異世界に着いて
それからシェールは、何も無い道をひたすらに歩き続けた。両横は何も無い草原で、石が取り除かれて草が抜かれている、わだちの跡が残っていて、デコボコしている。土を盛って舗装のされた道をひたすらに歩いているのだ。
「なあ……どこまで行くんだ?」
当一がそう聞いてもシェールは返事一つ無しで歩き続ける。ずっとこの調子である。一言も会話をせず、行き先も分からずに、当一はシェールの後をついていっているのだ。
最初は丁寧な態度を取っていたが、いまはこのような素っ気無い態度を取られている。
「もしかして、怒っているのか?」
「怒ってなんかいない」
当一の質問にシェールは否定の返事をした。だが、こういう返事が返ってくる時は決まって相手は怒っているものだ。
「俺が何かしたのか? 最初はあんなに丁寧な態度取っていたじゃないか」
「あれは、私の誇りだからよ。騎士道は私の行動の規範なの」
「あのレディファーストとか手袋を投げて決闘するやつか?」
「それとは違うわ。騎士道っていうのは、強くあり、優しくあり、正しくあり、勇ましくあり、そういった、強い心を持つための気構えの事よ。
レディファーストっていうのは、社交界での女性に対する礼節だし、手袋を投げるのは、ただの決闘の合図よ」
シェールは、突然当一の行動を手で制した。それで足を止めた当一。
腰に刺してあった剣を抜き、街道の先へと切っ先を向けた。目の鋭さは、敵を射抜くようなものになり、横からそれを見ている当一も冷たさを感じる。
シェールは道の先に見える人影を見ている。小さな影と大きな影が一つずつ。女の子と男であろうというのが分かった。
その人影はこちらに気付くと、女の子は自分達に背を向け、男の手を引いて走り出した。
「逃がすか!」
シェールは、その人影を追っていった。それに当一も続いていく。