六 存在しない四階
この学校って、何階まであるかもちろん知ってるよな。そう、三階だ。屋上を含めれば、四階と言ってもいいかな。
まぁ、ともかく教室があるのは三階までだ。本来は。
あれは、おれが授業をふけてタバコを吸うために便所に歩いてる時だった。
知ってると思うけど、おれ達の学校は教室のある校舎は三つの階段があるだろ。で、トイレはそのすぐ近くだ。
昇降口の近く、真ん中、奥にある階段。そのうち、屋上まで行けるのは両端だけで、真ん中は三階までしかないだろ。
だけどだ。
そん時だけは、違った。
ああ、なんだか知らないけど、真ん中の階段から上の階にいけるようになってたんだよ。
目を疑ったけど、なんでだかな。そん時のおれは特に危機感も持たないで「あっ、この先でタバコ吸えば、誰にもバレねえ」なんて考えてたんだ。
まあ、実際にバレなかったな。だから、つい何人かのダチにも教えちまった。
四階――おれ達はそう読んでたんだけど――そこはどうも授業中にしか行けないみたいで、休み時間とか、放課後は絶対に辿りつけねえんだ。
階の造りも他と同じでな、電気もつくし教室に置いてあるテレビも見られる。まあ、快適っちゃ快適だ。
だから、ダチと一緒になってしょっちゅう出入りしてたんだけどよ、おれはあそこに気に入ってたジッポのライターを忘れちまってからは、なんだか怖くなってな。回数を減らしていって、あの事件が起きてからは行ってねえ。
なんでだか知らねえけど、あの階は次に行った時には前に置いていった物がなくなってるみたいなんだよ。おれはライターを無くすまでは気づかなかったけど、ダチは知ってたみたいだ。
で、怖くなっちまったんだ。なんせ、いつ消えるかわからない階に取り残されたら、どうなるか何てだれも知らないだろ。
そのうち、四階に出入りするのはダチの中でも特にやばいって噂のAだけになった。
まともな不良って言い方も変だけどよ、酒やタバコに夜遊びくらいなんだ、おれ達がするの。でも、Aは違う。もうちょいやばい。薬とかヤクザと付き合いがあるって噂だ。
そのAなんだけど、どうも女を四階に連れ込んでたらしい。一度だけ、見かけたんだけどな。
おしとやかっての? ちと影がある感じで、可愛いってより美人ってのが似合いそうな子だったよ。
真面目そうな子だったけど、まぁAにそそのかされたのか脅されたかして、付き合ってたんだろうな。
おれが最後にAを見た時も、怯えてる風な女の子を四階に連れてく所だった。
で、次の日から学校で見たのは女だけだ。