戦いは終わり、再会を果たす(2)
前回のあらすじっぽいもの:逃げて、避けてきた幼馴染と…ついに再会を果たす
「っ!」
思ってもいなかった人の登場に、アキラは息を呑む。
ある程度の気配察知は出来るのに、引っ掛かりもしなかったから。……確かに、それもある。
いきなり現れたから驚いた……というのも間違いではない。
だがそれ以上に、出会いたくないがために逃げてきた人と出会ってしまったが故に、というのが一番大きかった。
コガとナナ姫に出会うまで、自分を追いかけてきていた、その男……。
もう一人の幼馴染にして、自分を殺そうとしてくる、復讐鬼……。
会わないようにするためにナナ姫達と行動を共にしてきたというのに……ついに、出会ってしまった。
……思えば、当然の帰結だった。
ナナ姫達を追ってきている人たちと出会いたくないから、その追ってきている人たちと接触の可能性があるナナ姫達と行動を共にしていた訳で……。
その、出会いたくない人たちを、自らの手で撃退してしまった、今となっては……。
「人殺しが殺した相手を弔ったところで、嫌味でしかないように思いますが……それでも、弔ってあげるのは大切ですからね」
ソイツは、人当たりのいい微笑を携えながら、嫌味なぐらい丁寧な口調で、のたまってくる。
「もっとも、それでその方達が成仏できるとは思えませんがね。まして、あなたのような――」
「相変わらず前置きが長いな、トモキ」
相手の言葉を止め、前を歩いていた二人を庇うようにアキラが先頭に立って、坂の上の男――トモキと呼んだ彼と、見上げるように対峙する。
「そんな嫌味を言うために、オレの前に姿を現したわけじゃないだろ?」
「もちろんです」
言葉を止められたのに不快感を示すことなく、一度目を閉じるような長い瞬きをしてから、彼は優しさを感じさせる口調で、言った。
「ボクはね、アキラ。あなたを殺すために、ここにいます」
そんな、包んでいる感情とは別の、殺意だけで構成された言葉を。
剥き出しの殺意を、口調と表情という優しさで包み隠している。
それが返って怖い。
オブラートの役割をしているソレがなまじ人当たり抜群で完璧な代物なだけに、違和感とそれ以上の恐怖心を煽ってくる。
アキラにしてみれば、あの態度と対峙するだけで真っ向から戦いたくないと思ってしまう。
負ける気しか、しなくて。
……勝てたのは、昔の一度だけ。
それも、小さな小さな、『変化術』を覚えたての、五歳ぐらいの頃の話。
それ以降アキラは、彼に一度も勝てたことが無い。
嫌味なぐらい丁寧な口調で、戦い方で、戦略で、戦術で、『変化術』で、『形態変化』で……あらゆる全てにおいて、精到に鍛え上げられたそれらの力を相手に、勝てたという事実が、爪の先程の小さなものですら、功績として残っていなかった。
逃げ出したい。
しかしいくら思考を張り巡らせても、こうして対峙してしまった状況で、三人共々逃げるための手段なんて思いつかない。
……いや、例え自分一人だけ逃げれば良い状況だったとしても――この二人を見捨てられる状況だったとしても、逃げる手段なんてあるように思えない。
それでも逃げ出して、追いつかれて殺されても仕方が無いと半ば諦めながらも諦め悪く走り出したことで、運よくナナ姫達と(正確にはその敵と)出会った事で、一度だけ逃げ遂せたことはあるけれど……そんなものは、本当に運が良かっただけの話しに過ぎない。
……そもそも、例え戦い勝てるとしても……アキラ自身は彼と、戦いたくはないのだけれど。
「昨日はアキラにしてやられましたからね。今日はそう簡単には逃がしませんよ」
「五年ぶりの再会なんだし、今日は話だけってことにしない?」
「しませんね」
「そこをなんとか」
「なりませんね」
「幼馴染のよしみでさ。頼むよ」
「その“幼馴染”としての関係を壊したのは、あなた自身でしょう?」
「オレからしてみたら、間違いなくお前からだと思うけど?」
「……なるほど……そうして怒らせて、冷静さを欠かせようということですか」
「まさか。ただでさえ負けるのが確定してるのに、そんなさらに負ける確率を上げるような真似なんてしないって」
「確定しているからこそ、少しでも生き残る可能性が広がる確率に懸けたのでしょう? あなたの戦い方からして、そういう手段を取ってもおかしくはない。いえ、取らないとおかしい」
「……ま、さすがにそう考えるか。さっき大勢に囲まれてた時に攻撃を仕掛けてこなかった時点で、そう思われるだろうなとは思ったケド」
「前回、我々が敗北したのは、あなたの得意な環境で戦ってしまったが故です。それを解消している今、ボクが負ける理由は何一つありません」
一つため息を吐くアキラを見ても、トモキは眉一つ動かすことなく、微笑を携えたまま言葉を滑らせてくる。
そうして、二人が自然に会話をしているせいか……コガもナナ姫も、最初の「殺すために」と言った相手の言葉が、もしかしてただの冗談だったのではと思えてきた。
親しいもの同士だからこそのふざけあい。
ちょっとした過激な冗談。
二人の、二人にしか分からないやり取りを聞いていると、そんな気がしてしまう。
相手は常に微笑を浮かべているし、アキラも特別焦っているようにも見えない。
幼馴染という話もしていたし、会話の内容を考慮しなければ、本当にただの旧友との再会現場に見えても仕方が無い。
ただそれをナナ姫達が指摘しないのは、いまだアキラが会話中も、必死に逃げる手段を講じているのが分かってしまっているからだ。
この場から早く立ち去りたい。
その固い意志が、見える背中から伝わってくる。
もし本当に、アキラと相手の二人が仲良しこよしに見えていたのなら、とっくに会話に割り込んで、移動しながら積もる話をして欲しいとか、先に行っているからここを合流場所にしようとか、そんなことを言って二人は移動を開始していたに違いない。
なんせ二人はもう、とりあえずしばらくは、命を狙われる心配は無いのだから。
アキラ自身は、焦ってはいない。冷静でもある。
けれども、ただ事ではないことが分かるぐらい、この場を立ち去りたがっている。
そしてそれは、彼の背中を見ているコガとナナ姫が分かっているのなら……彼と対峙している幼馴染も、とっくに気付いている。
気付いていながら無視をして、会話を続けている。
微笑みを浮かべて、なんともないように装って、言葉を出して……まるで、挑発するかのように。
だからこそアキラも挑発をした。
相手を怒らせることで、突破口を開こうとして。
尤もソレは失敗に終わってしまっていたが……。




