壊れかけたリーシア
シェールは時間と場所を私に告げたらすぐに帰っていった。
彼女とはつもる話もあったはずである。だが、シェールにとっては、もうそんなものはどうでもいいのかもしれない。
シェールは口に出して私を責めたりはしないものの、今となっては、私はシェールの敵の部類の人間なのだろう。寂しい気持ちになるが、それはしょうがない事だ。
私には私の戦いがある。そう考える事で、私は自分を納得させた。
陰鬱な気持ちで私は屋敷の廊下を歩く。
そこに声がかけられた。
「リーシア。本人から決闘の話を聞いたらしいね」
私を呼び止めたのはヴィッツだった。気分の沈んでいるところに嫌な奴に声をかけられた。そう思うが、私はそれを顔には出さずにヴィッツの言葉に答える。
「はい。そうですが、それがどうしたのでしょうか?」
「どうしたのでしょうか……ね」
これは私にとって小さな出来事であるわけが無い。狙って気にとめていないように言ったのが、ヴィッツの癇に触ったらしかった。
「まあいいさ……ゼルに言われてね。シェールはどんな武術を使うのか? 弱点なんかないか? 君は知らないかい?」
敵情視察だ。シェールの使う剣術、彼女の戦闘スタイル、それらを私から聞きだすつもりらしい。
私はどう答えるべきか考えた。いくら堕ちたといっても、友人を売る事などできない。
「剣術の事は、私はさっぱりでしてね……彼女は剣を使って戦う。それ以外の事は分かりません」
「……前々から思っていたんだがね……君は僕の事をあまりよく思っていないようだね。君の師匠たちを決闘で倒した。それをいまだに不満に思っているのかい?」
私は本音を押し隠して答える。
「レーズは弱いから負けた。自分に師事を与えてくださる方は、強い方である方がよろしいに決まっています。レーズに勝ったあなたに、何の不満もあるわけがございません」
「それは、僕の事を敬愛してくれているっていう事かい?」
そして、ヴィッツは私の胸をまさぐった。
「僕からもその愛に答えないとね。嬉しいかい?」
まるで、虫が体中を這い回るような不快な感覚を感じた。ヴィッツの手を通して私に嫌なものが送り込まれているように感じる。
その時、私はヴィッツに深い殺意を覚える。だが、すぐに思い直す。殺意を感じているのはいつもの事である。ここは冷静になり、この状況を逆手の取ってやろうと考えた。
「はい。嬉しいです」
そう言って、いまだに私の胸に、蠢くように指を這わせているヴィッツの腕を抱きしめた。
そうすると、ヴィッツは、私の事を、恐ろしいものを見るかのようにした後、私の腕を振り払った。
「まあ、何も分からないというならそれでいいよ」
ヴィッツはそう言って、私の前から立ち去っていく。




