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出会い(3)

前話あらすじっぽいもの:逃げ切り隠れ遂せ安堵したその肩に刺さる、金色のナイフ

「なっ……!」


 飛んできた。投擲された。

 方向は。力は。隠れている数の気配は。


「ぐぅ……!」


 すぐさまお得意の気配察知でそれの情報を理解したコガは、刺さったナイフを左手で握りしめ、しゃがんだままでいてとナナ姫に目で合図を送り、一歩踏み出し右手で茂みに触れながら、“例の力”で守るべき姫の頭上を茂みで多い隠しつつ、その草を鋼のように固くするよう状態を変化させながら――




 ――左手に、力を込めた。




「ああぁぁっ!!」


 痛みに震える声。苦悶の声。

 だが気合と共に漏れたそれらの声と共に力を込め、刺さったナイフを抜いた。


 ズリュリ、と不快な感覚が右肩に訪れる。


 それに顔をしかめながらも、痛みのせいで倒れそうになる身体を足に力を込めて支え、苦悶と共に下がりそうになる頭を上げ――視界に映った第二投のナイフを、その抜き放ち左手で握るナイフで弾き飛ばす。


「……く、っそぉ……!」


 安堵する暇は無い。次の相手の行動はと予測を立てるなんて以ての外。

 こんなもの、自分が教わった常套戦術と全く同じ。

 弾いた二投目は目くらましと、体勢を崩すための牽制。当たればラッキー程度の認識でしかない攻撃。


 だから安堵は許されない。


 次はこちらが避けられないよう、無数の何かが飛んでくる。

 その群れの攻撃を少しでも多く当てるための、腕を開かせるための牽制。

 それも理解していた。だから予測を立てることなんて何も無い。

 攻撃が飛んできた方向とは別の方向にある全ての茂みを高く伸ばし、硬くする。


 もうゆっくりと伸ばす必要も無い。かなりの速さで天へと伸ばしながら硬くし、壁を作る。


 ……腕を開かせるための牽制。

 同時に、自らの位置を“あえて”教えることで、本命の別方向から放つ群れの攻撃を、防ぐことが出来ないようにさせる。

 故の目くらまし。

 それら全てを理解している。教わった常套戦術だから。

 だから、急いで防御のための草の鋼壁を作り始めたのだ。


 そして草の高さが、ちょうどコガを追い越した辺りで……何かを弾き飛ばすような無数の音が、その草壁の向こうで鳴り響いた。

 方向は一投目と二投目のナイフが飛んできたのとは真反対。まさにギリギリ。間一髪だった。


 相手が誰か……自分とナナ姫の身を守るのに必死で見えなかったけれど、それでも分かる。


 先程まで追いかけてきていた二人ではない。あの二人がいる一派は、こんな不意を衝く戦い方はしない。

 何故ならあの一派は「ナナ姫を連れ戻すための集団」だったから。

 だが今攻撃してきた相手は違う。コレは「ナナ姫を殺そうとする集団」だ。


 隠れているのを炙り出さず、油断しているタイミングを狙ってくる、そんなやつ等。


 きっと用意も周到に終えたのだろう。あの二人が会話していた三分――いや、こちらが隠れ続ける時間も、コガが気配察知にかかった時間も合わさればもっとあった。


 十分どころじゃない。

 万全だ。


 となれば、ここで逃げ出そうとしても無駄。張り巡らされた罠へと飛び込むことになるだけ。さらに危険な状況で追い詰められてしまうに違いない。そうなってはナナ姫を危険を晒してしまう。


 今まで、ずっとそうならないよう、警戒して逃げてきた。

 完全に向こうの型にハマってしまえば逃れられないと、コガ自身が学び、知っていた。

 だから出会わぬよう、型を作られぬよう罠を張られぬよう、逃げ続けてきた。


 そのせいで、「ナナ姫を連れ戻す集団」の警戒を怠ってしまって見つかったのは誤算だった。


 その誤算のせいで、こうなってしまった。


 こんな、逃げられないほどの罠を張り巡らされたであろう状況に、追い込まれてしまった。


「……っ」


 しかしそれでも、諦めない。

 今にして思えば、先程の男女二人に見つかっていた方が穏便に済んだだろう。しかしそれを今言っても仕方が無い。


 こんな状況になるだなんて分かるはずもなく、自分で追い込まれてしまっていただなんて思いもしなかった。

 ナナ姫を危険に晒してしまう道を、いつの間にか選んでしまっていたことなんて。

 だから最悪、自分が死んででも、ナナ姫だけでも逃がす術を見つけ出し……彼女の生だけでも手繰り寄せる。

 それが責任と言うものだろう。


「……よしっ」


 小さく、決死のための覚悟を終えた言葉を口にして、己を鼓舞し、無駄だろうと悟りながらもその場から二人で逃げるために、せめてこの子一人だけでも逃がしてやろうと、しゃがませたままのナナ姫へと手を伸ばして――




「っ!」




 ――その子の顔が、殺されてしまうかもしれないという恐怖よりも、疲労によって酷く歪んでいるのを見て、本当に動けないほどの限界なのだということを、コガはようやく悟った。


(これじゃあ走り出そうとした瞬間ふらついて、後ろから刺されるかもしれない……! でも逃げない訳には……このままここに留まったって……このままじゃどちらにせよ……!)


 他に手段は無いか。戦いに不向きな自分でもやり切れるか。

 相手を準備万端にさせてしまい、無理だと何度も考え付き、すでにコガ自身も「夢物語」だと理解してしまっていることを、一瞬でも思考してしまったせいで……判断と反応が、遅れてしまった。




 上から、金で出来た槍を両手に握る、目元以外を黒いローブで覆った敵が、ナナ姫目掛けて落ちてきていた。




 その勢いは、鋼のように硬くした草程度なぞあっさりと貫通してしまうのは明白。

 万人の死角である頭上からの攻撃。


 判断が遅れず姫の手を取れていれば、間一髪で避けさせることが出来ただろう。

 反応が遅れていなければ、相手の落下時点をズラすことが出来ただろう。


 だがどちらも出来ず、コガもナナ姫も、その上から迫る黒の影に気付いていない。




 こうしてナナ姫は理解できず、その命を落として……。




 コガもまた、自らのミスを、取り返しがつかなくなってから、気付いてしまうことになって――




「どけええええーーーーーーーーーーー!!」




 ――しまうことになる要因は、突如現れた男の登場によって回避された。


「「っ!」」


 コガとナナ姫が声のした方向――先程ナイフが飛んできたのと同じ方向へと顔を向けるのとほぼ同時、ちょうど槍を持ち降ってきていた黒影の顔面を

、横から飛び出したその男が、靴底をぶつけ吹き飛ばした。


「ぎゃっ!」


 奇妙な声と共に吹き飛ぶ敵。

 二人はそれらの光景を、視界の端に映すことしか出来なかった。

 顔を向けるよりも、男が飛び出してきた方が早かったせいだろう。

 いや、考え事が深過ぎて、彼が走ってきていることすら気付けなかった、の方が正しいか。

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