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森ガール、はじめました  作者: マルコ
1.In The Shadow Of The Valley
2/8

クルル・カリルと扉は開く

勢い余ってやらかした

反省はしているが後悔はしていない



 全て世は事もなし。


 日常は変わらず動き、絶望的に退屈な日々が続く。

 昨日と今日は代わり映えせず、淡々と日々を過ごしてゆく。

 脳味噌の奥が腐ってゆきそうな平和の微睡みの中、青春の日々は過ぎてゆく。


 ――きっと、今日も変わらない。それで良いのだ。その時まではそう、思っていた。




 春眠暁を覚えずとは良く言ったものだと、鹿喰茅子かじきかやこは薄れ行く意識と闘いながら黒板を凝視する。

 昼食直後の5限目、加えて空は麗らかな五月晴れ。

 風はまだ冷たいものの、衣替えもまだ行われておらず日差しは暖かであるため

 余計な熱を攫ってゆくので逆に心地よさを際立たせている。


 進級直後特有のちょっとした緊張感は薄れ始め、早くもユルい空気が漂い始めている。

 そんなほっとした空気の中で聞く化学の授業なぞ、最早寝るなという方が厳しい物がある。

 クラスの担任の本郷の呪文のような解説を聞き流しながら、死に際のミミズのような文字で辛うじてノートを取る。


 本郷には見えないように欠伸をすると、同級生の狛江颯人こまえはやとと目が合う。

 奴も眠気には抗えないようで、そのまま机に突っ伏して惰眠を貪ることとしたようだ。

 チラホラと睡魔に抗えず轟沈した級友が目に留まり、茅子もこんな心地よい日に授業なんぞやるほうが悪い、と

 黒板の前でアボカドだかアボガドロだか分からないが、そんな単語を解説する本郷に責任転嫁し机に突っ伏した。



「あだだだだっ、何すんだよ、東雲!」

「起きなさいよっ!今寝たらノート取らせないんだからね」



 汚い悲鳴で起こされうっすらと目を開けると、斜め前に座る狛江が隣の席に居たポニーテールの女子生徒に耳を引っ張られていた。

 引っ張っているのは奴の幼馴染にしてクラス委員、加えて密かにマドンナと目されている東雲波恵しののめなみえである。

 普段から授業態度の宜しくない狛江に制裁を加える様は、最早クラスの恒例行事となっており

 クラスメイト達は仕方のないやつだと笑い、お調子者ともなれば「授業中にイチャつくんじゃねーぞ!」とやじを飛ばす。

 本郷も、困ったように笑いながら狛江に注意を促した。

 

「じゃあ、この問題は狛江くんにお願いしようか」


 ニッコリ笑って中々に残酷なことをいうので、この担任は恐ろしい。

 狛江の狼狽ぶりに、同じく船を漕いでいた面々は内心でほっと胸をなでおろしていることであろう。

 同じく茅子も、少々の同情と愉悦を感じる。他人の不幸は蜜の味。メシウマは座右の銘である。


「ゲッ!?お、おい、東雲!」

「ちゃんと授業聞いてれば分かるのに、自業自得よ」


 幼馴染にも見放され、中々見ものな表情の狛江が市場に売られる子牛のような表情で黒板の前に連行される。

 13階段か、はたまた電気椅子への歩みが如き緩慢なそれに、教室には笑いの空気が流れた。


 それが、昨日とさして代わり映えのしない日常の最期だった。





 ――変異の始まりは光だ。

 突如として教室の壁から床から、天井に至るまで奇妙な文字が光りを帯びて浮き出てきた。

 その文字達は複雑怪奇な模様を描き、なお一層光を強めてゆく。

 空気が揺れ、地面がカタカタと振動を始める。すわ地震かと思うが、小指一本動かせない。

 あまりの異常な出来事に、言葉ひとつ発せないまま茅子の視界は白一色に塗りつぶされたのだった。





 やけに重苦しい空気が茅子の肌を撫でる。

 うっすらと目を開くと、白い帳が徐々に薄れて自分がやけにだだっ広い石造りの部屋に立っている事に気づいた。

 周囲を見回すと、教室のものをそっくりそのまま、この空間に持ってきたかのようである。

 同じくクラスメイトが倒れてるのから、椅子に座り込んでいるの、茅子と同じく立ち尽くしているのも居た。

 三者三様に在りさまではあるが、皆一様に今の状況を飲み込めずに居た。

 

 クラスメイトの姿を見て少しだけ落ち着きを取り戻した茅子は、部屋中を改めて眺める。

 チョコレート色よりやや明るいトーンの、つるりと磨き上げられた床に、恐らく同じ材質の壁。

 何処かの坑道のようにも見えるが、教室を2つばかり入れても余裕がありそうな広さと

 天井から吊るされた豪奢なシャンデリア、それから壁に施された繊細な彫刻が、そうではないと物語っている。

 何時か、叔父が持ってきた岩塩鉱を掘り抜いて作られた異国の礼拝堂を思い出す。


 壁にはいくつかの宗教画と思わしきレリーフが施されており、何れにも女性と子供が描かれていた。



「――儀式は成功したのですね」



 不意に鈴を転がすような可愛らしい声がして、茅子は振り返る。

 其処には、緑の輝石があしらわれた首飾りをして白いドレスを身に纏った大変若く美しい娘が立っていた。

 流れるような金の髪はシャンデリアの明かりを受け艶々と輝き、

 菫色の瞳と西洋風の優しげな顔立ちは聖女かはたまた天使か、と思わせるような高貴さと優しさを放っている。

 背後には、彼女の護衛であるのか西洋風の鎧を着た男らや見慣れぬ文様の描かれたローブを身に纏った女やらが立っている。


 未だ自体を飲み込めずに居るクラスの一同の前に立ち、彼女はやわらかなほほ笑みを浮かべ歓迎の意を示した。


「よくぞ彼方の地シオニアへおいでくださいました、地母より遣わされし勇者様方」


 聖女のようなそのほほ笑みに、なぜだか茅子は背筋が寒くなるのを感じたのだった。




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