プロローグ
あなたは人の脳内には天使と悪魔が存在しているのをご存じだろうか。
唐突だが、ひとつ例をあげよう。
出勤途中の男は信号待ちをしていた。
――あーこの爺さんはやく渡ってくんねえかなァ。
――遅刻ギリギリになりそうだなぁ、やべぇなァ。
彼の脳内では、このとき……
「あーやべぇ、アクセル踏みこんで殺しちまいたいぜ、このジジイ」
「やめときなよ、ここは笑顔で渡らしてあげるのが大人ってもんじゃないの」
「んなこと言ったって、もう信号青に変わっちまったじゃねえか」
「そんなにイライラしないでよ、あ、かわいい女の子発見」
「え、どこどこ」
このようなやり取りが天使と悪魔によって行われていた。
脳科学やデジタル、その他のテクノロジーの進化によって、ついに人類は脳内に感情を操る存在がいることを突き止めたのである。
もちろんこれは非公表である。知り得るのは政府や警察機関など、ごく一部に限られる。
この感情を操る存在、すなわち天使と悪魔がいることによって、人は如何にして犯罪を引き起こすのか、それが明らかになった。
簡単に説明すると、悪魔が悪だくみをし、それを天使が制止するという極めて単純で予想通りの展開であった。
しかし、ひとり一人に等しく天使と悪魔が存在するわけではなく、それはまさに人それぞれ。
とはいえ、犯罪を犯す予兆がありながら黙って指をくわえて見ているだけでは被害者を減らすことには繋がらない、そういう期間が長く続いた。
――どうにかしてこの悪魔を追い払う方法はないのか。
そして現れた。
この、悪魔という感情と戦う者達が。