一美の特訓
放課後になり、この学校の武道場では剣道部の練習が始まる。
竹刀を振って練習をしている剣道部の部員達とは離れたところに、当一と一美の特訓スペースを作られていた。
一美の言った言葉ははったりではなかった。
今までの練習が手加減のされたものだと散々思い知らされた後、いつも以上に体を打たれまくり、走らされた当一は、ぐったりして武道場の床に倒れた。
「すこしきつすぎたか?」
一美の言葉に、当一は一言も返す事ができなかった。疲れで頭が回らなかったし、口を開くのも面倒なくらいに体が疲れていたのだ。
その当一の額に、濡れたタオルが当てられた。
袴をまくって足にもかけられたし、散々に一美が打ち込んだ腕にも濡れたタオルが当てられた。
「ぬるくなったら言ってくれ。取り替えるから」
「ありがとう。一美」
「いやっ……礼を言う事じゃない! 運動をした後には体を冷やしておかないと……」
額に当てられたタオルは目まで覆っているので、一美の顔を見る事が当一にはできなかったが、一味ははずかしそうにして顔を赤らめていた。
その一美は言う。
「お前が私に頼み事をしてくれるっていうのは嬉しいな。お前が私の事を必要としてくれているっていうのが、なんか心地よい」
「大げさだぞ」
一美の、取り方によれば愛の告白とも取れる言葉に、当一はそうやって返した。
一美は一体どのような気持ちでそう言ったのだろうか? 当一に自分の気持ちを気付いてほしくて言ったのかもしれない。だが一美は、当一の無粋な返事に笑顔で返した。
「そうかもな」
いつもは凛とした一美は、その時だけはにかんだ笑顔を見せた。それを向けた当人にはタオルが邪魔をして届かない。




