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二度目の修行と、その間の取り引きと(1)

前回のあらすじっぽいもの:『変化術』の基礎を教えてもらったナナ姫。

 ナナ姫達を狙う敵は、アキラの手によって一時的撤退を余儀なくされるほど壊滅させられたので、しばらくは安心して旅をしていくことが出来る。


 だがそうなると、今度はアキラを狙う敵が心配になってくる。

 例の『神の遣の槍』所属の幼馴染、トモキ。

 ソレがいつ襲ってくるか分からないからだ。


 しかしそれはあくまで、アキラの問題。

 コガとナナ姫にしてみれば、全く関係のない敵だ。

 だからもう、一緒に旅をしない方が良いとアキラは提案したのだが――


「敵はあたし達を狙うことも好んでいませんでした。つまり一緒にいれば、少なくとも不意打ちは防ぐことができるということです。ならばまだ、共にいるべきではないですか? 少なくとも安心して旅が出来るようになったお礼にはなりますし、そもそもそれぐらいしか返せれるものがありませんので。よろしければ」


 ――と、ナナ姫が言ってくれたので……夜が明けた今も、三人は東に向かって共に歩いている。一時的な同行ではなく、だ。


 安心をくれたので安心で返す。

 なるほど道理に適ってる、とコガも納得はした。

 確かに敵はこちらを狙い辛い。トウキョウという立場上、ナナ姫を殺しても力で捩じ伏せることが出来るほどの力はあるだろう。

 しかし、ソレを行使して面倒なことにならない訳ではない。

 まして私怨でとなれば尚更だ。

 確かにイザとなれば殺してくるだろう。しかしそれでも、ギリギリまでは殺したくないと相手も考えるはず。


 だから、一緒にいるだけでも、十分に効果的だ。


 何よりコガが、相手のあの気配を覚えた。

 これなら相手が接近してこれば、察知してあげられる。

 それだけで十分、安全な旅を作ってくれたアキラへの恩を、返すことが出来るだろう。


 ……が――


「アキラさんって、サバイバル能力高いですね」

「『形態変化』さえ出来るようになったら誰でもできることだけどね」


 ――こうも二人仲良く兄妹か恋人のように隣り合って話をしながら歩いているという状況を一歩下がった場所から見ていると、一緒にいたいナナ姫がなんとか見つけ出した詭弁を述べたのでは、と勘繰ってしまうのも無理はなかった。


「そうなのでしょうけれど、今のあたしには出来ないことですから。やっぱりスゴいです」

「いや~……そう手放しで褒められることでもないしなぁ……本当、キミだって『形態変化』を扱えるようになったら出来るからさ」

「なら、教えてくださいます?」

「教えるもなにも……得意な属性を使って、こう変わって欲しい、ってイメージをしてればゆっくりと変化していくから、それを繰り返し繰り返し行って、短時間で出来るようになったら他の属性も練習していく、ってしていくしかないし。ぶっちゃけ特別教えることってのはないんだって」


 ……やはり命を助けてもらい、また逆に命を助けたのがそのまま信頼関係となってしまったのか……とコガは思うが、同時に、アレが作戦の一環で信頼させるための手段だったかもしれないから警戒を続けていないと……とも思う。


(昨日の夜、彼を呼び出し長い時間ずっと話をすることで、ナナちゃんは何か――彼を信頼できる何かを見つけることが出来たのかもしれない。でも、それでもナナちゃんが自分にその話をしてこない以上、もしかしたらナナちゃんに、昨日の話しを私にしないよう口止めしているんじゃ……)


 なんて、お得意の被害妄想に近いマイナス思考をコガがしてしまうのは仕方が無い。そういう性格なのだから。


 しかしだからと、ナナ姫が素直に「『変化術』を教えてもらっていた」と言った場合、それもそれで「自分を置いていっても大丈夫なように一人で戦える力を身に付けようとしている」とかそんなややこしいことを考える可能性が大いにあるわけで……。

 昨日の夜、何があったのかをナナ姫が話していないのは、彼女自身が気を遣っているからでもあった。そういう性格を考慮して。


 ……まぁ実際は教えなくてもこうして色々と考えてしまっているのだが。

 言わない方が良いだろう、とは考えても、言わなければ何を考えるのか、までは考えられなかったせいで、こんなことになってしまっている。


「ま、キミが努力家ならすぐに出来るさ」

「……昨晩からずっと気になっていたのですが、どうしてあたしのことを名前で呼んでくださらないのですか?」

「…………」

「いえそんな「あっ、気付かれた」みたいな表情を浮かべられましても……普通に気付きますからね?」

「……いや~……」

「誤魔化さないで下さいっ」

「ん~……いやだって、なんて呼んだらいいものか分からんくてさ……」

「普通にアキラさんの方が年上ですし、呼び捨てで構いませんよ」

「いやいや、さすがに『一県』の姫を呼び捨ては……」

「コガちゃんなんて、あたしのことをちゃん付けで呼んでますよ?」

「いや二人とも姉妹みたいなもんだし……」

「ならあたし達は兄妹に見えますよ。ねえ?」

「えっ、あ、うん。もちろん」


 いきなり話を振られてコガは驚いたが、否定するのもおかしいと思って同意を返す。というか、事実そう思ったし。


「こう、後ろから見てると、本当の兄妹みたいに見えるよ」

「ほら、コガちゃんもああ言っています。ですので遠慮なさらないで」

「あ~……うん、まぁ、ジワリジワリと呼んでいくよ」

「……なんですか、それ?」

「いきなり女の子の名前を呼ぶのは慣れてないの。っていうか、こんな改まってな状況作られて言えるほどオレの神経は図太くないの。だからゆっくりと。気がついたら呼ばれてた、的な状況になるように呼んでいくって」


 それよりも、とコレでこの話しはおしまい、とばかりに露骨に話題を変えるアキラ。


 それにナナ姫も気付いてはいたが、まあ仕方ないか、とちょっとしたため息を吐きながら、『形態変化』の話をし始めた彼の声に耳を傾ける。


 ……なんだこの甘々な空間は……とコガはゲンナリしながらも……楽しそうに話しているナナ姫を見て、ちょっと嬉しい気持ちも沸いてきて……なんだか複雑な気持ちになった。


(……本当、彼が清廉潔白だって分かれば素直に喜べたのに……もしくは私自身が自分の勘を信じない人間だったら、警戒することなく手放しで応援できたのにな……)


 ……まぁ、彼女程マイナス思考的に警戒心が強い人間を信頼させるほどの人物なんて中々いないだろうし、彼女が自分の勘を信じない人間ならとっくにどこかで死んでいたであろうことは間違いなく……結局、その仮定は全く成り立たないのだが。


 そして、そのことをコガ自身も理解しているのか……もう、なんていうか色々な――説明し辛い色々な感情を抱く自分に呆れてか、コガは一人、誰にも聞かれることなく、大きなため息を一つ吐いた。

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