その頃の一美は
一美の家は、昔から続く武家というやつだ。
先祖が侍であったという言い伝えがある、彼女の家。先祖代々受け継がれてきた一等地に存在している広い土地には、道場や茶室などもあり、庭からは獅子おどしの音が聞こえてくる。
父親は、警官として働いており、剣道の腕も、全国クラスだという話だ。
その家の一室で布団を敷いて寝ている一美は、いつもどおりの朝を迎えた。
彼女は、いつも暗いうちに目を覚ます。
そして、寝巻き姿のまま家の門まで行き、ポストに投函をされている新聞を取ると、家の居間にあるテーブルに置いておく。
後で、起きてきた彼女の父親が、その新聞を読み始めるのである。
貫禄のある、古風な父。それに合わせるように、昔の日本の女性といった感じのまた古風な母親。
この二人に厳しく躾けられた一美は、その躾に従って今の時代には似つかわしくないくらいに、厳格な人間に育っている。
一美は、家の道場まで歩いていく。
そこで、寝巻きから道着に着替え、木刀を使って素振りをはじめる。彼女は、毎日朝の稽古をしているのだ。
秋の早朝は、体が芯まで冷えてきそうなくらいに寒いが、その寒さを身に感じながら木刀を一心不乱に振り続ける。
「綺麗な太刀筋っすね……この世界の人間にしては……」
どこからともなく声が聞こえてきて、一美は素振りを止める。
道場の入口から入ってきたその人影に向けて、一美は振り向いた。
「勝手に上がらせてもらったっすよ」
靴を履いたまま道場に上がってきたその相手を、一美はキッ……と睨みつけた。
「道場は、土足禁止だ」
「ああ……すまないっすね。この世界の常識には疎くて……」
何か意味ありげな事を言ってきたその相手に、一美は木刀の切っ先を向ける。
「何者だ? 『この世界の常識』っていうのはどういう事だ?」
その相手は、靴を脱いでそれを道場の外に放り投げた。
礼儀のなっていない行動をするのを見て、一美はさらに険しい顔をする。着ている服も、何かのゲームの剣士のコスプレ衣装のような姿である。
一美でなくとも、十分不信に思える格好であるのだ。
「そんな顔をしないで欲しいっす……これから説明をするから、聞いて欲しいっす」
その女の子は今の状況について、話を始めた。




