一美に呼ばれて
「何をやっている当一! もうすぐ授業が始まるんだぞ!」
まだ、予鈴も鳴っていないというのに、一美が教室の前から言ってきた。
「大声で言わないでくれよ恥ずかしい……」
一美が相変わらず当一に対して世話を焼くのは、この学校では周知の事実になっている。クラスメイトからもその事でよく冷やかされるため、こういった多くの人の目に触れるような事は、当一にとっては止めてほしいものである。
入り口を通り、げた箱から上履きを取り出そうとしている時だ。当一の真横にシェールが飛び降りてきた。
カァン!
当一がシェールの方を向くよりも早く、金属と金属がぶつかるするどい音が周囲に響く。
叩き飛ばされたナイフが当一の目と鼻の先の場所に刺さり、それで初めてあの魔術師がナイフを投げてきたのだと分かった。
ナイフを叩き落したシェールは、魔術師に向けて一気に間合いを詰めていった。
シェールの袈裟切りを、体を傾けて紙一重でかわす魔術師。
その様子は、映画のシーンのように鮮やかで、この世で起こった事ではないような感覚を覚える姿だった。
魔術師はバックステップで距離を取る。それを、シェールはトップステップで追っていく。
シェールの攻撃を、魔術師は杖で受け止めたり、ぎりぎりでかわしたりしながら、しのいでいた。
二人は無言で身を絞るような戦闘をする。
魔術師は、シェールから逃げながら、当一の方へと向かってきた。
武術には多少の覚えがある当一である。魔術師を倒す絶好の機会であると思った。
拳を握り締め、腰だめにかまえて魔術師まで走りよる。
「バカッ! やめなさい!」
シェールが言う。
魔術師は当一の方を向き、足を地面にしっかりと付ける。両手で杖を持って当一に向けて突き出し、当一の腹にめり込ませた。
「そいつは杖術を使えるのよ!」
シェールが言う。だが、もう遅かった。魔術師は次の攻撃に移り始める。
当一は、腹を殴られて体をくの字に曲げる。そこに、魔術師は脳天に杖を振り下ろすためにマジックワンドを振り上げた。
天井に向けて大きく振り上げられた杖は、シェールが剣で叩き飛ばす。
魔術師はそれから杖を拾い、学校の入り口から外へと消えていった。
腹を殴られ、痛みでうずくまっている当一。それを呆れた視線で見下ろすシェールは言った。
「あんたなんかが太刀打ちできる相手じゃないの。鍛え方が違うんだから」
当一は、シェールの事を助けるつもりで魔術師に食って掛かった。だが、まったく太刀打ちできない。
シェールは一睡もせずに、当一の事を守っている。だが、そんな事は無駄な行為であると思った。そこまでして無理をする事は無いと思った。シェールにどこかで腰を落ち着けて休んでもらおうと思った。
だが、そのシェールの助けが無かったら自分は今死んでいただろう。
当一は、自分の考えの浅はかさ、そして自分のふがいなさに唇をかんだ。
「まあ、これで貸し一つになるわね」
シェールは、当一の事を見下ろしながら言う。顔には何も表情は無い。当一はこれだけ悔しがっているというのに、まったくそれを気にとめていないのだ。
「これに懲りたら、素直に私の言う事をちゃんと聞いて。いいわね」
騒ぎを聞きつけたのだろう。何人かの人が走ってくる足音が聞こえてくる。
シェールは人に姿を見られないように、その場から去っていった。




