シェールの決闘
その直後、私は風呂場に行った。
体が汚れているように感じる。
ヴィッツが触った私の胸に、いまだに虫が這い回っているような感覚が残っていた。何度も石鹸を塗ってこすってもその感覚は消えない。それどころか、その感覚は体全体に浸食をしていくように感じる。
やがて、私はその無駄な行為を止めた。シャワーを頭から浴びながら自分の体が汚れていっている感覚に浸る。
この感覚はずっと消えないだろう。私は、いずれはこの感覚に慣れていくに違いない。
決闘はシェールが勝った。
ぎりぎりの辛勝であり、戦いは常にゼルの優勢で進んでいた。だが、決闘は結果が全てだ。シェールは師匠の敵討ちを果たしたのだ。
私は胸のすかない感じでそれを見た。
正直に言って、シェールが羨ましかった。私には私の敵討ちがある。だが、彼女のように、表を歩いたまっとうな方法ではない。このように、まっとうな方法で敵討ちを果たした彼女を、私は心の隅では呪ったのだ。
自分には関係ない。私には私の道がある。そう思い、私はその想いを胸にしまった。
虎視眈々と機会を狙い続けるうちに、ヴィッツは紅茶に砂糖を入れる事に気付いた。私はいつも、砂糖は使わない。甘い臭いが紅茶の風味を損ねるのが嫌というのがその理由だ。
私は砂糖の中に白い粉末状の毒を混ぜ、ティータイムの時間を待った。
指導の休憩時間に、使用人の淹れてきた紅茶を二人で飲む。ヴィッツはいつも通りに紅茶に砂糖を入れる。
心臓がバクバクと震える。今まで心待ちにした瞬間がやってきたのだ。シェールはすでに果たした敵討ち。それを実行する時がやってきたのだ。
ヴィッツの動きは普段どおりのものであったはずだが、それが、やたらと長く感じた。
スプーンを使って紅茶に砂糖を入れる動作。ティーカップを皿ごと持ち上げる動作。口元にカップを持っていく動作。
それらの動作を、視線を自分の紅茶に落としながら横目で見つめた。
計画はあっけなく成功し、ヴィッツは泡を吐いて絶命をした。
突然の事に、その場にいた使用人は慌てふためき、屋敷の人間にこの事を報告した。
私は、その使用人が他の人間にこの事を話すのを止めなかった。
知れ渡るのならば知れ渡ればいい。私はこれで目的を果たしたのだ。
何も思い残す事はない。
その時。私はこの笑い方を覚えた。見た人間が自分の事を恐ろしがるこの不気味な笑い方を覚えたのだ。
私にどのような罰が下される事になろうとも、それを受けよう。その時はそう考えていた。




