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始まりに至る終わり

「これからまた、一緒に旅をしてくれませんか?」


 そのナナ姫の申し出を、アキラはあっさりと承諾した。

 あまりにもあっさりし過ぎていて、コガが驚き過ぎて言葉を失ったほどだ。


 だから、昨日の決戦から翌日……いつも通りに三人は、東に向かって歩いている。


 相変わらず、目的地はなくて……ナナ姫に世界を見せるためだけを目的に、歩いているのだけれど。


「……本当に良かったの?」

「なにが?」


 珍しく、アキラの隣を歩くコガが、不意に訊ねてきた。


「私達について来てくれて」

「来てくれても何も、オレからしてみたらついて来させてくれてありがとう、って感じだけど」

「どういうことですか?」


 アキラをコガと挟むように歩くナナ姫が、彼を見上げながら訊ねてくる。


「どうもこうも、オレはとっくに復讐は考えてない。っていうか、旅をして復讐を考えるだけ無駄だと悟った。で、旅をする目的を失って、戻ってきて、トモキに見つけられ逃げているときに君達と出会った。……つまりもう、オレには何の目的もないんだよ。そんな中で目的をくれるっていうんなら、むしろ大歓迎ってこと」


 だから、ついて来させてくれてありがとう。


「でも、私はあなたを裏切った。それなのにまた一緒に旅を出来る……?」

「コガさんは裏切って無いだろ」

「えっ?」

「あなたはあくまで、ナナ姫の味方だ。オレの味方じゃない。だから、ナナ姫のための最善手を打とうとしたその行為は、なんの裏切りでも無い。だからこれからも、それを続けてくれ。遠慮するな。そういったオレへの裏切り行為は、少なくともオレにとっちゃ裏切り行為でもなんでもないんだからさ」

「…………」


 その言葉に、二の句を継げない。


 仲間……という風に括られるのを一番警戒していたのは自分自身だと、コガは思っていた。

 見ず知らずの他人から、ちょっと助けられただけで信用するのは危険だと……。


 だが彼のその言葉は、それすらも生温いほどの言葉だった。


 信用なんてしなくていい。

 裏切ってくれて構わない。

 一緒にいさせてくれれば護ることは怠らない。

 報酬もいらないし気を遣う必要も無い。


 ……彼はそう、この四日間で告げてきていた。


 それは贔屓目に見ても、仲間に思われたい人が取る行動とは思えない。



 これではまるで……何もかもを諦めたような……復讐と共に、生きることすらも捨てたような、そんな感じがしてしまう。



 ただの道具と化そうとしている人間の、行動。


 ただなんとなく、生かしてくれる目標をくれる人さえいてくれれば、それで良いと……。


「……アキラさんは」


 その危うさを悟ってか――


「もし、あたし達と別れたら、どうされるおつもりですか?」


 ――ナナ姫は思わず、自分でもいつの間にやらといった風に、その言葉を投げかけていた。


「どうって言われてもな……さあ? 考えたことも無いや」


 苦笑いを浮かべ、答えるその表情。


 ……彼の闇を見てから見るその表情は、本当に空っぽの心を写しているようで……不気味であり、悲しくもあった。






 この中で一番危ういのは、アキラなのかもしれない。






 目的も何もなく、いつ死んでも良いと思っている。


 それがいけないことだとも自覚していない。


 目的が欠けているのすらも無自覚で、いつ自殺してもおかしくないことすらも分かっていない。



 ……今にして思えば、昨日の幼馴染との戦いは、唯一彼が“空っぽ”にならずに済んでいた部分を、空っぽにしてしまったのかもしれない。



 水に流れる親友ともと一緒に、自らの支えも一緒に流した。


 それこそが、今のアキラなのかもしれない。


 そう思えば心なしか、昨日とは雰囲気が違うように見える。


 いたずらっ子のような表情が……消えてしまったような……。


 ……あの表情はまさに、構ってくれる人がいてこそ浮かべられるもの。

 自分の行動を見て、諌めたり叱ったり、色々な反応をしてくれる人がいないと、出来ない。


 それが昔見ていたトモキという幼馴染で……彼の支えだった。


 憎まれ、恨まれていることは、アキラ自身も自覚していた。


 けれども、どこかで期待していたのだ。


 昔共に過ごしていた、親友としての日々を。


 でも、それは叶わなかった。


 ……もし、戦いではなく、二人が再会を喜び合えたのなら……彼はあの幼馴染と共に、目標を見つけるために生きていけたのかもしれない。




 今みたいに、与えられた目的を、目標ではなく目的のまま生きるなんてことは、することなく。




 普通の、人間のように。


「…………」


 そうなることを無自覚にも理解し、危機感を抱いていたからこそ、トモキとは戦いたがらなかったのかもしれない。


 でも、自覚していなかったら、ナナ姫を助けるために、戦ってしまって……結果、本人も知らなかった支えが、無くなってしまって……。


 その結果、何もなくなった彼は……ただ、目先でもいいから目標をくれる人に、ついて来ようとしている。



 それは、なんて危うさだ。



 つり橋は崩れ去り、それでも反対側へ渡ろうと、ロープを手探りで渡り続けているような……。


 そして、その反対側に、何があるのかも分かっていないような……。


「…………」


 彼の危うさを見れた。


 今まで見れなかった、感じ取ることも出来なかったソレは……おそらく、守られるだけではなく、守ってもらって、守ってあげたくて、彼を知ろうとしたからこそ、知れたこと。


 だからナナ姫は、密かに誓う。


 彼に救われ、彼に教わり、彼のおかげで守れる術を身に付けたからこそ、思う。




 ……なんとしても、彼を――新山晃にいやまあきらという抜け殻を、“人間”に戻させよう。




 と。


 復讐を、憎むことを、生きることを、あらゆることを諦め……感情のままに、目標もなく、与えられた目的を果たすためだけに生きる、ある種純粋なだけの、空っぽな彼を……。






 絶対に、殺してはならない。






 そう、固く誓った。


 それが自分に出来る、おそらくは唯一の恩返しと信じて。


 彼を空っぽにしてしまったキッカケを作った自分が出来る、義務だと信じて。



 そうして彼女は、彼に微笑みかけながら、目的のない旅へと想いを馳せ……あらゆる世界を見る以外の目標を、己の中で定めた。




 この三人での旅の終着点では、せめて……アキラが一人で生きていけますようにと……そう、願いながら。

 というわけで終わりです。

 ふと思えば、アキラの一人称が「俺」と「オレ」の二種類になってしまったかも、というミスに思い至る。


 あと誤字脱字が多そうでイヤだ…読み直しとかしてないから怖い。

 っていうか読み直しとか出来ない。


 心残りは、まぁそんな感じです。


 あ、この文章は

傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」

 の設定の下となったやつです

 だから『変化術』とか『形態変化』が丸々一緒だったりするんです

 この文章をファンタジーに特化させて書き直していった結果が、上記のSSです


 なんでそんなものを投下したのか…最早気まぐれとしか言えないな…。

 ただ完結してなかったものを完結させたかっただけなのかもしれない。

 実は書けてたの、「宿の中の出来事」まででした。

 そこから昔書いた設定とか話の展開の予定とか読んで無理矢理完結させたのがこの文章。



 ともかく、今まで駄文にお付き合いして下さった方、本当にありがとうございましたm( __ __ )m

 またいつか気が向いたら何かしらを投下します。


 とりあえず目下は、ここを利用することになった原点の三大噺を久しぶりにやりたいな、ってぐらいな気持ちです。

 いつ何をやるのかは未定なんで、今まで通り期待しないでいてください。

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