見つかり、戦って(4)
前回までのあらすじっぽいもの:アキラが三人殺したことで、敵の警戒心が高まり……不意打ちで一度に殺せなかったことで、アキラの警戒心が高まった。
「…………」
距離を置かれたその隙に、アキラは『形態変化』で乗ってきた、宙に浮く土の道に飛び乗る。
そして追いかけられないよう、今度こそ水の鞭剣を相手に向けて波状に放ち、その宙に浮く土の道に手を触れて、コガとナナ姫の下へと戻っていく。
二人の下には、既に反対側の敵がアキラと同じ方法――土ではなく金色の道を伸ばし、向かってきている。
わざわざ土を金へと変化させてから、『形態変化』を用いている。敵の属性が金属性の可能性が高い。
そう察知しながら、アキラは二人の下へと戻り、敵よりも先にたどり着いた。
その時点での敵との距離、すでに五十メートルもない。
急ぎ地面に突き刺したままの中剣二本を抜き拾い、金色の伸びる道に乗って来ている六人と対峙する。
「ん……?」
が、アキラが構えると同時、相手はその場で飛び降りる。
そして着地と共に両手を地面に付け、金属性の槍を・矢を・錐を、土を掬い上げるような形で、一人当たり数十単位で、無数という言葉では足らないほど大量に、飛ばしてきた。
あらゆる形をした金色の武器が、乱雑に、けれども隙間無く襲いかかかってくる。
それを見ながらアキラは、なるほど、と思った。
鉄や鋼など人工金属武器による『形態変化』の拒絶は、間接的にせよ術者と接触していなければならない。
だからああして投げるよう『形態変化』を行えば、金属武器を持っていようといまいと関係がなくなる。
あの迫る金色の武器類は、術者とすでに接触していないのだから。
一度――ほんの数分にも満たない接触でよく対策を練ってきたものだ、とアキラは感心する。
けれども……そういった手段を取ってくる相手との戦いなんて、何度もしてきている。
これだけで対策だと言い張られても、負ける気なんてサラサラ無かった。
両手で拾った中剣をすぐさまポイッと前方に投げ捨てて、自然落下で地面へと突き刺す――
――その、突き刺さるまでの僅かな時間に、アキラもまた地面に膝をつき、両手で斜め前の地面を叩く。
そして剣が突き刺さると同時、建物の壁を思わせるほどの高さを誇る、扇形に広がる土の壁が二枚、地につけた手の前に現れた。
アキラを守りながらも前方を確認でき、尚且つ流れ弾がコガとナナ姫へと飛んでいくとのない、広い防御範囲を誇る『形態変化』。
確かに一瞬でそれだけの『形態変化』を行えるのはスゴイの一言に尽きる。
だが所詮は土の壁。
黄金の攻撃には敵わない。
それを証明するかのように、敵は第一波がその壁に被弾する前に、再び地面に手をついて、第二波を放った。
土の壁を破壊すると同時、再び同じ攻撃で畳み掛けようという算段だろう。
しかし結論から言えば、この攻撃は失敗だった。
その場凌ぎにしかならないただの土の壁を、アキラが展開するはずが無い。
人工金属武器の対策を練られた事が今まで何度もあるだろう。
なら、その対策を怠っていないはずがない。
そう想定していなかった、敵の落ち度。
第一波の攻撃の群れが、土の壁に接触する。
何発も。何十発も。無数の群れの、金色の、刃の群れの、一撃死を与える攻撃が。何度も何度も。
攻撃を受けたその土の壁はヒビが入り、次第に亀裂が大きくなり、ボロボロと崩れ……防御の体裁を保てなくなる……。
……そう考え、第三波の狙いを定めつつ、成り行きを見守っていた。
しかしその金色の群れは全て、土の壁に吸収されていった。
まるで底なしの沼に嵌ってしまったかのように、衝突寸前まであった勢い全てを殺されながら、ズブズブと。
「なに……っ!?」
既に放たれた第二波の攻撃までも吸い込まれようやく、敵はこの段階で、違和感と自分達の間違いに気がついた。
あの土の壁は強度を上げたただの土じゃない。
何かしらの効果が現在進行形で及んでいる土の壁だ……と。
その証拠にアキラは、いまだ地面に両手をつけたまま。
その姿を見止められなかった失態。
何故ならその姿は、扇状に展開した土の壁に、まだ『形態変化』を与えているというなによりの証だから。
では、その変化とは何なのか……?
それはすぐさま、彼等自身の身を以って知ることとなる。
土の壁を貫通したのだ。
黄金色の攻撃、その全てが。
もちろん、ただ貫通したわけではない。
それではナナ姫とコガに当たってしまう可能性がある。
だから、それら金属性の武器全てが……方向を捻じ曲げられ、吸収の際に消失した勢いを再び宿され……アキラの後を追うように金属性の道を伸ばし、迫っていた、先程対峙していた四人の下へと対象を変更させられた。
「っ! 散っ!!」
アキラの後ろで命令が飛ぶ。
遅れて、黄金の攻撃が遠くに着弾する音が鳴り響く。
後ろ目で相手を見ながら、着地点を操作し、相手の攻撃をそのまま利用する。
反射ではなく転化。
それこそがこの土扇の壁の正体だった。




