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お嬢様系女子佐原さんのゴリ押し

作者: メラルー



私、佐原千咲は、宮間一樹君に恋してます。




「どこがいいのよ、あの『Mr.オカン』なんか」

「愛理ちゃん酷い!」

お昼の時間。私の友達の愛理ちゃんは、吐き出すようにそう呟いた。



「だってそうでしょ。そりゃ、ちょっと怖いけど見た目はいい方だと思うよ見た目は。だけど、あの女子力はちょっとね~。確かに男子が料理とか出来るのは得点高いけど、あそこまで家事全般が出来るのは、こっちが萎える」

などと宮間君を酷評する愛理ちゃんはズズーっとコーヒーを飲み干した。

宮間君は、女子の間ではあまり人気じゃないみたい。ライバルが少ないのは嬉しいけど、ちょっと複雑な気分にさせられた。




「なんで?宮間君かっこいいし、優しいし、いい人だし……」

「それはあんたも女子力高いからそう見えんの。私みたいなガサツ女にとって、あの女子力は最早凶器だよ。私の自信を根こそぎ奪っていくんだもん。分けて欲しいあの女子力」

「愛理ちゃん、まずは料理から始めようか!」

「断る」

それじゃあいつまで経っても女子力上がんないよ愛理ちゃん!

なんて言ったってがさつな愛理ちゃんがやる気になるわけもないため、私はまだ残っているご飯を口に運んだ。



宮間君は、なんでも出来る。

勉強の方は普通らしいが、家庭科の授業ではまさに向かうところ敵無しだ。

裁縫の時間では型紙が無いのに市販と同等レベルのパーカーを作り出し、料理の時間では家庭科の先生すら唸らせるレベルのグラタンスパゲティを完成させる宮間君は、『Mr.オカン』の称号を欲しいままにしていた。(本人がその称号を喜んでいるかは別として)

そのうえみんなの事をちゃんと見ていて、本当に困っている時に手を差し伸べてくれる。こんなに素敵な人なのに、なんでみんな宮間君の事好きにならないんだろう。いや、それはそれで困るんだけど。

ちらりと友達と一緒にお弁当を食べている宮間君を盗み見る。今日も今日とて彼のお弁当はおいしそうで、宮間君のお弁当のおかず争奪戦が繰り広げられていた。



「唐揚げは俺のもんだ!」

「じゃあ俺エビフライー」

「これが宮間の手作りとか笑えない」

「よっしゃだし巻き玉子ゲット!!」

「だああくそっ!分けてやるから落ち着けお前ら!箸渡しは行儀悪いだろぉが!あと野菜も食え!」

「なんでみんなして配られたトマトを俺に回すんだよ!?」

「野菜食えっつってんだろっ!」

ぎゃあぎゃあと騒がしい男子たちを見て思わず歯噛みしてしまう。いいないいないいなぁ!私も宮間君と食べさせあいっこしたい!宮間君にあーんしたい!




「千咲、スキスキオーラが出てる」

「え、わ、うそっ!宮間君にバレちゃう!?」

慌てて宮間君から視線を反らす。ひゃああ恥ずかしー!!



「み、宮間君にバレてない?」

「うん、大丈夫(宮間以外にはバレてるけど)」

愛理ちゃんの返答に私はホッと一息ついた。宮間君に好きってバレるなんて、それこそ悶え死んでしまうっ!

こうして遠くから見ているだけで、ドキドキして、なんだか幸せな気分になってくる。この前宮間君が私の為にカーディガンを持ってきてくれた時なんかキュンキュンして次の授業に集中出来なかったぐらいだ。

そしてそして、その日の放課後なんか……。




「あああもうだめだ愛理ちゃん。私おかしくなりそうっ!」

「はいはい。送ってってもらったんでしょ。たったそれだけじゃん」

「なっ!好きな人と一緒に帰るってのは乙女の夢なんだよ!」

「ずいぶんちゃっちい夢だね」

「もおおっ!」

この話をするといっつも愛理ちゃんは白い目をする。そんなにおかしいかな。だってだって、好きな人と帰るんだよ?もう、宮間君と一緒に帰ったあの時は、心臓がきゅうきゅうして苦しくて、でも幸せで幸せでどうにかなっちゃいそうだった。




「また一緒に帰りたい……。もっともっと仲良くなりたい……」

「とか言ってるわりにはアプローチしないよね千咲」

「ぅ……」

痛いところをつかれた。

机に突っ伏したまま動かない私に、『ははーん』と愛理ちゃんの声が降りかかる。



「もしかして……恥ずかしくて出来ない、とか」

「…………そ、そんなこと」

「まぁ、お嬢様な千咲には難しいかー」

「お嬢様なんかじゃないよ」

親の給料が、ただ少しだけ平均よりも高いだけ。別に家が豪邸だとか召し使いがいるとかはない。

なのに、周りからお金持ちとかお嬢様とか言われるのが嫌で、普通になりたくて、私は親に勧められた私立の女子高ではなくここの公立高校を選んだ。親の反対を押し切って、一人暮らしだって始めた。

最初こそ苦労の連続だったけど、もう一年たった今では慣れたもの。元々、親に花嫁修行だとかなんとか言われて一通りの家事を練習させられていた事が幸いだった。




「もう私は普通の女子高生だもん」

「まぁ、昔よりは普通になったけど」

コーヒーが入っていた紙パックを手で潰しながら、愛理ちゃんが笑う。



「でも、少しっくらいアプローチしてもいいんじゃない?ほら、宮間って女慣れしてないじゃん。千咲は男子の中では結構評判いいし、ちょっとやればすぐコロッといっちゃうよ」

「ほ、ほんと……?」

み、宮間君と付き合ったり……?手を繋いだり、お弁当一緒に食べたり出来るのかな……?

途端に顔に熱が集まってくる気がして、思わず頬に手を当てる。



「で、でもアプローチってどんなことやればいいの?」

「んー、話しかけてみるとか、さりげなくボディタッチするとか?気になってるってアピールすりゃいいよの」

「な、なるほど……。よし、愛理ちゃん、私頑張る!」

「はいはい」

愛理ちゃんが呆れた様子で呟いた。







もしかしなくても、最近の私はついているのかもしれない。




「じゃあ今回はロールケーキを作りますから、各自計画通りに動いて下さいねー」

先生の掛け声と共に、家庭科室が騒がしくなる。よろしくねーと声をかけあうみんなに合わせて、私も同じグループである隣の人を見上げて挨拶をした。



「よ、よろしく宮間君っ!」

「おう、よろしく」

宮間君はそれだけ言って手を洗いに行ってしまった。毎度の事ながら宮間君はにこりともしない。(逆に顔をしかめている気がする)だけど、それは別に私を嫌っているからじゃないらしい。なにかと世話を焼いてくれるし。

長い髪を束ねて気合いを入れる。ロールケーキは私も作ったことがあるから、少しでも良いところを見せられるかもしれない。



「千咲、めっちゃ気合いはいってんな!」

同じグループである葉山君が私の顔を覗き込む。クラスのムードメーカーであり運動神経抜群の葉山君は、ニコッと爽やかに笑った。



「うん、ロールケーキは作ったことがあるから、頑張ろうと思って」

「そっかー、俺料理は壊滅的だから味見担当でよろしく!まぁ、宮間がいるから失敗はありえねーけど」

そうだよね。宮間君がいる限り料理で失敗はあり得ない。更に言えば、他の班よりもクオリティーの高いものが出来上がるのが常だ。




「で、でも少しでも力になりたいから……」

「ふーん……」

好きな人に近付きたいその一心で頑張ろうと思う私は少し滑稽に見えるかもしれないけれど、葉山君はニカッと笑って私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。




「頑張れよ!」

「あ、ありがとう!」

料理に関しての事なのかはよく分からなかったけど、なんだか葉山君の笑顔を見たら俄然やる気が出てきた。

ようし、いいとこ見せるぞー!





放課後。



「はぁ……」

家に帰る為に下駄箱から靴を出しつつ、私は内心落ち込んでいた。

家庭科の授業、はっきり言って私が出る幕が無かった。手洗いから帰ってきた宮間君は、何故か恐ろしいほど無表情になっていて、他の人が手伝わなくても良いくらいの手際の良さでロールケーキを作り上げていった。私がやったことなんか、洗い物やフルーツを切ること位しかやっていない。




「宮間君、機嫌悪かったのかなぁ……」

いつもはもうちょっと、回りに仕事を回してくれるはずなのに。あと、何故か葉山君への対応が刺々しく感じた。

ローファーに履き替える。外は今にも雨が振りだしそうな曇天の空だ。



(降り始める前に帰らないと)

「ほら千咲、早く行くよ」

「うんっ」

愛理ちゃんに急かされて、慌てて外に出る。と、その前に傘、傘はっと……。




「……あれ?」

「なに、どうしたの?」

「……傘、持ってきたのに、ない……」

何度見渡しても見つからない。朝、傘立てに置いたはずなのに……。まさか、誰かに取られちゃった、とか?




「お気に入りの傘だったのに……」

「まぁまぁ、明日になったら返してくれるかもよ。雨が降ってきたら、今日は私の傘に入れてあげるから」

愛理ちゃんは持っている傘をステッキのようにくるりと回した。そうだよね、明日になったら返してもらえるかも。



「うん……、ありがとう愛理ちゃん」

「どういたしまー……、あ」

何かに気付いた愛理ちゃんが立ち止まる。その視線は私の後ろに向かっている。




「愛理ちゃん?」

「…………あー、千咲、ごめん、私先生に課題出すの忘れてたから、ちょっと行ってくる」

「ぅ、うん、分かった。ここで待ってるね?」

「うん、ごめん」

申し訳なさそうに顔を歪ませる愛理ちゃんは、パタパタと廊下を走っていった。その後ろをクラスメートの三井さんが一緒に走っていく。




(……??)

なんで三井さんも一緒に?

少し不思議に思いつつ、外に出る。まだ雨は降り始めてはいないが、時間の問題だろう。

そういえば、宮間君はもう帰ったのかな?できればもう一度一緒に帰ったりしたいなぁ。



「はぁ……、宮間君は今どこに……」

「後ろにいるけど」

「っひゃあ!」

いきなり聞こえてきた低い声に、私は飛び上がった。慌てて後ろを振り向くと、そこには呆れ顔をした宮間君が立っていた。




「ぇ、わ、みみ宮間君!?な、なんでここにっ!」

「なんでって、俺も帰るんだよ。佐原はこんなとこに突っ立ってどうしたんだ?」

「えと、愛理ちゃんが用事で帰ってこなくて……。宮間君は、もうすぐに帰るの?」

「ああ、今日は俺の母親が夜勤だから、代わりに飯作らないといけねぇし」

なんてことない風に言うけど、忙しい親の為にご飯を作ってあげるだなんて、やっぱり宮間君は優しい。

じわりと心の中がほっこりしていたら、ポケットの中に入っているスマホが鳴り出した。

気になって確認してみたら、さっき別れたばかりの愛理ちゃんからだった。




『ごめん、すぐに終わりそうにないから先帰ってて』

「え……」

「どうした?」

「あ、なんか、愛理ちゃんが先帰っててって……」

先生に課題出すだけなのに、一体どうしたんだろう。




「……そ、うか」

「ぅ、うん……」

なんとなく、気まずい。

ぎこちなく答えた私はちらりと宮間君を見上げる。そっぽを向く宮間君は少しだけ頬を赤くしつつ、何か言いたそうな微妙な顔をしていた。




誘っても、いいだろうか

『一緒に帰ろう』と。



でも、今日はご飯を作ると言っていたし、邪魔になっちゃうかも……。無理を言って宮間君の邪魔はしたくない。でも……。



「み、宮間君!」「佐原」

「「!!」」

勇気を出した声は、宮間君の声と重なった。



「ど、うした?佐原」

「ぇ……、な、なんでもないよ!わ、私帰るね!」

咄嗟に言った言葉にしゅんと肩を落とす。わ、私、なんてバカなことを口走って……!

いまさら後悔したって、もう言ってしまったものはしょうがない。

悔しく思いつつ、せめて去り際は潔く走り出して、




ザアアアア…………。




「…………」

「……佐原、濡れてるぞ」

「……うん」

ついに、雨が降り始めてしまった。

小雨ではなく、ザァザァと強く降る雨に打たれ、私はシオシオと宮間君の隣に戻った。



「濡れて寒くないか?」

「だ、大丈夫!」

「あんまり大丈夫そうには見えねぇけどな」

宮間君は呆れたように溜め息をつきつつ、自分のバックからタオルを一枚取り出して、私の頭に被せた。




「ぁ、りがとう、宮間君」

「いいから、さっさと拭け」

「ぅ、うん」

「お前、傘は?」

「えと、置いておいたら、誰かに取られちゃって……」

だけど、そんな事よりも宮間君がタオルを貸してくれたことの方が問題だ。

宮間君のタオル、スッゴくいい匂いがする……!そして宮間君の匂いがする……!って、なんか私変態みたいじゃん!




「取られたのか?しょうがないな……。俺の傘貸してやるよ」

「あ!えと、その!」

そんな申し訳ないこと出来ない。というか、もしよかったら、その、一緒の傘に入りたいというかなんというか!

わたわたする私の気持ちを知ってか知らずか、宮間君は持っている傘……、ではなく、鞄の中から折り畳み傘を取り出した。



だよね!宮間君ぐらいの人なら折り畳み傘を常備するよね!




「わ、悪いよ貸してもらうなんて……」

「いいから。濡れて帰る気かよ」

「ぅ……」

ここは、有り難く貸してもらうことが正論なんだろうけど……、私は、宮間君と一緒に帰りたいし、相合い傘したいし……。でもでも、迷惑になっちゃうかもだし……。



「おい、佐原?」

不思議に思ったのか、宮間君が顔を覗き込んでくる。そして、私は見てしまった。




彼の後ろ。渡り廊下の場所に、親指を立てて笑っている愛理ちゃんと三井さんの姿を。



(あ、愛理ちゃん、三井さん……!)

思わず体に力が入る。そうだった。今日、私は宮間君にアピールすると愛理ちゃんに誓ったんだった。

もう、こうなったら、当たって砕けるしかないっ!




「宮間君っ!」

「お、おう?」

「い、一緒に帰りませんか!?」

「は?え、いい、けど」

「出来れば相合い傘でっ!」

「却下」

宮間君は顔を真っ赤にさせて否定してきた。



「ぅ……!ど、どうしても?」

私が見上げると、宮間君は何故か一歩下がった。



「傘二個あるんだから別々でいいだろ!それに、その、一個の傘に二人で入ったら濡れるし」

「わ、私は宮間君と一緒なら濡れたって大丈夫っ!」

「風邪引くだろ!」

「す、すぐお風呂に入れば……!」

「だとしてもわざわざ濡れる必要ねぇよ!」

「っ……その、」

引く気はないのか、宮間君の反撃が凄い。で、でも負けないんだからっ!



「み、宮間君の為なら、私どうなったって構わないから!だから大丈夫!」

「っ、な、おま、気安くそういう事を言うなよっ!」

「え、き、気安くって」

わ、私は結構真剣なんだけど、宮間君はからかわれているって思っているのかな?

私は思わず真っ赤になっている宮間君に一歩近付いた。



「わ、私、本気だよ?宮間君の為なら……!」

「だからっ!その俺の為ならとか気安く言うなよバカ!いいか?男ってのはそういう言葉で簡単に勘違いするような生き物なんだから簡単に口走んな。お前、そのうち襲われるぞ」

「ご、ごめん……」

思わず謝ってしまった。でも、今は宮間君に、私を意識して欲しいから、そのままの意味で理解して欲しいんだけど……。私は、思わず手を伸ばして宮間君の服を掴んでいた。



「で、でも、私、」

心臓か痛いほど鳴り響いている。緊張のせいで足はもうガクガクだし、もし宮間君に拒絶されたらと思うと怖くて涙が溢れそうだ。いっそのこと逃げ出してしまいたい。でも、やっぱり、私は宮間君の側にいたい。




宮間君に、好きって言いたい。

宮間君と、一緒にいたいよ。

だから、私は、



「み、宮間君になら、私、お、襲われても、いい」




言い終わるか言い終わらないかの内に、宮間君は顔を熟れたトマトのようにさせて、走り出した。




「……え?」

取り残された私は思わず彼を視線で追う。律儀にも私に貸すと行っていた折り畳み傘を置いて、何故か自身は傘も射さずにどしゃ降りの中走っていく宮間君。何故か『くっそぉ~~~~!!!』という叫び声を上げながら走り去ってしまった。




「……え?」

ガクガクと震えていた膝が折れ、その場に座り込む。もしかして、もしかしなくても……、




「私、もしかして、フラれた……?」

遠くから、三井さんと愛理ちゃんの叫び声が聞こえた気がした。




ということで、佐原さんのお話でした。

このふたりの話は色々考えてはいますが、一応これで完結ということで……(汗)



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[一言] か.....完結っすか? それは殺生です。 是非とも続きをお願いいたします!
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