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旅の始まり(5)

前回のあらすじっぽいもの:敵の気配を察知するコガ

「……何人?」

「……さっきと一緒」


 その答えに、そっか、と返事をしつつ、アキラは広げた地図をナップザックへとしまい立ち上がる。


「それじゃあ、さっさと移動しようか。戦わないで済むなら戦わないほうが良いからね」

「……分かった」


 アキラの提案にコガも同意を返し、ナナ姫も「行きましょうか」と立ち上がる。


「っ……」


 その時、ふらっと足がもつれた。

 コガが咄嗟に、倒れる彼女の背中へと手を伸ばす。けれどなんとか自分の足で踏み止まった。


「……ごめんなさい。ちょっとしゃがみ過ぎたのでしょうか。立ちくらみしてしまいました」


 照れ笑いを浮かべてそう言うが……その顔には疲労の色が濃く、声もまた無理しているのが分かるものだった。

 けれども必死にそれを隠そうとしているのも分かって……走っても大丈夫か、と確認したところで、大丈夫じゃなくても無理して微笑ませてしまうのが分かってしまうほどで……。


 これじゃあ逃げるのは無理か……戦闘になるかもな、とアキラが考える中――


「……大丈夫」

「え?」

「さっきと違って追われてない……だから、もう今日はあんな疲れるようなことはさせないから」


 ――コガはナナ姫の頭を、今まで見たこともないほどの安心する優しい瞳を浮かべながら撫で、さっきまで聞けなかった力強い言葉で、言った。


「だから、安心して……私に任せて」


◇ ◇ ◇


 “変化術”はとにかく人工物に弱い。

 特に人工性の強い鉄やコンクリートとなると、靴越しに踏んでいるだけでも、途端に使えなくなる。


 故に、安心して眠るためにはどこかの宿泊施設に入るのが一番だ。


 ……それはアキラも大いに理解している。


「それでは、荷物をお預かりします」

「あ、うん。……どうも」


 けれどもこの、マントも含めたほとんどの手荷物をフロントに預けなければいけないというのが慣れない。近くに身を守るためのものがないだけで不安になる。


 だから彼は、基本的に野宿ばかりをする。

 汗でベタベタしても『変化術』を用いて水を作り、水をお湯へと『形態変化』させて浴びれば済む。なんなら土のある地面一帯にソレを行って疑似温泉を作り出すことだって出来る。

 服の洗濯だって同じ要領でできる。彼は菌を殺せる水成分を作り出すことが出来るほどなのだから。

 眠る場所だって、木や土を『形態変化』させて暖を取れるような形を作り出せば良い。寒さが酷ければ火の『形態変化』を巧みに操作して適温環境を作り出すのも造作無い。


 変化術の上手さ=サバイバル能力の高さ、という図式が成り立つ良い例である。


 ただそれが出来るのは、彼のように眠っているところを襲われてもすぐさま反応でき、反撃して打ちのめせるほどの腕がある場合だけ。

 ナナ姫やコガはそうはいかない。だからこそ、こうして旅費がかさむ事になってでも施設に泊まることを選んだのだろう。


「…………」


 いや、コガの方は大丈夫か、とすぐさまアキラは自分の考えを否定する。


 ……あの後……再び敵の気配を感じるといった、その後……コガは本当に、この宿泊施設を見つけるまで、敵と遭遇することなく、移動を果たした。


 それも極力、目的地である東に向けて歩くようにしながら。


 時には立ち止まり、時には道を逸れながらも、確実に東に進んで……日が落ちるまで歩いて、このただ寝ることだけが出来る、入浴設備が整った宿泊施設を見つけるまで、敵に見つけられることなく、静かに歩いていくことが出来た。

 まるで「ちょっと道に迷いながらもここが目的地でしたよ」と言われても遜色ない移動時間と距離と道順だった。


 本当に巧い。

 敵から逃げる。

 ではなく、敵と対面しない術が。


 究極の護身。

 戦わない為の戦い。

 それに特化している人だった。


 となるとやっぱり……普通に女性だから安心して眠りたい、というのが大きいのだろう。

 そこまで出来る人が、敵に襲われる前に気付けない、ということは無いはずだから。


 その結論に至って、アキラはフロントから受け取った鍵の番号の部屋へと向かう。


 コガもナナ姫もとっくに部屋へと向かっている。下手したらとっくに到着してくつろいでいるかもしれない。

 何とか手持ちの装備から隠れて持って入れそうな短剣二本を身に付けている間に、彼を置いて先々と入っていってしまった。


 当初アキラは、二人とは別でいつも通り野宿をするつもりでいた。

 だって同じ路をいく約束をしただけで、同じ目的で旅をしている訳ではないのだから。

 手持ちの旅費も違えばサイフの共有なんてしているわけがない。

 そんな状況で相手に合わせて宿を取り、旅費を減らすのもどうかと思うのは普通のことだと彼は考えたし、実際にそう言った。


 だがその旨を聞いたナナ姫が、なんと、自分たちが宿泊費を出す、と言い出したのだ。

 ほぼ素泊まりだけの施設でそれほど高くないから安心していい、と気を遣わせまいとする一言付きで。


 それにはさすがにコガが難色を示すかと思いきや――


「建物の中は襲われる可能性が低いだけで襲われないわけではない。だからイザという時のために隣の部屋に泊まって欲しい」


 ――と、これまた予想外なことを言ってきた。

 旅費なんて出したくないと言われるだろうな、とアキラは思っていただけに、その言葉に二の句を継げなくなってしまって、気がつけば泊まることになっていたのだ。

「旅の始まり」はこれで終わりです。気が付けばお気に入りが無くなってるんだよなぁ…ヘコむ。まぁ下手だから仕方が無い。そう自覚していても続けていきます

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