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見つかり、戦って(2)

前回までのあらすじっぽいもの:敵に囲まれ、気付き……アキラは倒すことを宣言する。

 とはいえ、さすがにコガ自身、十三人を相手に一人が戦いきれるだなんて思っていない。

 本人が自信満々で言っていたのでノるだけノったけれど、必ず勝つだろうとは思えない。


 彼の強さは分かる。

 自分達を助けたときの『形態変化』の速度と、昨日人工物に囲まれた室内という環境で『変化術』を行った高い能力。

 その二点だけでもかなりのものだとは分かる。


 だが、数が違う。

 三・四人なら余裕だろうとは思えるが、相手の数は二桁なのだ。


 数は純粋な戦力。

 一対十三というのは最早一方的な暴力と称してもなんら遜色ない。


 まして相手の連携はかなりのもの。人気の無い場所へと移動している今も、包囲の中心点に彼らを据えたまま、全員が移動を続けている。

 寸分の狂いも無いその動きだけで、相手の実力も相当なことが窺い知れる。


「…………」


 そのことを、前を歩くアキラに気付かれぬよう、ナナ姫に視線だけで告げる。


 そして同時に、イザとなれば逃げることも視野に入れておくべきだとも、視線の中に織り交ぜる。


「…………」


 信じてあげるべきでは、と悲しそうな目を向けてきたけれど、首を振って否定。

 信じていないのではなく、信じていても負けるときは負けるのだから、最悪を想定しておかないと……という意味を含めて。


「…………」


 その含みを悟り、申し訳なさそうな表情を浮かべながら、コクリとナナ姫は頷いた。

 納得は出来ない、けれどイザとなれば逃げることには同意する。そういうことだろう。


「さて、この辺でいいかな」


 二人がそうしてアイコンタクトを取っている間に、戦いとなる場所が決まったようだった。


 当然のように人気はない。

 喧騒はなく、あるのは風で揺れる葉の音色だけ。


 人工物も全く無い、開けた土地。

 足元の土は妙な湿り気があり、『変化術』を使って手入れが成された様子が無い。膝下あたりまで雑草が伸びているのが何よりの証拠。


 そしてその遠くには急な坂道。

 三人がここまで来るのに、一度上り、下ったものだ。

 それと同じものが反対側にもある。


 おそらくここは、昔川があった場所だ。

 アキラ達が立つ場所はちょうど川が流れていた道なのか。そこを中心に見れば、左右を遠くから挟むようにある坂は正に堤防。土の妙な湿気は川底だった名残。雨に一度でも濡れると乾き辛い、癖付いた土。

 今となっては枯れ果ててしまったその場所は、戦うのに打ってつけなほど開けた場所だった。


 敵も完全な包囲のままだと姿を晒してしまうことを知ったのだろう。

 川が流れていたであろう場所に気配は無い。

 この場所を選ぶことによって、包囲から挟撃へと状況を変えてみせた。


「というわけで、これを預かっといて」


 そうさせた当の本人であるアキラは、そういってコガに、宿泊場で返してもらったナップザックを投げ渡す。

 コガは思っていた以上に重いソレを受け取った衝撃で、少しだけたたらを踏む。


 その間にもアキラは、ナップザックとは別に持っていた、二本の鞘から剣を抜きにかかる。

 同時に抜こうとしなければ抜けないその武器を、腰に差してから、ゆっくりと。


「ふむ……んじゃまぁ、こっちから仕掛けようかな」


 人気の無い場所に誘導して、中剣二本を抜いて両手にそれぞれ握ってもまだ、相手から襲ってくる気配が無い。

 警戒色は強まったけれど、それだけだった。


 ならばと、彼は自分から打って出ることにした。


 しゃがみ、中剣を地面へ突き刺す。

 そして両手を地に付け、目を閉じる。


 ……一秒、二秒、三秒……………………十秒。


「っ!」


 目を開ける。

 同時、アキラを中心とした半径五メートルに生えている草。

 それら全てが、宙に浮く。


 その穂先を、切っ先に変えて。


 敵が隠れている気配目掛け、方向を変え……そして、鋭く飛んで行った。

 それはさながら、数百人の大群が一斉に矢を放った時のよう。

 彼らを観察していた敵は、正面から壁のように迫るその光景に驚きを隠せなかった。


 ……何も、彼らとて意味もなく、包囲をしたまま手を出さなかった訳ではない。


 自分達が後をつけているのがバレていることぐらい、最初から分かっていた。

 人気のないところに向かっているのも誘いだと、分からないはずがなかった。

 だからと、追うのを止めることも、誘いに乗らないでおくことも出来なかった。


 そもそも、彼らにとって戦うことになる相手が、その男一人だけなのは理解していた。

 ナナ姫を連れている女に戦闘能力が無いことも、イヤというほど分かりきっていたのだから。


 でも、だからこそ、距離を置いて見張っていたのだ。


 相手の実力が分からないのに、迂闊に飛び込むなんてこと、出来はしない。

 まして相手は、あの二人を自分達の包囲から逃がしたほどの実力者。

 金属の武器を使いながらも、『変化術』の能力も高い、厄介な相手。


 それ故の、この距離での挟み撃ち。

 片方へと攻撃が集中した隙に、片方が攻められるように。

 男が別行動を取らざるを得ないようにするために。

 一緒に行動しようとも、すぐさま包囲を果たせるように。


 その場で応戦を始めれば、両サイドから一斉に攻撃が可能な距離。

 片方に対応すれば、もう片方が例の二人を狙えるように。


 そう……包囲であろうとなかろうと、彼等のすべきことに、なんら変更点は無かったのだ。


 だが、その考えは間違いだった。

 まさか男がこれほどの広範囲攻撃を、これだけ離れた位置から行ってくるとは思わなかった。


 しかし、同時に理解もした。

 これほどのことを行い、二人と一緒に逃げる際も草を操作したことから……彼には、木の才能持ちであるのだろう、と。

 そう、予測を立てることが出来た。


 それだけ分かればこの状況では十分だ。

 木の才能持ちということは、周囲に草木があれば強くなるのは必然。

 しかしこの草刃の雨を放った時点で、草木は既に存在しない。

 『変化術』で作り出すためのひとつ前の水も、その周囲には無い。

 土から金と水を挟んでようやくとなれば、それだけ攻撃に時間が掛かるということになる。


 ならばもう、こういった予想外の攻撃を防ぐために、これだけの距離を取っておく必要も無い。


 相手の実力は理解した。

 隠している部分があるにせよ、この十三人で攻めて負けるほどのものは無いと予想。


 故に、彼らは一息に、距離を詰めることを選択した。


 圧倒的な数の暴力で、目標共々討ち殺すことを。

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