表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シェールのシュヴァリエ  作者: 岩戸 勇太
王を、決める戦い
1/176

プロローグ

  普通の一軒家の、門の前で、一人の女の子が立ち止まった。

 中学二年生の女の子。可愛いか? 美人か? と聞かれれば、間違いなく美人の部類に入る女の子の、一美いちみが、山田やまだ 当一とういちという少年の家の前に現れた。

「おい! 当一! 返事をしろ!」

 幼馴染である当一を、一緒に学校に行くのを誘うため呼び出しているのだ。

 だが、家の玄関を開けて、中から出てきたのは、当一ではなく一人の女の子だった。

「お前は……なんでここにいる?」

 一美はその相手を睨みながら言う。

 髪の色は白。目の色は赤。

 到底日本人には見えない風貌の女の子は、一美の事を、キッ……と、睨みつけた。

「私はシェール・グスタークというのよ」

 シェール。そして、一美は睨み合った。

「二人とも、なんで、こんな所でつっ立っているんだ?」

 にらみ合いをする二人に声をかける。その少年が当一だ。

「あんたは関係ないでしょう!」

 シェールが言う。

「お前は黙っていろ!」

 一美も当一に向けて言った。

「待て! 待て!」

 二人の剣幕に、全く物怖じをせず、当一は二人の間に入っていった。

「今の状況を、分かっているのか?」

 一美は、二人の間に割り込んできた当一に向けて言う。

「分からん。説明してくれ」

 無神経な言いようの当一を、二人は同時に睨みつけた。

「お前のせいでこうなっているんだ!」

 その言葉は、二人同時だった。 当一にとっては、身に覚えのないこと。そして、この状況を全く理解していない当一の鈍感さに怒りを感じて、歯ぎしりをする一美とシェール。

「なんで、彼女が男の家にやってきた時、見知らぬ女に出会い、女の意地をかけた、バトルが始まる……みたいな状況になってるんだよ!」

 当一が言うと、一美とシェールは怒りで体を震わせながら、二人揃って奥歯を噛み締めた。

「そこまで分かっていて……」

 一美が言う。

「何で分からないのよ……」

 この言葉を言ったのはシェールだ。

 そこに、また一人の女の子が、当一の家の奥から出てきた。

「何よ? 玄関先で大声を出して?」

 紫色の髪をした女の子が出てきたのだ。

「お前が、なぜ当一の家に?」

 その女の子を見て、唖然とした顔をした一美。そして、すぐに険しい顔つきになって、当一に向けて言う。

「どういう事だ! なんでお前の家にいきなり女が二人も住んでいるんだ! 説明しろ!」

 一美が当一に向けて詰め寄っていく。

「いや……二人じゃなくて、実は四人……」

「他にもいるのか! どういう事か、通学路で説明してもらうぞ!」

 一美が当一の手を握り、引っ張っていく。逆の方の手をシェールが掴む。

 一美とシェールが、当一の右手と左手を持って、まるで綱引きのようにして引っ張り合った。

「今から、私は当一と一緒に学校に行くんだ! その手を放せ!」

「二人で学校にいくなんて、気に入らないわね! あんただけで先に行きなさい! 五分くらいしたら手を放してやるわ!」

「俺は大岡の裁きの女の子か!」

 紫の髪をした女の子は、その様子を難しい顔をして見つめていた。

「当一……どっちかを選ばないと、あなたは真っ二つに千切れるわよ……」

「選ぶってなんだよ! 何を基準にして選べと言って……」

 言葉は、それ以上続かなかった。一美が当一の手をいきなり放したからだ。「シェールと言ったな……この決着はいずれ付けるからな!」

 そう言い、一美は学校に向けて歩いていった。

 思いっきり当一の事を引っ張っていたシェールだったが、一美が手を離した瞬間に当一からは興味が失せたような感じで、当一の事を地面に投げ出した。

「おい……せめて転ばないように手を貸してくれよ……」

 地面に倒れながら言う当一だったが、それに、冷たい視線を向けるシェール。

「うっさい……死になさい」

 シェールが言ったその言葉は、当一の心にグサッときた。

「何で……そんな事を言われなきゃ……」

 この状況を分かっていない当一。

「これは、あなたが悪いわよ」

 紫の髪の女の子も、当一に向けて言い出した。

 家に、四人もの女の子が住んでいる理由。それは異世界の戦いに、巻き込まれたからだ。

 全ての発端は、その日から一週間前の話になる。


 山田やまだ 当一とういちは、典型的な冴えない中学生男子であった。

 学校での成績は真ん中で、補習や追試を受けるような事はないまでも、いい成績とは言えない。

 彼は今、枯葉が落ちる道を自転車で走っていた。

 街路樹が等間隔に植えられているこの道は、朝の通勤通学の時間帯になると、適度の混みようを見せる。今の当一は歩く人を避けて、自転車用の路側帯を走っていた。 当一は、このまま学校に向って走れば、遅れずに学校に着くはずである。

 だが、突然彼の横の木が、いきなり鋭利な刃物で切り裂かれたかのようにして倒れた。周りの人間には、驚いて悲鳴を上げる者もいる中で、当一は、何が起こっているか分からずに、自転車を止めて呆然とした。

 未だに何が起こっているのか分からず、木が倒れるのを見つめている当一に声が投げかけられた。

「見つけたわよ。シェールのジェズル!」

 そして、ナイフが当一に向って飛んできたのだ。

 そこに、当一の間の地面が盛り上がって、まるで土嚢のようになり、当一の事をかばった。

「気付かれていたのね……」

 ナイフを投げた本人が歯噛みをしながら発した言葉を聞き、当一は土嚢の向こう側から発せられる声の方を見る。

 ナイフを投げた当人は、見た目は魔術師といった感じである。この時代にそぐわない、まるでファンタジー世界の中から飛び出てきたような、姿をしていたのだ。

 木の頂点に当然のように立っているが、細い枝がその魔術師の事を支えられるようには到底見えない。何か仕掛けがあるのだろう。

 フードと外套に、何かの模様の刺繍されている服を着て、顔は見えないが胸のふくらみを見ると女の子なのだろう。

 次は、当一の目の前にある土嚢を足場にして飛び上がり、剣を振って魔術師を頭から両断しようとする人影が見えた。

 だが、魔術師はすんでの所でその攻撃を避けて、木の頂点から隣の建物の屋上に飛び移る。

 魔術師を両断しようとした人影は、これまたファンタジー世界の戦士のような姿をしていた。

 無骨な剣を、魔術師に向けて突きつけた彼女は言う。

「こっちの世界で相手を襲うのはルール違反のはずでしょう!」

 魔術師も、それに答えて声を張り上げる。

「今更そんなルールを誰が守るっていうのよ。勝てばいいのよ、勝てば」

 その、この世界には場違いな二人は、ルールだの勝てばいいだの、朝の往来で意味不明な会話を大声で始める。

 魔術師と会話を始めたのも女の子だった。

 戦士の顔は、意志の強そうな赤く鋭い瞳。肩にかかるかかからないくらいに伸ばされた白い髪は、しっとりとした光沢を放っていた。

 鎧を着ているが、がちがちに固めた重厚な鎧ではなく、胸の辺りを覆う鎧に手甲と脚絆を装備した軽装である。

「ふん。まあいいわ。今回は引き下がってあげるけど、いつまでもシュヴァリエなんて引っさげていても邪魔になるだけよ。今は手を汚してなんぼの時代なんだから」

「手の汚れた者が国を手にする事になれば、国そのものが汚れる事になるわ」

「自分の手を汚す覚悟も無い人間が、王の器と言えるのかしら?」

 最後にそう言って魔術師はテレポートをしたかのように姿を消してしまった。

 戦士も、飛び回って建物の屋根をつたい当一の視界から消えていく。

「何だったんだよ……」

 当一は、あまりの事に呆然としていた。そこで後ろから肩を叩かれる。

「君。ちょっといいかな?」

 自分の肩を叩いた人間は警官であった。

「これはいったい何だい?」

 そう言って、倒れた木や盛り上がった地面を指差した。

「明らかに君の周りだけで怪現象が起こっているんだよ。知らない関係ないと言われて素直に信じると思うのかい?」

 自分の後ろで木が倒れている。しかも、自分の目の前では土が不自然に盛り上がっている。

 この当一でも訳の分からない怪現象は、当一の周りのみで起こっているのだ。「いや! 俺は何も関係……」

「関係ないと言われて素直に信じると思うのかい?」

 警官は、当一の言葉にかぶせるようにして言ってきた。

 警官に一度疑われたら、信用をしてもらえるまでとてつもなく時間がかかる事になる。それは今回も例に漏れないらしい。

「どんなトリックを使ったかは知らないが、これは公共物破損だよ。ちょっと署の方まで来てもらおうか」

「ええええ!」

 そして当一は、このまま行けば間に合うはずであった学校に、遅れる事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ