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三 異世界に通じる大鏡

 大鏡って言っても、この学校だとあそこにしかないでしょ。中央階段の、一階と二階の間に一枚、何代かの卒業生が送ってくれた物。

 これは、それにまつわる話。

 黄昏時たそがれどきとでも言えばいいかな。夕暮れの時間帯に、その鏡には姿を映しちゃいけない。

 その時間、鏡は異世界への扉を開いているから。と言っても、ファンタジーな世界にいけるわけじゃないの。

 よく似た、そうね。平行世界――と言えば、分かりやすいかもしれないわ。

 鏡にはその、平行世界の自分が写っていて、お互いがお互いに入れ替わってしまうのよ。

 平行世界と言っても、本当に何もかもが違うってことはないわ。

 ある一点を除いて、ほとんどが同じなの。

 その世界では、性格が反転しているのよ。

 例えば、自分勝手な人は周りに気を使うように、逆パターンなら反対に、と言う具合ね。


 嘘のようだけれども、本当の話。

 実際に体験したのだから間違い無いわ。


 私はその日、些細ささいな事で友達と喧嘩してね。まぁ、本当に嫌いになってしまったのよ。

 友達――A子としましょうか――はなかなか自分勝手な性格でね? 時間に遅れるのは当たり前、借りたものを返さないこともよくあるけれども、相手がそうすると酷く怒るの。

 私はそんな彼女に嫌気がさしてね、イライラしながら帰ろうとしたところで、ふと階段の大鏡が目に入ったわ。

 帰るとき、ごく自然に目に入ったと言ってもいいかもしれないけれども。

 その時、目眩めまいを少し、覚えたけれども、それだけで何事もなくその日は帰ったわ。

 異変は次の日の朝、さっそく起きていたの。

 私の母はまぁ、世間一般で言えば厳しい方だったのだけれども、その日はやけに優しかったのを覚えているわ。朝、出来立てのご飯が用意してあるなんてこと、高校に入ってからは初めてだったんじゃないかしら。

 それは学校についてからも同じ。口うるさい体育教師は、物静かになっていたし、おとなしい担任は非常に怖い雰囲気をまとっていて、なにもかもがちぐはぐだったの。

 A子も同じ。

 やたらと、周りに気を使う性格になっていたわ。いっそ、卑屈ひくつといえるくらいにね。

 そうそう、不思議と起きた出来事は連続しているみたいでね。この反転した世界でも、前日の私とA子は喧嘩をしたようなのよ。

 朝から怯えた目でこっちを見てくるから、問いただしてみたら、震えながら教えてくれたの。私が知ってることと、同じ事を。

 ああっ、それにしてもあの顔は最高だったわ。普段から自分勝手に振る舞うあのA子が、私の顔色をうかがって言葉を選んでて、本当に可笑しかった。

 それで、私とA子は仲直り。

 もともと、あの子のわがままが嫌で喧嘩してたんだしね。性格がなおったのなら、嫌ってる理由もないから。

 それから、毎日色々と遊び歩いたわ。その都度、A子はあの卑屈な顔を私に見せるの。それがたまらなく、面白くってしょうがなかった。


 でも、ある日。A子はポツリと漏らしたわ。一瞬だけ、ポツリって。


「喧嘩する前は、そんな自分勝手じゃなかったのに」

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