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宿の中の出来事(3)

前回のあらすじっぽいもの:訓練のために裸になってテンション上がってたせいで、裸なのに二人を招き入れてしまうというミス

「…………誰が悪いかと言えば」


 キチンと服を着、コガとナナ姫を招き入れ、とりあえず二人を一つのベッドに腰掛けさせ、自分は床で正座をしてから、アキラは重々しく口を開いた。


「間違いなくオレだ」

「でしょうね」


 間髪いれずだった。


 上から見てくるコガの瞳は鋭い。

 元々目つきが悪かったが今はそれ以上だ。蔑みの追加効果まで付与してくれている。


「入っていいかどうかの確認をして入ったらまさか入っちゃだめな状態だなんてふざけているにも程がある」

「返す言葉も無い」

「は? 謝る気あるの? 誠意が感じられないけど」

「……返す言葉もございません……」


 頬を殴られたような言葉に、視線を合わせる事が出来ず俯くことしかできない。


「本当、お二人に不快になるものを見せてしまい、申し訳ありませんでした……」

「そう。それでいい。あなたは他人に裸を見せたい変態みたいだけど、大いに反省して」

「いや決してそんな性癖はないけど……」

「あ?」

「ドスを効かせないで……いやでも本当、そんな性癖ないんです……はい」

「じゃあなんで裸だったの? 水がめ使って入浴でもするつもりだったの?」

「いえ、そうではなくて……あの、『変化術』の訓練でもしようかと……思っていたところで」

「建物の中で?」

「建物の中でです、はい」


 人工的な建物に囲まれた状態で『変化術』を使う。普通なら信じられないことだけれど、あれほどのことが出来るのならそれぐらいの訓練をしないといけないのかもしれない、とコガは思った。


「『形態変化』の訓練はちょっと、その、ムリでしたけれど……『変化術』ぐらいなら集中すれば出来たので、少しでも人工物を取っ払ってしようかなと、思っていたところで……裸になって……忘れてしまっていたかのように、二人を招いてしまった所存です……」

「……で? それは、裸のまま招き入れる理由にはならないけど?」

「それは……その……なんか……すごい興奮してて……つい、としか……」

「うわっ……」

「いやホントドン引かないで……っ! 言ってるオレだって自分のことながら若干引いてるぐらいなんだから止めてくれ……っ!!」

「やだ、変態……?」

「違うと声を大にして言いたい!」

「一緒に旅をすることになった相手が変態だなんて……………………」

「なにっ!? その無言がすっげぇ辛いんだけどっ!!」

「ま、まあ良いじゃないですか、ね?」


 と、コガの隣に座り、顔を赤くし視線を彷徨わせ、ソワソワとしていたナナ姫がコガを止めに入る。


「ちょっとした失敗でしょうし、そういうのってたまにあるじゃないですか。許してあげましょう、コガちゃん」

「裸のままで人を招き入れるのがちょっとした失敗……?」

「いえ、それはありませんが……でも、なんと言いますか、そういう細かいミスが、ってことですよ」

「でも、部屋の中で裸になって興奮する人だけど……?」

「そ、そうかもしれませんが……」


 と、チラりと、座ったままのアキラを見る。


 その視線に気付いて顔を上げたアキラと目が合って……ちょっと治まっていた顔の赤みがまた真っ赤になった。


「この野郎っ!!」


 ボグゥ!


「いたいっ!!」


 姫のその変化を見たコガはすぐさま先程ナニを見せられたのだと理解し、彼の頬をグーでぶん殴った。


「ちょっ、コガちゃん!」

「止めるなっ! 私は許せんのだよ……純粋で清純なナナに粗末なものを見せた、この男のその罪をなっ!」


 ビシッと倒れたアキラを指差し、朗々とした声で続ける。


「まだ十六歳の少女に成人男性のソレを見せるという精神的ダメージの計り知れなさ……その重みを私は! この男に教えなければいけないっ! このまま夢にまで見てしまうようになって寝不足になり正常な判断が下せなくなって軽い男にホイホイとついていくようになったり、はたまた逃げている途中でソレが脳裏をよぎって足をもつれさせてしまって死んでしまうかもしれなくなったんだぞ!!」

「それありえない被害妄想ですよっ!?」

「私は最悪を想定しているだけだっ! もしこの男が露出癖のある変態だと言うのなら、この場で契約を解消することも厭わない覚悟だ!」

「で、でもアキラさんがいてくれた方が、もし戦いになったときに助かりますから……それは……」

「ナナちゃんの近くに変態を置く方が心配だっ!」

「あ、あたしは大丈夫です! それでコガちゃんが今日みたいに傷つくことがなくなるなら……!」

「今日のはちょっとしたアクシデント! さっきも言ったでしょ!? 次からはあんな露骨な戦いにはならないから大丈夫だって!」

「で……でも……。……いえ、そもそもアキラさんが変態でなければ済む話です。ねえアキラさん?」

「ん、はい?」


 さっきまでと違って元気だなぁ……これが本来の彼女たちなんだろうなぁ……なんてことを二人のやり取りを見ながらボンヤリと図々しくも他人事のように考えていたアキラに、話を振ってくる。


「アキラさんは決して、あたし達に裸を見せたかったわけではないですよね?」

「もちろん。さっきも言ったけど訓練しやすくするために脱いでただけ」

「ということは、先程否定していた通り、裸を見られて興奮するわけではないですよね?」

「……………………もちろん」

「変態だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」


 神様に見捨てられたかのように、頭を抱えて天を仰いで目一杯にナナ姫が叫んだ。


「ち、違うって! ちょっと! ちょっとした茶目っ気だからっ!」


 なんて必死に間を開けた言い訳をするけれど、アキラの内心には数年ぶりに灯った感情があった。


 今まで一人旅だったから忘れてしまっていた気持ち。

 誰にも自分を見せることがなかったが故の反動。

 自らの努力の証ともいえる鍛え上げた肉体を偶然とは見せ、こうして色々と話をされたことで思い出した、その懐かしさ。


 それは昔、『変化術』を鍛え上げ、その結果を見せた時に「凄い」と褒められた時と同じ。


 自分の頑張りを認めてもらえたことによる、喜びだった。


 ただ、あまりにも昔の出来事過ぎて、アキラ自身、その感情が“喜び”だと気付かず、ともすれば“悦び”の方に感じてしまっているのが問題なのだが……。


「いやもうホント、裸を見られて興奮してるとか、照れる二人を見て歓喜してるとか、本当そういうのじゃないからっ!!」

「…………どうしましょう、コガちゃん。あたしもちょっと、一緒に行くのを止めた方が良いかもと思い始めています……」

「それが良いって、ナナちゃん。きっとこの男は女の子二人と旅をして裸を見せたいとかそんな邪な感情を持ってる人だから」

「言いがかりがすぎるっ!」


 結局この後、今回のことは本当に事故ということで片がつき……もう一度同じようなことがあれば「あの時のはワザとだったんだ」ということにしよう、となった。


 あと「露出癖のある変態」というレッテルが剥がれることはなかった。

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