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シェールのシュヴァリエ  作者: 岩戸 勇太
王を、決める戦い
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学校に着いて

「警官なんて嫌いだ……」

 警察官の事情聴取を受けると、皆一様にそう口にするのだという。

 警察署から出る事ができたのは、学校が昼休みの時間になってからであった。何を言っても信じてくれない警察は身元のメモを取られ、指紋まで取られてから、証拠不十分だという名目で釈放された。

 当一は、警察署からそう遠くない、自分の通う菜琴なごと中学校に、憂鬱な気分で自転車に乗って向っていた。

「あいつはうるさいだろうな……」

 いつも当一にちょっかいをかけてくる奴がいるのだ。あいつは、やたらと正義感が強くて、くそが付くほどの真面目ぶりから、当一にとっては煙たい存在だった。

 学校は徒歩で数分とかからない場所である。今から教室に向うと、まだ昼休みの半ばの時間に教室に着くだろう。

 そうなると、残った休み時間が全てあいつの小言を聞くのに消費されるのは火を見るよりも明らかであった。

 あいつが自分に向って言う言葉は手に取るように分かる。「一体いままで、どこで何をしていた?」と言われ、警察署にいたと言ってしまうと「お前は一体何をやったんだ?」と続き、本当の事を言っても「何もしていないのに警察署に呼ばれる訳が無いだろう」となり、最後にはお決まりの言葉である、「修練が足りん! 鍛え直してやるから放課後に武道場に来い!」となっていく。そして、もし逃げたらさらに手ひどい目に遭わされる。「貴様! 逃げるとはどういうつもりだ!」という言葉から、地獄のような責め苦が始まるのだ。

「怒られるしかないか……」

 逃げても追って来る。その点については彼女はしつこい。痛い腹があるなら素直にさらけ出してしまうほうが、彼女の心象もよく、ダメージも少ないのだ。

 憂鬱な顔をして、当一は教室に向かって行った。


 一美いちみという少し変わった名前の読み方をする彼女は、昼休みの時間中ずっと教室の入り口を凝視していた。

 彼女は、長い髪をしており前髪をそろえている。凛とした顔立ちをしている彼女は、学校の制服を着ていても、剣道少女という文字を顔に貼り付けてあるような雰囲気を放っていた。

「一美さん。遅れてしまって申し訳ありません……」

 一美は、そう言いながらおどおどして入ってきた当一を見かけると、当一の方へと歩いていった。

 次の彼女の言葉が想像できている当一は、引きつった顔をしながら、彼女の事を見た。

「一体いままで、どこで何をしていた?」

 当一が弁解の言葉を出す前に、一言一句が当一の予想と間違いのない言葉を放った一美は、睨んで当一を見上げた。背は一美の方が少し低いくらいだ。それでもこの年代の女の子の中では高いほうであり、当一の鼻の先に一美の目がやってくる。

「こっちだって大変だったんだよ……すぐ横で木が倒れたり、目の前でいきなり地面が盛り上がったり……」

「あれか……あれなら私も通学の途中で見たが、あれがすぐ横で起きたのか?」

「ああ……すぐ横だった」

「怪我はないか……?」

 そうすると、一美は当一を睨む目から、急に心配をするような優しい目になっていった。彼女のそういうところも、当一にとっては苦手であった。

 まるで自分の母親のように自分の事を心配するのだ。自分が風邪をひけば家が遠いのにもかかわらず、必ず看病にやってくる。だが、彼女が風邪をひいて、当一が彼女の看病をしに行くと、彼女は風邪がうつるといけないと言って、当一の事を追い返すのだ。本当に、自分の母親のような態度である。

 その彼女は、少し涙がたまってうるんだ瞳をしている。

「ああ……お陰様で怪我はまったくない」

「そうか……よかった」

 いつもその言葉を聞くと、何か自分が悪い事をしたような気がしてくる。いつも凛とした容姿の彼女が、不安で泣き濡れる顔に変わってしまうのだ。当一にはそれが耐えられない。

 当一の心を痛める顔をやめた一美は、すぐに元に凛とした顔に戻った。

「なら話の続きだ。今まで何をしていたんだ?」

 当一は観念して正直に答える。そしたら、予想通りの結末が待っていた。

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