたんだと思う。
僕は僕の半身であり、最大の理解者である妹に全てを打ち明けた。僕らの間で隠し事は有り得ない。物心付いてからずっとそうしてきたから……。
全てを聞き遂げると亜美は「許さない……」とまた学校に向かった。
止めようとは思わなかった。心のどこかで『同じ目に遭えばいい』と言う暗い感情が首をもたげていたんだ……と、時の経った今だから思える。
確立した性別。正常に産まれた妹への嫉妬心。これが全てだと思っている。
深く沈んで、あいつらと揉めているであろう妹を案じる事もなく……、ただぼんやりと過ごしていたその日、妹は晴れ晴れとした顔で2度目の帰宅を済ませた。
笑顔を見せて「もう大丈夫だよ」って……。携帯電話の画像を掲げて見せた。
僕を剥いたあの連中は全裸で土下座していた。
「女子の団結を舐めてるからこうなるんだよ。亜津は写メ撮られてなくて良かった! 撮られてたらもっと厄介だったよ!」
亜美は僕をその日の内に救い出してくれた。
次の日、亜美に引っ張られて学校に行くと、待っていたかのように大勢の女子に話し掛けられた。
「昨日は助けてあげられなくてごめんね……」
「これからはあたしたちの側においで?」
亜美のクラスにも行った。お礼を言わなければいけなかったから。亜美のクラスの女子、ほぼ全員であいつらを剥いた……って、亜美に教わってたから。
「亜津くん、災難だったね……。でももう大丈夫! 私たちが守ってあげるからね!」
「ありがと! 持つべきものは親友だね!」
友人と笑い合う亜美の笑顔が眩しかった。
その日から僕の交友関係は女子が中心となっていった。それは高2になった今でも続いている。
男子からは陰口も聞かれる。でも僕は気にしない。亜美のあの時の凶行は生徒たちの間で知れ渡っている。僕を守るために噂をわざと拡げているんだと思う。亜美は人気者。僕は日陰者。障がいの有無がそのままの力関係を生んでいる。僕は守られる立場に甘んじている。
……恥ずかしいとは思わなくなった。
守られることが女の子として当たり前だと思えるから……。
「亜津くん、おはよ! 今日も可愛いね!」
そして女子と一緒の行動……。
きっとこれが、自然な姿なんだ。
……そう思える。そうとしか思えない。
半陰陽な僕。中途半端な性別の僕。生理学的には男……らしい。
でも……僕は、いつからか自分の中の女の子に抗えなくなっていった。
―――当たり前だ。
一卵性双生児は受精卵の分裂で起きる現象。
正常な妹にそうでない僕。きっと僕は性別を間違えて生まれてしまった。
それは、およそ30日に一度訪れる妹との入れ替わりが証明している。
亜津と亜美の絶対の秘密。単身赴任中の父も朝早くから仕事に向かう母も知らない秘密。
月に一度だけ僕たちの体は強制的に入れ替わる。一卵性双生児にまつわる都市伝説の類そのもの。神様のいたずらなのかも知れない。僕と亜美は不思議な繋がりがあるんだ。
月に一度、亜美の体を借りて過ごす、起床から入眠までは僕が本来の僕になれる時。
その日を待ち遠しく想い、その日、眠る事が淋しくて……悲しい……。
だから僕は、きっと性同一性障害―――
次話は書き上がり次第、投稿致します。