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三度目の再会(1)

前回のあらすじっぽいもの:一人深く考えるコガの元へとやってきた、アキラの幼馴染。彼は提案する。自分に協力してくれないか、と。

「昨日、あなたを狙っているあの男が部屋に来た」


 宿を出て、先陣をナナ姫と一緒に歩きながら、一歩後ろを歩くアキラにコガは振り向くことなく告げた。


「私を、仲間に誘ってきた」

「えっ!?」

「なるほど……殺せない二人をオレから遠ざけることで、戦いを挑みやすくしようってことか……」


 驚くナナ姫とは対称的に、アキラの声は落ち着いていた。


 今三人は、コガの案内の元、道を進んでいる。

 二人が修行中に仕入れた情報の元、ある危険を遠ざけられるルートを通っているのだとか。


 そして、その危険というのが……昨日コガの元を訪れたトモキのことで、道中説明すると言ったので、その話を今しているところだった。


「引き受けなかったんだ。ありがとう」

「……お礼を言われる筋合いは、無い」


 それよりも、とアキラのお礼を流すようにコガは続ける。


「どうしてあなたが彼に狙われているのかという話をされた」

「……………………」


 言葉を失うように、受け入れるような無言の後……小さく、「そっか」と、アキラは呟いた。


「もしかして、聞かれたくなかったことなのですか?」


 その様子をそっと尻目に見ていたナナ姫が気を遣ってくれる。


「いや……ま、聞かれたんなら、仕方ないかな」


 元気の無いその返事を聞いただけで、聞かれたくなかったことだったのだとナナ姫でも分かる。

 そして、彼が無理をしていることも、コガには分かった。



「……あなたは幼馴染を、自分の手で殺した」



 けれども彼女は、そう言葉を続けた。

 彼の動揺に気付きながらも。



「えっ……?」



 ナナ姫は、驚きながら真横を歩くコガの表情を見る。


 だってコガという女性は、相手の気持ちに機敏に反応し、嫌がっていることはしない性格をしている。

 それはずっと――それこそ鳥篭の中にいた頃から過ごしてきた中で、ナナ姫は分かっていた。


 ただソレをしない唯一の例外は、彼女が敵とみなしている相手と話している時だけで……。

 だから、そうして相手の嫌がることをするということは……。


 ……だが、それよりも――いや、それもだけれど、それ以上に、幼馴染をアキラが殺したの言葉もまた、驚きだった。



 今のナナ姫には、二つの驚きが同時にやってきていた。

 だからどんな言葉を喋ればいいのか分からなくて、何も口から出てこなかった。

 驚きの声を、音に反応するおもちゃのように出すのが、精一杯だった。



 その間にも、コガの言葉は続く。

 詰問のような雰囲気を帯びた、事実確認が。


「『神の遣いの槍』に所属していた、あの男との共通の、女性の幼馴染を、あなたが殺した」

「…………」

「それから、『神の遣いの槍』を壊滅状態にして、逃げ出した」

「……………………」

「逃げ出して、幼馴染を殺した世界への復讐のために旅に出て、そこで『最低基準値』のナナちゃんに出会って……今、殺す機会を窺っている」

「………………………………」


「『最低基準値』はその特性上、死ねば民衆全ても死ぬことになる。その人が死んだ年齢に達すると同時、死が最低基準だと認識されてしまうから。あなたはそれを利用して、『県』全ての『最低基準値』を殺すつもりでいる。修行をつけているのは、油断させるため。それと、もし殺すのが失敗しても、民衆が強くなっていれば、国が瓦解するかもしれないから。……それが、私が聞いた、あなたの話」


「…………………………………………」

「…………何も言い返さないのは、同意ととっていいの?」

「まさか」


 ずっと耳を傾けていただけのアキラが、ようやく口を開いた。

 静かに、変わりなく、少しおかしそうに、謂れの無いことだとばかりに。


「ただ、細々としたところは合ってるからね~……いくら訂正してもコガさんには信じてもらえないかもなぁ、っと思って。どうしたものかと」

「……どうして、信じてもらえないと思うの?」

「その話をしたのは、都市トウキョウが抱える『神の遣いの槍』の一員。対してオレは、三日も旅して信じてもらえてないただの旅人。立場的にもほらね、って感じがして。ただの言い訳にもならない言い訳になりそうでさ」

「そんなことありません!」


 荒げた否定はコガではなく、ナナ姫から。


 驚愕の連続が襲う中でも、これだけは譲れないとばかりに。


 振り返り、足を止め、彼を見上げ、心に言い聞かせるように、強く。


「少なくともあたしは、あなたの言葉の方を信じますっ!」


 真っ直ぐに……彼を、見つめて。


「……ありがとう」


 その、瞳を見つめ返して……安堵したようなお礼を、ポロリと一つ漏らして、続ける。


「……本当、ありがたい申し出だ……。……でも、コガさんの言ってることも正しい。結局、オレはキミを騙そうとしている可能性のほうが大きいからね」

「でも! 助けてくれましたし……それに、今も守ってくれてますっ!」

「それすらも、騙そうとしている過程の上での結果なのかもしれないってこと」

「そんなこと言い出したら、何も信じられなくなります! そんなのは……悲しいです……!」

「でも一度助けられたぐらいじゃ――」


「それに! 今はあの男の人かアキラさんのどちらを信用するかという話のはずです! それならあたしはあなたを信じるだけで……! でも、あなたとコガちゃんなら、あたしはコガちゃんに味方するってだけでっ……! だから……っ!」


「――それもそっか。確かに勝手に勘違いしてたな、うん」


 必死に言葉を紡ごうとして、けれども涙で詰まって、言いたいことが言えていないのが分かるナナ姫の言葉に……腕を組んで何度も頷き、納得を露にするアキラ。


「つまりキミは、俺の話も聞いた上で、コガさんと二人で考えたいと、そういうことを言いたいんだね。話す前から信じてもらえないと決め付けないで欲しいって、そう……」

「……まあ、そんなところです」

「そっか……うん。……そうだね。少なくともナナ姫は、トモキよりはオレの言葉を信じてくれるそうだし。何より言い分にも一理あるし……うん。……それじゃあ、話しておきたいと思う」


 初めて名前で呼ばれ少しだけ嬉しそうにしたナナ姫から視線を下げ、アキラは誰に向けるでもない風に地面を眺めつつ、少し険しくなってきた道を再び三人共で歩みだしながら、初めて自分のことを話していく。

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