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出会い(4)

前回のあらすじっぽいもの:なんか男が助けてくれた

「ん? なんでこの草こんなに硬くなってんの?」


 ナナ姫の頭上を守っていた草の上を、たしたしと何度か踏みながら首を傾げている、突然現れたその男。

 彼へと視線を向けた後、先程囮の後放たれた無数の攻撃から身を守ってくれた草の壁のこちら側に叩きつけられている黒影を見て、ようやく自分達は助かったのだ、とコガは気付いた。


 ただ、この敵を蹴り飛ばした男の正体に、微塵もアテがなかった。

 本当に見知らぬ人間だ。

 敵か味方かも分からない。

 分かるのは、何故か見ず知らずであるはずの自分達を助けてくれた、というところだけ。


「…………」


 中にしっかりと服を着ているにも関わらず砂色のマントを羽織っている、異質な格好をしたその男。

 行動からは味方だろうと思えるが、格好からは怪しさが滲み出ている。

 助けてはもらったが、警戒して然るべきだとコガは判断した。


「ん?」


 その間にも男は、自分の顎を撫でつつ、警戒した表情で見ているコガを見、真下から呆然と見上げているナナ姫を見……少し何かを考え込んでから、周囲をグルりと見渡す。


「ん、ん? ん……んんんんんんんん~~~~~~~~~~~~~~~……?」


 それから腕を組み、難しそうに顔をしかめながら唸り声。

 男の右手には、鞘に納められた剣が二本。

 布製の紐で束ねたソレが握られぶら下がっている。

 短いわけでも長いわけでもない、中剣と呼べる二対の得物。

 おそらく鉄製の物だろう。これまた今時珍しく、異質だ。


「んんんんんん~~~~~~~~~~~……」


 コガとナナ姫の二人は元より、周囲を囲っている敵も何故か動かない。突然のイレギュラーに戸惑っているのか……それとも、強さに警戒心を抱いているのか……。

 だがこの反応から分かることはある。

 少なくとも相手にとってもこの男は、味方ではないと言うことだ。


「……んんんんん~~~~~~…………ん! よしっ」


 そのことをコガが悟ったところでようやく、長い長い男の唸り声が止まった。

 そして名案が閃いたとばかりに明るい表情を浮かべながら、元気一杯口を開いた。




「とりあえず、名も知らない女の子二人。一緒に逃げようかっ!」




「えっ!?」


 驚きの声を上げたのはコガ。

 ナナ姫も声こそ上げなかったが、その表情はコガと同じ驚愕の色に染まっている。

 そんな二人の様子を気にすることもなく、コガとナナ姫の間に飛び降りて、足元の草の中に隠れていたナナ姫の手を取り、先程まで足場にしていた茂みに頭をぶつけないよう立ち上がらせる。

 そうしてフラフラと立ち上がった彼女に少し驚きながらも、男はごく自然に膝裏へと手を回し、抱きかかえる。


「なっ……! えっ? えぇっ!?」


 お姫様抱っこというやつだ。


「お、降ろして下さいっ!」

「逃げ切れたらどこにでも降ろすから、ちょっとだけ我慢してて」


 顔を赤くし抗議するナナ姫にシレっと男は答え、自らの足場にしていた硬い草に、ナナ姫の膝裏へと回した手を触れさせた。


 途端、その場を中心に、土で繋がるこの場全ての茂みが動き、巻き込んで、編み込み、目にも留まらぬ速さで道を挟んだ反対側の建物へと伸びていく。


 周り全ての草がそちらへと使われているせいだろう。

 段々と、周囲の土がむき出しになっていく。

 蹴り飛ばされた黒影も、防いだ敵の攻撃も、その土へと無機質な音共に落ちていく。


 そうして出来上がったのは、向かいの建物の屋上を終着点とした階段。

 ちゃんと手すりと隙間の無い柵を左右に作り上げ、遠くからの攻撃を防げるような形となっていた。


「…………っ」


 今度はコガが、ナナ姫と同じく言葉を失った。驚愕の声は音にならなず、呼吸が数瞬止まったような錯覚にさえ陥ったほどだ。

 これほどの形態変化を、僅か数秒足らずで行う凄さ。木属性の才能があったとしても、これだけの短時間で行えるのはかなりの腕前ということになる。

 現にコガでは、コレと同じものを――いや、柵と手すりの無い階段を同じ高さまで持っていこうと思えば五秒はかかる。

 それなのにこの男は、敵に妨害の隙も与えず、それ以上のものを成し遂げた。


「それじゃ、行こっか」


 それも、平然と。

 特に威張ることも自慢することも、だからと必死な形相をみせることもなく。

 その当事者の男は、そうコガに声をかけて返事も待たず、先々と階段を駆け上がっていった。


「…………」


 にしても、一緒に逃げよう、と言ってからこれまでの展開が早すぎる。

 いや、ソレを言ったらあの男が登場してからの展開が速すぎる。

 コガの体感時間だと一分も経っていない。


 そのせいで、この状況に追いつけていない。敵か味方かを考える間も与えられていない。

 そのことに、気持ちがザワつく。不思議な感覚に支配される。


(こうも突然が続くから囲っている敵も驚き、手を出せていないのかもしれない。でも……そんなことあり得るの……? こうも攻撃が無いのはもしかして、敵の罠……? 手が出せないのではなく、手を“出さない”……? 仲間がターゲットを攫っているところだから……? それを悟られないために、敵も攻撃を諦めたんだな、と私に思わせるために、柵をも作った……?)


 ザワつきの中そう思考するが、コガはすぐにその考えを否定する。

 この敵たちは、そんなまどろっこしいことはしない。殺すまでの過程に手間は惜しまないけれど、殺せる段階に入ればすぐさま実行に移す。そういうやつらだと理解している。

 だからこそさっきだって、周りの奴等の味方ではないと考え着いたのだから。


(ならばあの男は、別の敵……? 姫を連れて帰ろうとする方の……? いやでも、さっきまで追いかけてきていた男女二人が所属する組織は、姫に安心してもらうために制服を脱いでまでは彼女に接触はしないはず……名乗りも上げていないのに、こんな攫うような形も取らないはず……となれば、あの男は……?)


 コガの中に、男に対する不信感は募るばかりだった。

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