異世界へ……
「起きた?」
それが。当一が目を覚まして始めに聞いた声である。目を開けると、青々とした空が目に写り、背中には柔らかい草の感触を感じる。当一は、見知らぬ場所にいた。
ここは小高い丘のようである。眼下にはいっぱいに海のような草原が広がり、その草原の中に浮く木の葉のように存在する、壁に囲まれた町が見えた。
青空にはいわし雲が浮かび、涼しくすごしやすい風が吹いた。
「どう? いい景色でしょう?」
どう見ても、ここは日本のようには見えない。まるで、外国の中世の時代の姿に見えた。
その景色を不思議に思い、当一は呆然として見入っていた。
そこに横から声がかけられる。
「い…い…け…し…き…でしょう! 返事くらいしなさいよ!」
横からそう声をかけてきたのは、さっき自分の部屋の中にいた戦士の姿をした女の子だ。
「いい景色も何も……ここはどこなんだ?」
その当一の返事に、その子はむっとした顔を作った。
「私たちの住む世界。名前はレイグネン……」
当一は、さっきこの子が言った言葉を思い出した。彼女は当一達の世界の人間ではない。そして、ここが彼女達の世界という事だろう。
「ついてきなさい」
彼女は、当一が呆然として頭を抱える時間も与えてくれはしないようだ。そのまま歩いていってしまう。
「待てよ!」
当一がひきとめようとしても歩みを緩めずにそのまま歩き続けた。仕方なく、当一は彼女の事を追いながら話を続ける。
「名前をまだ聞いていなかったな。俺は当一って言うんだ」
「シェール」
彼女は短く答えた。シェールは、それから当一の方を一度も振り返らずに、早足で歩き続けた。