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決着の時、失くすもの色々と(3)

前回のあらすじっぽいもの:土のドームの中、幼馴染二人は戦いを繰り広げる

 作戦の第一段階は上手くいった。


 それを確認し、ナナ姫は橋の下から出て堤防だった坂道を登っていく。


 後は……遠くにいるコガちゃんと、自分次第。


 それを改めて心の中で唱えると……確実性をあげるため、ナナ姫は己の服のボタンへと手をかけ始めた。


◇ ◇ ◇


 アキラの優位性は確実なものだった。



 ……つい、十分ほど前までは。



「くっ……!」


 先に地に膝をつけたのは、攻撃を続けていたアキラの方だった。


 全ての攻撃を避け続けたトモキは……いまだ元気なまま。

 十分間も攻撃を避け続けていたとは思えない。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」

「……惜しかったですね。正直、閉じ込められた時は、もうダメかと思いましたよ」


 酸素を求め呼吸を荒げるアキラを、トモキは冷たい瞳で見下ろす。


「すぐに倒せると思っていたのに、時間がかかることになりそうで、つい毒吐いたりもしましたしね」

「お前……くっ……!」

「何をしたのか……ですか? 簡単なことです。この空間内にある空気、その全てをボクの周りに集中させているのですよ」


 紙一重での回避。

 初期の頃はトモキの身体能力に拠るところが大きかったが、今となっては彼の特殊能力に拠るところのほうが大きくなっている。


 自らの周りに集めた空気で、先ほどナナ姫の攻撃を防いだ時と同じように層を作り、槍が当たり空気が霧散する感覚を頼りに避けるようになっていた。


 つまり途中から、トモキはアキラの攻撃を先読みしていたのだ。


「必然、あなたの周りの空気が少なくなる。そうなれば息苦しくなって立っていられなくなるでしょう? それが今の状態です」


 立てなくなったアキラから距離を取りながら、トモキは続ける。


「ボクの能力は空気を掌握する。その副産物が風の操作です。昔、教えたことですよ。……まぁ、あなたのその槍のせいで、あなたの周りの周りの空気を完全に掌握できないのですけれど。そのせいで酸欠で倒せないのはまぁ、仕方の無いことです。苦しめてしまっていることは謝罪しますよ。ですがまぁ、それももう終わりです」


 十分な距離をとった後、足を止め、再び彼へと振り返る。


「風の流れがない以上、風の刃で攻撃したところで、あなたに酸素を返すだけ。故に、風の通り道を作り、あなたに酸素を与えてでも、一撃で倒させてもらいます」


 宣告の後、両手を広げる。


 全身で空気を感じ取り、風へと変化させるための行為。


 そして、片手を後ろに、土の壁へと触れさせて。


「ようやく……あなたを殺せます。……アキラ」


 その言葉を口から滑らせる時……初めてトモキから、憎しみ以外の感情が見えた。


 昔を思い出したかのような……感慨深そうな、慈悲深い表情。


 けれども、殺す決意を秘めた、力強い表情。


 悲しさも、悔しさも、憎しみも……その己の中の全てを受け入れた、表情。


「……さようなら……」


 別れと決意の言葉を吐いて……地面と壁が、チリチリと変化していくような感覚が空間を支配し始めた。


 土から風への変化……密閉空間であるが故に感じ取れるそれは……確実に、アキラの死が近付いてくる足音でもあった。


「……結局、一度しか勝てなかった、か……」

「っ……!」


 小さなボヤきに、一瞬だけトモキの表情が歪む。


 悲しいような、辛いような……決意が、鈍るような……。


 ……けれども、本当に鈍るはずもなく……。


 全てを風へと変えていく速度は変わらず、このまま空気の通り道がどこかに出来たその瞬間……その流れに乗せた最大威力の風の刃をその身に受け、アキラの全身はバラバラとなるだろう。

 コガの背中を斬ったあの程度の風の比ではない。

 最悪肉片一つ残らない威力を誇る攻撃。

 血飛沫舞い、ソレを含んだ風を外へと送り出す、手向けの風。



 ――これだけで対策だと言い張られても、負ける気なんてサラサラ無かった――



 それはコガとナナ姫を守り、戦ったとき、相手がこちらの対策をしてきたのを見て抱いたアキラの心情。


 それは、対策の対策を取っているものなら、当たり前に抱く感情だ。






 だからこそアキラも、第二の手を準備していた。






 集団戦を得意とするには、相手の手の内を正確に理解・または予測しておく必要がある。

 攻撃の癖・得意な戦術・能力……その様々な情報を、時にはその場で・時には事前に得て、武器として戦う必要がある。

 まさにそれら情報こそ、アキラにとっての『最低基準値』のようなものなのだ。




 そんな彼が、トモキの能力の把握ミスをしている訳が無い。




 昔教わったことを忘れていたようなふりをして、この密室空間作成が小細工と称された作戦だと思わせた。


 これこそがアキラの狙いだった。

 ああして、風を生み出すのに隙があることも知っていた、彼の作戦……。




 その第二手目の始まりの合図を、今送る。




「っ!」


 手に持っていた槍を、壁に向けて全力で投げた。


 キィィィ……ン、と音が響く。


 しかしそれは同時に、壁となっていた土と岩のソレが、ただの土のかまくらと化した合図でもあった。


 何を……とトモキが問いかける前に、その変化は起きた。











 地面と、覆っていた全ての土が、炎へと変わった。

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